第36話 警察署
天月が日本に戻る頃には夕方を過ぎていた。天月はそのまま家に戻らず、MEDの修理のため、長瀬の会社に来ていた。自分のMEDの修理を人工AIラショナルに任せると、自分は持ち帰ったバジリスクの素材を調べていた。
と言うのも自分のMEDがいとも簡単にバジリスクの鱗に弾かれてしまったからだ。つまり、このバジリスクの鱗は硬度で言えば、自分が所有している素材のどれよりも硬いと言える。いつもの通り、マナを全力で流す。少しだけ鱗が大きくなったが、すぐに赤くなってしまった。天月は鱗が爆発を起こす前に放り投げた。
「全然だめだな」
「耐久値、現在のMEDの半分と推定されます」
「それだと1回、技に耐えられるか、どうかか・・・だめだな、使えない」
少しだけ考えたが、1回、使えば壊れてしまうような武器を使うのはかなりのリスクだ。実戦では怖くて使えないと考えた。それよりか、2、3回は持つ、アダマント使用していた方が安全と言える。
「まぁ、一本ぐらいは加工して持っておくか」
「夜空様、MEDの修理終わりました」
「ありがとう、ラショナル」
そこで天月の携帯端末に鮫島さんから連絡が入る。
「もしもし天月です」
「鮫島だ、すまねぇが、ちょっと、こっちの方まで来てくれなぇか」
「別に構いませんが、いつもの人助けじゃないんですか?」
「まぁ、あんまり変わらねぇんだが、今回はお前に見てほしいものがあってな」
「?分かりました、今からそちらに向かいます」
「おお、毎度、すまんな」
「いいえ、別に気にしていませんので」
電話を切ると天月は、警察署に向かった。
警察署に着くと、鮫島が天月を待っていた。
「よぁ、わざわざ、悪いな、天月」
「本当に気にしていませんので、大丈夫ですよ、それより俺を呼んだってことはそれなりの事態が起こったってことでしょう、仕方ありませんよ」
「話が早くて助かる、とりあえず中に入ってくれ」
鮫島は天月を監視カメラの映像で埋め尽くされている部屋に連れて来られた。
「これを見てくれ」
鮫島はキーボードを操作して、ある棒グラフを出した。下には年月が書いてあり横には、数字を現す単位が書いてあった。そして、そのグラフは緩やかに上がっているものの、ここ一週間のグラフが異常な上昇を示していた。
「これは魔物の出現数ですか」
「一目見ただけで、分かるとは流石っすね、天月君」
「お前は少し黙っていろ、新井」
「自分は別に大丈夫ですよ、察する所、この魔物の異常な出現率の原因を知りたいって所でしょうか」
「まぁ、そんな所だ」
「監視カメラには不審なものは写っていないんですか?」
この町にある監視カメラは犯罪を防ぐ為、あらゆる所に配置されている。町に何かされたのであれば、何か写っているはずだ。
「そう思って、調べては、見たものの不審なものや人は写っていなかったんだ」
「・・・少しプログラムを弄ってもいいでしょうか」
「弄る?いったい何をする気だ?」
「少し自分のプログラムを入れようかなと、本当に何も悪いことはないのでお願いしたいのですが」
天月は一つのUSBメモリを取り出した。
「それは俺の一存では無理だな、これは国の管轄だからな」
「それを入れたら、この超過勤務を何とか出来るかもしれないんすっか?」
「新井、本音が駄々洩れ過ぎだ」
「皆を代表して言っているんですよ、絶対、皆、心のどこかで俺が言った気持ちを思っていますよ」
その言葉が合っているようで、他の同僚たちもどこか、疲れている顔をしていた。
「しかし、確認もせずにプログラムを弄ると言うのは、他のプログラムに影響があるかもしれんと思うと今すぐには決められん」
「そこに関しては絶対にないと言い切れます。入れるのは自分が開発したAIなので」
「AIか、軽いものなら、ここのプログラムにも入っているが、その辺りはどうなるのか、聞いていいのか?」
「並列でも大丈夫なようにするはずです」
「鮫島先輩、入れましょうよ、MEDすら自分で作っちゃう天才の作ったAIっすよ、絶対いい事しかありませんって」
超過勤務から解放されたいのか、新井はこれまでになく説得に真剣だった。
「一回、別の何かに入れて、問題なかったらだ、これ以上は譲歩せん」
それはある意味、鮫島の敗北宣言だった。それは直ぐに実行されることになる。新井が個人的に使っているデバイスに最初、天月の人工知能ラショナルが入れられた。
「これでどうなるんっすか、天月君」
