第25話 決意
「この空間が崩れる前に帰りますか、アリア姫」
いきなり他人行儀になる天月だったが、振り返った瞬間、その気はすぐに消え失せた。
「ソラ、帰る前に私に教えてくれませんか?」
真剣な目でアリアは天月を見上げてくる。天月は自分の過去の映像を見られて、仕方がなく語り始めた。
「俺は二度、大切なものを救えなかった。1度目は知っての通り、両親だ。2度目は俺に魔法を教えてくれた師匠だ。この手でその師匠を殺した、それだけだ」
今にも泣きそうな顔をしながら、天月は短く言葉を切った。
「何か、訳があったのでしょう。今、貴方がそんな顔をしているのですから」
「ドラゴンたちの中で一番恐れられている病気がある。狂気病だ。長く生きることによって脳内に 細菌が繁殖して正気を失わせてしまう病気だ。長年、生きているドラゴンにはかかる可能性が最も高い病気だ。現在では治る薬や魔法も発見され、発生の可能性は無かったんだ。でも、その人は子供を身籠っていた。薬も魔法も胎児に影響が出る強いもので、胎児の為にその人は狂気病を予防する行為を行っていなかった。」
嫌でも話の流れが分かってしまったアリアははっと息を呑んだ。
「あと少しだったんだ。あと一時間、出産が早ければ、そんなことはなかった。無かったんだ。暴れだす前に彼女は自分の子の命を優先してくれと言ってきた。そして、俺は自分の手であの人を殺した。もっと力があったら、殺さずに済んだのかもしれないのに、死ぬ直前、彼女は俺にありがとうと言ってきた。他の奴なら、あの人を救えたかもしれないのに」
「貴方は何処も悪くありません、ソラ」
「そんなの、気休めだ、どんなに強くなっても俺はあの時には戻れない。だけど、俺はもう手が届かないなんて後悔はしたくないから、前に進むことを決めた。もう俺は誰にも負けるつもりはない」
アリアは天月が事あるごとに負けないと言っていた理由を理解はしたが納得は言っていなかった。
(貴方はなんでも一人で背負い込むつもりなの、ソラ)
転移の準備を行いだした天月を見て、アリアは一つの決意を固めた。
(今回は助けられてしまったけど、今度は私が・・)
「もう話はいいでしょう、戻りましょうか、アリア姫」
「ハイ、ソラ」
いつまでもソラと言う呼び方を止めないアリアを見て天月はため息をつきながら、転移魔法を発動させて、学校へと戻って行った。
「ただいま、服部」
「天月のばか心配させんじゃねーよ」
他に色々と天月に言いたそうな連中はそこら辺いたが、無事に帰ってきたということで、事情は後で聞くということですぐに家に帰してもらえることになった。
後日、天月は事情説明の為、校長室に来ていた。
「この生徒手帳の転移魔法いつでも使えたんだろう」
「・・・」
沈黙、それは答えを言っているも同然だった。
「次、アリア姫を危険に合わしたら、許さないぞ」
「それについては謝罪しよう、しかし、わしもそれ以上に敵の正体を知らねばならなかったのじゃ」
「いいわけは聞いていない、話はそれだけだ」
それ言うと天月は校長室を出て行った。
「全く手厳しいな、あいつは」
「親友が命の危機にさらされたのじゃ、当然の反応じゃ」
「しかし、敵の正体はどうなったんです」
「生徒手帳から送られてくる情報からある程度、絞り込めたのじゃが、これの問題は骨が折れそうじゃ」
天月に課された試練はまだまだ先行きが曇っていた。
しかし、その他にも変化はあった。
「ソラ」
「何でしょうか、アリア姫」
あの事件以降、アリア姫が天月の周りをうろつくようになった。しかし、天月は相変わらず、敬語というスタイルを貫いていた。
勿論、後ろではエスカルゴが鬼の形相で控えている。
「あれはいつまで続くのかね」
「さぁね、天月君が折れるまでじゃない」
遠くから服部と霜月がその様子を温かく見守っているが、特に助ける気配はない。いろいろな意味で天月の学校生活は波乱が生まれようとしていた。
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