第33話 痕跡

またも同じようなやり取りを城門でしつつ、天月たちは近くの森の入り口までやってきた。


「しっかし、道中、全然、魔物に会わなかったな」

「それは我々の王国の騎士団が定期的に魔物狩りをしているからだ。王都の近くで魔物たちが蔓延っていたら、一大事だからな」

「だから、近くにCランクのワイルドボアしかいなかったのか」

「そういう事になるな」


「ごめん、ちょっと静かにしてくれるか」


天月は突然、しゃがみ込んで、地面を見始めた。そして、周りの木を見ると天月は森の奥へ走り出した。


「悪いんだけど、先に行く、後でゆっくりきてくれ」

「あ、待って、ソラ」


突然の事に、アリアが声を掛けるが、それも無視して天月は森の奥へとあっという間に消えていった。


「しかし、なんだって、突然、天月は走り出したんだ」

「多分、その答えは、彼が見ていたものに答えがあるんじゃないかしら」

「さっき、ソラが見ていたのは地面と近くの木ですね」


皆は、天月が見ていた所に注目する。


「あ、足跡があるぞ」

「そんな足跡なんてあり過ぎて、天月君がどの足跡を見ていたか、なんて分からないじゃない」


冒険者や騎士団たちが多く足を運んでいるからなのか、足跡は自体はこれでもかというぐらい、一面に足跡が広がっていた。その中から、天月が見ていた足跡を見つけるのは至難の業だった。


「考えられるとすれば、新しい足跡だろう」

「なぜ、そんなことが分かるのですか、エスカルゴ」

「あまり前の足跡だと、あいつが急ぐ理由がないからです」

「なるほど、状況から考えたわけですね」:


「木の方はどうなんだ」

「木にもいろんな傷があるな」


足跡と同じように幾つもの傷が出来ていた。


「これ見て頂戴」


そこにあったのは銃痕、それもかなり新しいさっき出来たような傷だった。


「これって、他にもうちの生徒が来ているってことかしら」


それはこちらの世界ではあまり見かけない傷なので自然とそういう考えになる。


「そうなるとさっきの女子生徒、奴か?」

「一番、可能性が高いのはそれね」

「だとすると奴が急いだ理由はそれか」

「でも、それだと急ぐ理由なくないか?」

「確かに、それだけだと急ぐ理由はないわね」


普通に魔物を刈っているだけでは天月が急ぐ理由がないので別の理由があると考えるのが妥当だろうが、皆には理由が分からなかった。


「まぁ、ともかく行ってみれば、わかるだろう。クラス対抗戦の時に外で生き残ったあいつの事だ。大概の事では大丈夫だろう。俺たちは注意してゆっくりと進めばいい」

「私たちは急がなくていいのですか、エスカルゴ」

「気持ちはわかりますが、森の中は、いつ魔物が出てくるか、わからないのです。移動スピードを速めれば、私たちが危険になります。それに私たちはどこに向かえばいいか、分かりません。彼女の事は天月の奴に任せましょう」


アリアの気持ちは今すぐ走っていきたい様だったがエスカルゴの正論に納得するしかなかった。


「わかりました」


天月はマナの高速移動も使用して女子生徒を探していた。


皆の予想は当たっていたが、天月が別に気づいたことが一つだけあった。それは銃痕と足痕の位置関係だった。女子生徒は前に走りながらも、後ろに銃を撃っていたのだ。


つまり、女子生徒は何かから逃げていたのだ。


それが分かった瞬間、天月は走り出していた。足跡から少なくとも、ワイルドボア3体からは追われていることは分かったが、それ以上に何も考えずに森の奥に行ったことが心配だった。森の奥に行けば行くほど危険な魔物が出てくる可能性が高い。途中、1体はワイルドボアが死んでいるのを確認したが、他の2体の姿は見えなかった。


もう手遅れの可能性もあるが、天月はまだ助かる可能性があるなら、諦めないと決めているので森の奥に急いだ。


「きゃああああ」


天月が銃痕を追って、かなり森の奥まで来た所で、女子生徒の悲鳴が鳴り響いた。


急いでそっちに向かうと、そこには腰を抜かしている女子生徒とワイルドボアを飲み込んでいる最中の蛇の王バジリスクがいた。

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