第39話 試作機器

研究室


アトランジュの近くの森で魔物狩りをしていた所、気が付いたら、ここにいた。静音のいた場所は、まるで牢屋そのものだった。ベットとトイレしかそこには置いていなかった。周りは檻に囲まれており、

今、自分がどこにいるのか、分からなかった。檻の周りには水槽がたくさんあり、不気味な光景が広がていた


「私をどうするつもり?」

「なぁに、わしは、実験に付き合ってもらうだけじゃ」

「実験?」

「わしの目的は地上最強の生物を作り出すことじゃ、そのために君を使うだけじゃ」

「私、死ぬの?」

「君は永遠に生物の中で生きるんじゃよ、死ぬなんてとんでもない」

小さな会話から、静音は何を話してもダメだと言うことを悟った。

「そう、なんで、私なの?」

「それはエスカルゴの奴に虫を操作してもらって適合者になりそうな者の血を採取してもらった結果、君が一番いい数字を出したからなのじゃ、まさに奇跡の適合率じゃ」


つまり、生徒の間で話題になっていた、虫の話題はこいつらの仕業だったのだ。


この時、静音は自分の注意が低かったことを後悔した。もっと、天月の助言を強く聞いていれば、こんな状況にはなっていなかっただろうと。

気絶したいなのでもうどのぐらい時間が立ったのか、分からなかったが、この状況では、助けを待つ、他はないだろう。


「さて、君は大切な適合者じゃ、何か食べたいものや飲みたいもの、欲しいものがあれば、用意しよう」

「元の生活」

「それは無理な相談じゃ、せっかくの機会なのじゃ、よく考えておくといいぞ」


そんな言葉を残しながら老人は静音の前を去っていたのだった。


「どうしたら・・・」


自分がどうなるのか、わからない不安を胸に抱えながら、静音は小さく震えていた。


天月は孤児院を後にしたそのままの足で自分の研究室に来ていた。


基本的に魔力はそのままの状態で貯めることは出来ない。しかし、魔力を唯一貯められる物がある。それは自分の体である。これだけだと、何の意味もないと思うかもしれないが、爪や髪など、切り離した後のものにもこれは適用される。つまり、爪や髪を取っておけば、それに魔力を貯められることになる。なので、アトランジュではいざという時の為に切った爪や髪は取っておく文化がある。


つまり、天月が静音の部屋に行ったのは髪を手に入れる為である。


魔力があるかどうかは半分、賭けだが、天月はそれでも試さないよりはましだと考えていた。


そして、自分の研究室に来た理由は、ここに試作の魔力を探知する機械があるからだ。天月が部屋の奥へ歩いて行くと、天井まで続いている棒に丸い鉄の塊が繋がれていた。天月はその中に髪を入れると、横にあるスイッチを入れた。


機械が光り、収まったと思ったら、画面の幾つもの文字が表示される。


その文字を魔法陣に書き込むと天月はその魔法陣を発動させた。魔法陣に包まれ、天月は転移した。


転移先に着くと一段と激しい転移酔いが天月を襲うが、それを気にした様子もなく、天月は周りを確認する。


すぐ横で鼻歌交じりに何かをしている老人がいた。そこには手術台があり、何かの手術をしているようだ。


「ん、誰じゃ、この神聖な手術台に入ってくる奴は、他の者にはここには入って来ん様に言ったはずなんじゃか」

「お前、何をしている」


目の前の光景を見てしまった天月は信じられなかった。


「何とは失礼じゃな、細胞の採取じゃよ」


手術台には原型を留めていない、肉の塊があった。かろうじて動いていることから、生きているのは分かったが、普通に考えれば、生きていることが奇跡な状態だろう。


「まさか、静音なのか」

「あー、確か、そんな名前じゃったかの」


その発言を聞いた瞬間、天月は刀のMEDで老人を切り伏せていた。


「スターダスト・ドライブ」


魔力の奔流が起こり、天月の髪と目の色が白銀委変わる。そして、そのまま、天月は静音に触る。すると、誰とも分からなかった肉の塊が、時間が逆再生したように静音に戻っていった。静音は何事もなかったように手術台で静かに眠っている状態に戻った。裸の状態の静音に天月は自分の上着を脱ぐと静かにかけた。


「遅くなって済まない」

「ほう、あの状態を戻せるのか、面白い能力じゃ」


その声にハッとして天月は後ろを振り向く。


「お前、まだ生きていたのか」


確かに上半身と下半身は分断したはずだが、天月が老人の方を見ると服は切れているが、見事に胴体は繋がっていた。


「それにしてもお前が、マチスの言っていたドラゴン・クォリファイドじゃとは、思いもしなかったの、単身でここに乗り込んでくるだけのことはあるの」

「お前、人間か」


天月は素早く、静音と老人の間に立ち、刀のMEDを構える。


「失礼じゃの、まぁ、かなり体を弄っておるから、元の体からは、ほど遠いかもしれんが」

「お前はここで殺しといたほうが良さそうだな」

「こっちとしてはそういうわけにはいかんの」


博士は懐から出した、結晶を2つ、砕いた。それはマチスが前に使っていた結晶と同様の物だった。砕かれた結晶からは、バジリスクとケルベロスが出てきた。


「お主の能力も気になるが、流石にドラゴン。クォリファイドとなれば、分が悪いのでな、わしはここで失礼させてもらうわい」


博士の背中から、触手のようなものが生えて、そのまま博士は奥へと逃げて行った。


「退け」


魔物は天月に襲い掛かろうとするが、天月はマナ障壁で魔物たちを一瞬で串刺しにした。それによって魔物は絶命すると思われていたが、マナ障壁を戻し、静音を抱えた所で、天月は魔物の気配が消えていないことに気が付いた。後ろを確認するとゆっくりと再生している魔物たちの姿があった。


「さっきの再生能力か」


それを見て天月はもう一度、魔物たちを原型に留めないほどにマナ障壁で切り裂くが、それでも尚、魔物たちは再生をしようとしていた。天月は仕方なく、炎魔法で焼き払ったが、それまで魔物の再生は止まることがなかった。


もし、この魔物が量産されているのだとしたら、ここの施設は危険すぎると天月は思った。そう思った天月の行動は迅速だった。静音を抱えながら、天月はマナ障壁によって、施設を破壊して回った。しかし、施設は余りにも静かだった。すべてを破壊し終わったのにも関わらず、誰にも邪魔されることはなかった。


施設の外に出て場所を確認するが、どこかの異空間らしく、この施設以外の建物はなかった。天月はそれを確認するとここには用がなくなったと転移魔法を使った。

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