第34話 バジリスク戦1

女子生徒を確認するとすぐさま、バジリスクと女子生徒の間にマナの壁を張った。バジリスクは見ただけで死をもたらす力を持っていると言われているが、実際には少しだけ条件が付く、魔力で圧倒的な差がついている場合だ。それなら大丈夫と思うかもしれないが、バジリスクの魔力は膨大だ。大体の場合は、見られただけで死ぬ。外にマナ障壁を張ることでわかりやすい目安にすることが出来る。


恐らく見られたら一瞬で割られるだろうが、幸い、バジリスクは今、ワイルドボアを食べることに夢中になっている。その間なら、女子生徒を連れて行くだけなら、無理ではないだろう。


マナでそのまま女子生徒を掴むと天月は自分の方に引き寄せた。そのまま、天月は木の後ろに隠れた。


「ちょっと、なに」


引き寄せられた女子生徒は文句の声を上げる。


「お前こそ、分かっているのか、あれはSランクモンスターだぞ」

「なら、あいつを倒せば、卒業資格を得られる」


Sランクモンスターと聞いて女子生徒は戻ろうとするが、天月がマナ障壁で逃がさない様にしていた。


「放して」

「無理だな、今の君がバジリスクに挑んだら、100%負ける」

「そんなのやってみなくちゃ分からない」

「むざむざ死ぬようなことはさせられない、君はバジリスクの事を知ってないんだろう。今だってバジリスクに見られたら、死んでいたかもしれないんだぞ」

「え、嘘」


驚きの声から天月の予想通り、女子生徒はバジリスクの事を全く知らないようだ。


「わかったなら、早く逃げるぞ」

「・・・でも・・」

「強くなってから、また倒しにくればいい」

「わかった」

「それなら、あいつがワイルドボアを食べている間に行くぞ」


流石に天月と言えど、見られたら死ぬという条件だと、女子生徒を庇うのは容易ではない。一応、居合切りも考えたが、バジリスクの鱗の硬度が分からない以上、無謀な賭けを試すわけには行かない。


しかし、女子生徒が逃げるか、決めかねている内にバジリスクは食事を終えてしまったようだ。シュートという、蛇が舌を出す音が聞こえていた。


「体の周りのマナ障壁は張れるか?」

「張れる」

「バジリスクに見られたら、マナ障壁が削られるはずだから、すぐに補填しろ。俺が時間を稼ぐから、真っすぐに走っていけ」

「貴方は大丈夫なの」

「俺の事は心配するな」

「でも、自分の命を第一に考えろ、俺の事は心配するな、まぁ余裕があったら、俺の仲間たちを呼んできてくれるとありがたい」

「わかった」

「俺が合図したら、走れ、準備はいいか」

「大丈夫」


女子生徒は自分の体にマナ障壁を張る。それを確認した、天月も銃のMED出しつつ、自分の体にマナ障壁を張って木の陰から、勢いよく飛び出した。


それにバジリスクは素早く反応して天月を見てきた。それだけにも関わらず、天月のマナ障壁が半分も削られた。天月は全部のマナ障壁が削られる前に別の木の陰に隠れた。木に隠れた所で、銃から弾丸が放たれる。放たれた弾丸は曲がりバジリスクに当たるが鱗によって、簡単に弾かれた。


(やっぱり、硬いな)


当たった弾丸から鱗の硬さを考えたがやはり少し、手持ちのMEDでは鱗はキレなさそうと天月は判断した。牽制の為にもさらに弾丸をばら撒く。また、飛び出すタイミングで天月は叫んだ。


「今だ、行け」


バジリスクの気を引くために、さらに弾をばら撒くが、バジリスクの目によって弾は瞬く間に消されてしまった。そんなことは気にせずさらに弾丸を飛ばす。今、弾を撃つのをやめてしまったら、バジリスクに女子生徒が気づかれてしまう可能性がある。


