第24話  最強の一撃

「ソラ」

「全く、気に入りませんね。せっかくいい姫の絶望顔が見られていたというのに」

「悪趣味だな」

「あのリッチか、余計なことを」


天月がここに来られたのには理由がある、天月が倒したリッチが最後に渡したもの、それがここの座標が示してあったドッグタグだったのだ。それに気づいた天月はすぐにここに飛んできたというわけだ。


「行くぞ」


天月はマチスの方向へ一歩踏み出し、攻撃を開始しようとした時、マチスは懐から取り出した結晶を砕いた。


「おっと、危ない君の相手は私ではありませんよ。出てきて下さい」


結晶の中から出て来たのは、ドラゴンだった。


「そのドラゴン、もう死んでいるな、それがお前の固有魔法か」

「そうこれが僕の固有魔法、マインドフィアー、脳が破壊されてないかぎり、魔物やその死骸などを操ることが出来る、しかも、その生物が持つことが出来る魔力限界まで魔力を付与することができる。天月君、君ならこの意味、分かるよね」

「つまり、ドラゴンなら無尽蔵ともいえる魔力があると言いたいのか」


マチスは素早く、ドラゴンの頭の上に飛び乗った。その瞬間、ドラゴンからはマナ障壁が展開された。


「その通り、君にこのマナ障壁を破ることができるかな」

「どうやら、転移も封じられているようだし、やるだけやってみるさ」


天月が周りを見渡すと、マチスの後ろで仲間らしき奴らが現れて、転移妨害の詠唱を唱えていた。


天月はアリアに自分より下がるように指示するとリッチの時と同じように居合の構えを取った。腰から抜き去った刀のマナ障壁はマチスに迫りながら、さらに伸びていく。しかし、ドラゴンのマナ障壁を少し削った所で、天月のマナの刃はポキンと折れてしまった。さらに天月の刀のMEDも熱を帯びて、天月はそれを素早く捨てると爆発した。


「はっはっ、駄目か」


天月はその技を出して明らかに疲労の色を示していた。天月の出した技はいたってシンプルだ。居合の軌跡に合わして、マナ障壁を伸ばしていくだけだ。しかし、天月のマナ障壁を伸ばすスピードが尋常ではなかった。一振りの間にマナ障壁は10キロも伸びる。その技にはかなり集中力を要する為、放つだけで天月はかなりの疲労が現れる。この技でドラゴンのマナ障壁が切れなかったのはそもそもの硬度が足りていないからだ。ダイヤモンドを削るのにダイヤモンドを使うように同等以上の硬度を持つマナ障壁でなければ、この天月の技はただのなまくらに成り下がってしまう。


「ふっ、君ならこのマナ障壁を壊してしまうのではないかと心配して損したよ。いいことを思いついたよ、君に姫様を殺してもらおう」


マチスはドラゴンのマナ障壁の中から天月に向かって魔法を放った。天月はその魔法から逃れようとするがさっきの技の反動で動けない。天月にその魔法は直撃したが、外傷はなく、代わりにアリアを掴んでいたエスカルゴと同じような虚ろな目をしていた。


「ソラ―――」


アリアの悲鳴が響き渡るが、もう天月には届いていなかった。


「ソラに何をしたのですか、マチス」

「彼には人生で一番の恐怖を見てもらっています。彼がその恐怖に負けた時、僕のしもべに変わっていることでしょう。まぁ、この魔法を掛けて、恐怖に打ち勝った奴なんて見たことがないんですが、丁度いい、貴方にも見えるよう用にしてあげますよ」


そういうと天月の頭の上に映像が流れ始めた。


そこにいたのは家に帰って来た5歳の天月で目の前にある両親の死体を見て、泣いている光景だった。また、光景が切り替わる、そこは何処かの山間で10歳の天月に目の前にドラゴンの死体があった。ドラゴンの死体の前で天月は刀を地面に刺して泣き崩れていた。


そして最後に今の天月の前に死んだ両親とドラゴンが迫って来た。普通の人なら、その恐怖に後ずさりするだろう。しかし、天月は違った。手に持った刀で両親とドラゴンを切り捨てた。


「もう俺は振り返らない」


そこでマチスの魔法は解け、天月は何ともないのか、そのまま立ちあがる。


「なんだと、それがお前の一番の恐怖のはず、何故、恐れない」

「俺は決めたんだ、誰も死なせないように強くなると。こんなところで俺は負けられない」


アリアは天月の言葉に何とも言えない感情が沸き起こった。そんなに無理をしなくていいと言ってあげたくなったがぐっとアリアは言葉を飲み込んだ。


新たな刀のMEDを出し静かに天月はマチスに宣言した。


「終わりだ、マチス」

「ふっ、僕の魔法に打ち勝ったからと言って現状が変わったわけじゃない、天月君はどうやってこのマナ障壁を突破するつもりですか」


ソラは右手の拳を握り絞め、胸の前にもっていった。何かを祈るように。


「スターダスト・ドライブ」


そう、天月が唱えた瞬間、マナの奔流が沸き起こった。マナの奔流が収まった後には瞳と髪の色が白銀に変わった天月がいた。


「ま、まさか、その髪の色は白竜の・・・」

「そう、ドラゴン・クォリファイドだ、でもこんなものは使わなくても勝てる」


天月は圧倒的なマナ量により、マチスの障壁を拳ほどの量のマナを削り取った。それを素早くマナ操作によって操作権を奪った。


「これで十分だ」


天月はさっきと同じように抜刀の構えをした。


そして、景色が横にずれる。


抜き放たれた刀によって、いとも簡単にドラゴンの首が落とされた。それだけでは収まらず、空間を囲んでいたマナも切り裂かれ、霧散し始めていた。


「なに――――」


しかし、天月が抜き放った刀は臨界点を超え、赤く光爆発した。マナ障壁を張っていたが軽く腕を傷つけてしまうが天月は気にせず、マチスのより後ろに注視する。


「引くぞ、マチス」

「しかし、――」

「マチス」

「了解です」


顔を布で隠しているが纏っているマナ障壁の色は紫色だった。


「流石、ドラゴン・クォリファイド、その若さで君のような存在がいるとはな、私も君の相手はご遠慮願いたい、この空間も君の攻撃で崩れてしまった、君たちも早く帰ることをおすすめする、それではな」


紫のマナに包まれるとマチスたちは何処かへ転移していった。

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