「したいことを言ってみてください、何でもいいですよ」
「それなら、パソコンに入っている捜査資料を整理してほしいっす」
「あ~ら~い~」
「別に変なことは言ってないっすよ、楽したい、なんて思ってないっす」
「わかりました、少々、お待ちください」
機械的な音声で受け答えがされ、1分もしない内に返答があった。
「終わりました。ご確認下さい」
「え、マジで終わったんっすか、100以上の操作資料が入ってんっすよ」
「ラショナルが終わって言うのなら終わったんでしょう」
「それなら、OO事件の資料を出して欲しいっす」
「わかりました」
音声が聞こえたと思ったら、ディスプレイに幾つもの画像が表示される。
「マジっすね。バラバラに画像とか入れていたのに、一つのファイルに入っているっす」
新井自身がパソコンを確認して、ラショナルがしっかりと仕事をしたことが証明された。
「それじゃ、入れますよ」
「・・・わかった、頼む」
下手をしたら、鮫島の首が飛ぶ案件だが、他の者の残業やらなんやらを考えると、早めにこの問題を解決しなければいけないのも必然だった。
「ラショナル」
「はい、夜空様」
「まずは、魔物の出現場所を中心に監視カメラの映像を調べろ」
「了解しました」
「後は、とりあえず、待つだけです。すぐに終わると思うのでコーヒーでも飲みながら待ちましょう」
心配そうな鮫島を横目に、天月は椅子に座ってラショナルの結果を待った。
5分後、機械的な音声が聞こえてきた。
「終了しました」
「何か、分かったか、ラショナル」
「何も映ってはいませんでした」
その音声に皆からは落胆の声が上がる。
「しかし、不審な映像がありました」
「不審な映像?なんだ、出してくれ」
そこには何も変哲もない公園の映像が映っていた。
「この映像が何なんだ?」
「なるほど」
「なるほどっすね」
「お前らだけ、説明をしてくれ、何が分かったんだ」
「公園にある時計を見てくれれば、分かると思いますよ」
「あーわかったぞ、針が動いてない」
ラショナルは公園にある時計の針が全く動いていないことを見つけたのだ。
「なら、映像に何か細工をされたのか?ラショナル」
「データ的、改竄の形跡は見られません」
「そんなものがあれば、俺たちが直ぐに見つけている」
「なら、魔術的改竄の可能性か、同じような映像がある場所を出してくれ」
天月が指示を出すとすぐにラショナルは地図と場所を赤の点で示した。その場所を見て、新井が反応する。
「魔物が出現した場所も一緒に出してほしいっす」
新井の要望通り、魔物が出現した場所も一緒に映し出される。
「これは・・」
映像が改竄された場所と魔物が出現した場所はものの見事に一致していた。
「しかし、何者かの仕業だとして、どうやって魔物を出現させているんだ」
「それは、監視カメラの近くを調べてみれば、原因が分かると思いますよ」
「そうだな、まずは手がかりが見つかっただけでも御の字と言うものだろう」
「もしかしたら、モーリュの実を加工した中が近くにあるかもしれませんね、魔力探知できるものがあればすぐに見つかるかもしれません」
「わかった、調べるものにはそう伝えよう」
「それじゃ、何か、分かったら、連絡下さい、今日はバジリスクを倒して疲れているのでこのくらいで帰ります」
「そうか、疲れている時に呼んで、すまんな」
「先輩、今、天月君、軽くすごいこと言いましたよ、バジリスクってSランクモンスターですよ、しかも倒したってやばいっすよ」
「それでは」
「気を付けて帰れよ」
「え、スルーっすか、俺のコメント、スルーっすか」
そのまま、天月は新井の言葉をスルーしつつ、警察署を後にした。
後日、調べた結果が天月に送られてきた。ほぼ、天月の予想通りでモーリュの実を加工したものが細工されていた近くに巻かれており、それによって魔物発生していたとのことだ。なので、アトランジュ協力のもと、魔力濃度が高くなっている場所にモーリュが植えられ、事件は事なきを得た。
アトランジュでもクロードの近くに他にもSランクモンスターが待機しており、冒険者ギルドが先に発見し、Sランク冒険者によって早々に退治され、被害は0に抑えられた。
こうして、何者かによるテロは未然に防がれた様に見られたが、まだ、事件は終わっていなかった。
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