弾を撃ちながら女子生徒の反対側に回り込んだ天月は遠目に女子生徒が逃げるのを確認した。木の陰から発射さる弾丸が鬱陶しく感じたのか、バジリスクは、一回転して一帯の木を薙ぎ払った。樹齢何百年とも思える大きな大木でさえ、いとも簡単に薙ぎ払われた。それだけなら、まだ、倒れた木の陰に隠れていたのだが、急にバジリスクの目が輝いた。それと共に一帯の木や草が、萎れて朽ち果て始めた。


「マジか」


そのままではまずいと感じた天月は距離を取った。そのわずかな間で、バジリスクの周りは更地と化した。天月はかなりバジリスクを怒らせてしまったらしい。巨体と思えぬスピードでバジリスクは天月に迫ってきた。わざわざ、木のある所までバジリスクが来てくれたので、天月はまた、気に隠れようとするが、すぐにバジリスクは周りの木を朽ち果てさせてしまった。


「同じ手は効かないってことね」


さらにバジリスクは、天月の先を行った。バジリスクは天月の周りをぐるぐると回り、天月が逃げそうな木を先にすべて朽ち果てさせた。


「そして、逃げ道を塞ぐか、しかし、俺にこれがある」


逃げ道を失った天月は、自分のMEDを取り出し、自分に着けた。MEDは全身に広がりぴったりと天月にくっついた。そして背中に4枚の翼が広がる。バジリスクが天月の周りの木を全部、朽ちさせる前に天月は空へと飛びあがった。


「本番はここからだ、バジリスク」


光る翼を羽ばたかせながら、天月とバジリスクの戦いは第二ラウンドに突入した。


「はぁはぁ」


女子生徒は天月が囮になったことを理解できていたので、必死に走った。バジリスクの事は分からなかったが、Sランクモンスターと言うことだけでも危険性は十分伝わっていた。もうかなり走ったのにも関わらずに森の出口は見えなかった。


「早くいかないと」


しかし、女子生徒の前にダイヤウルフが3体現れる。


「どいて、相手をしている暇はない」


女子生徒は銃のMEDを展開して、威嚇射撃をするが、ダイヤウルフは銃声に慣れているのか、引く様子は全くなった。戦闘が始まろうとした所で、思わぬ、横槍が入る。ダイヤウルフにたくさんの火球が飛んでいき、ダイヤウルフたちは一瞬で火だるまになった。


「大丈夫ですか」


現れたのはアリアたちだった。


「大丈夫、それよりも、彼が、急がないと」

「落ち着いて下さい、何があったのですか、1個ずつ話してください」

「私が森の奥に行って、バジリスクが居た」


バジリスクと言う単語にアリアとエスカルゴは驚きの表情を浮かべる。


「今、バジリスクと言ったか、それは本当か」

「彼が見られたら死ぬとか言っていた、それ以外の特徴は見てない」

「ソラが行ったのなら本当なのでしょうね」

「しかし、どうする、それが本当なら、俺たちだけでは荷が重たすぎます、クロード姫」

「彼が囮になって・・・」

「だから、今、ここにソラがいないのですね」


アリアとエスカルゴの焦り様に服部と霜月はわけが分からないようだ。


「そのバジリスクって奴が何なんだ」

「Sランクモンスターだ。下手をすれば、王都が陥落する」


簡潔に説明され、2人は息を飲む。


「そんなモンスターがなんだって王都の近くにいるんだよ」

「そんなの、俺にも分からん」

「ソラが命がけで時間を稼いでくれるのなら、私たちは、王都から応援を呼んできましょう。それが私たちに出来ることです」

「そんな彼を置いていくの」

「今の私たちでは何もできないのです。仮にバジリスクの前に立ったとしても、私たちでは10分も持たず、死ぬでしょう。それより王都の騎士団を呼んできた方が希望はあります」

「でも、そんなの」

「私だって、こんな選択肢取りたくありません」

「お前は姫の気持ちが分からないのか」

「それは・・・」

「時間が惜しいです、王都に急ぎましょう」


一同が王都に向け、移動しようとした時、森全体に特大な音が鳴り響いた。

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