第31話 犯罪未遂
解体の講義を受けた天月たちはついにアトランジュへと降り立った。
「ついに、来た――」
「馬鹿ね」
「馬鹿だな」
「馬鹿なのか」
「馬鹿なのですか」
開口一番、大きな声を服部は出し、周囲を委縮させてしまった。しかも日本語で。ここはアトランジュだ。学校の中では翻訳の魔法が働いているから、何も考えずに喋ればいいのだが、学校から出てしまうとその限りではない。だから、地球側の生徒がアトランジュに行く場合は、先にアトランジュ語を覚えなといけない。その逆も叱りだ。
つまり、服部がやったことはいたずらに現地の人間を驚かせたのだ。あまりいい行動とは言えない。もしかしたら、その言葉によって戦争の事を思い出す人もいるかも知れないと考えると服部の行動は本当に馬鹿だと言わざるを得ない。
「ほら行くぞ」
軽く服部の頭を殴ると天月は服部を引っ張って移動し始めた。
天月たちが降り立ったのはアトランジュのクロードと言う国、もといアリアの祖国なのだ。しかし、天月たちが出た場所で見えたのは王城ではなく、城壁だった。
「ってここ何処だよ」
「王都アセアドルの外です」
「外って。でもここには人がたくさんいるぜ」
服部の言った通り、そこには、城壁の外と言う割には人や建物がたくさんあった。とても王都の外の光景とは思えなかった。
「それはこの門が理由です。警備の観点から王都の外に門はありますが、しかし、門からは様々な恩恵が受けられるのでこうして人が集まるのです」
「なるほど、勉強になるぜ」
服部は普通にしゃべっているが今はアトランジュ語を喋れていた。その光景に天月はほっと一息をついた。今はいい意味でも悪い意味でも目立ってしまっている。出来るだけ、周りを刺激したくないと思っているのは天月だけじゃないはずだ。
服部とアリア姫は気付いていないのか、気にしていないのかは分からないが、もうすでに周りからは変な奴を見る視線と尊敬の視線で見られていた。勿論、尊敬の視線はアリア姫に対してで、変な奴を見る視線は服部に対してだ。幸い、服部の発言が日本語とわかる人物は近くにはいなかったようだ。
「それでは、王都に行くとするか」
「なんで、魔物を倒しに行くんだろう?外じゃないのか?」
「綾城さんの言葉を忘れたのか、ギルドにクエストを受けに行くんだよ」
「そういう事か、でもよく王都の中にギルドがあるなんて知っているな」
「何度も来たことがあるからな」
「なるほど」
こうして一行は王都の冒険者ギルドに向かうことにした。
「なぁ、あれが授業で言っていた植物か」
服部は城壁に生えている植物を指して、質問して来た。
「そう、あれが、モーリュだ」
「なんか、実が出来ているけど、あれって食えるのか」
その実、向かって服部が手を伸ばそうとするが、天月にその手を掴まれた。
「食えなくはないけど、今は触らないほうがいいな」
天月は軽めに注意はしたが、他メンツは怒り心頭の様だ。
「勉強したのよね、服部君」
「ここまで馬鹿だとは思わなかった」
「え、俺なんか悪い事した?」
皆の反応に困惑する服部だが、アリア姫がその説明を始めた。
「えっと、ですね、そのモーリュに何にも資格を持っていない人が触ることは、この国の法律で禁止されているんです」
「え、マジ――」
「本当です。この植物は周りの魔力を吸ってくれる代わりに、実に魔力を貯めるんです。その実はちゃんと加工すれば、薬になりますが、実の匂いには魔物を引き付ける効果があるんです。なので、不用意に匂いが漏れないよう資格がないものは触ってはいけないんです」
「もしかして、今、俺って軽く犯罪を犯そうとした?」
一同、服部の質問に頷く。
「ごめんなさい」
すぐに服部は皆に向かって土下座をした。
「だから、あれほど、勉強しておけって言ったのに、お前と言う奴は学習しないな」
「返す言葉もございません」
「でも、実を割ったりしたら、町を危険に晒すことになるんだから、もっとお灸を据えた方がいいんじゃない、それくらいしないと、また何やるか、わかったもんじゃないわよ」
「まぁ、まぁ、服部も反省してそうだしさ、早く冒険者ギルド、行こうか」
「次は気を付けてよ」
「肝に免じます」
「何かやっても、事前に俺が止めるよ」
「そっちの方が安心できるわ」
「文化や風習の違いはありますから、私たちも気を付けましょう、ね、エスカルゴ」
「わかりました、クロード姫」
城壁をすこし歩くと、城門が見えてきた。城門では中に入るために、入門検査が行われていた。
「皆さま、お疲れ様です」
「これは姫様、お早い、ご帰宅で」
城門を守っていた兵士はアリア姫に膝をついて挨拶をしていた。
「ちょっとこれから皆さまと冒険者ギルドに行こうと思いまして」
「なるほど、姫様のご学友ですか、なら、そのままお通り頂いて構いません」
「ありがとうございます」
そんな感じに皆、身分証も提示せずに、入門することが出来た。
「なぁ、あれって普通なのか」
「そんなわけないじゃない」
「だよな」
権力を振り回したわけではないが、少しだけ2人はアリア姫の常識が大丈夫か心配になった。
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