第23話  黒幕

天月は転移独特の揺れが始まると同時に自分のMEDをすぐにしまい込んだ。揺れが収まって周りを見渡してみるとそこは学校の体育館だった。他の生徒達も無事でさっきまで助けていた生徒もしっかりと確認できた。そして、その中には天月が最初に倒したテリオンの姿もあった。


しかし、先生の姿はなく、代わりに生徒会のメンバーが入り口に立っていた。天月は生徒会のメンバーに近づいた。


「状況はどうなっているんですか」

「モンスターの襲撃を受けているわ、それよりも貴方、大丈夫なの?」


そこにいたのは、怪訝そうな声を出してそこにいたのはノア・シルヴィアとマチス・マーチェスだった。


「いやー災難だったね、君たち」

「まだ、終わってないは気を抜かないで、マチス、それより貴方、アリアは無事なんでしょうね」

「少し怪我はしたが命には別状ないはずだ」

「貴方ねー」

「私は大丈夫です、ノアさん」

「アリア、無事だったのね」


3人の隣にはエスカルゴに支えられ、いつの間にか、近づいて来たアリアが居た。


「それよりも、もっと詳しい情報を教えて下さい」

「わかったわ、今、先生方はモンスターの転移門を潰してくれているわ、それに才波先生が襲撃者の一部を捕えたらしいから、時期に他の仲間の面もわかるでしょう。他の先生が出払っているから、私たち生徒会がここにいて貴方たちを守っている状況よ」

「わかりました」


ノアの報告にアリアはほっと胸をなでおろした。しかし、この中で天月だけがその報告が腑に落ちなかった。


「何故、一人も先生はここに残らなかったんだ」

「それは私たち生徒会が普通の先生より強いからよ、それにここら辺一帯には転移門は発生していないわ」


ノアの言葉により、さらに天月は疑惑が強まった。


(ここら一帯に魔物が発生していないだと、あんなにフィールドをモンスターで埋めておいてか?何か、ここにモンスターを発生させたら、不味い理由でもあるのか)


胸のモヤモヤを払うように天月は思考を巡らすが、いい答えは出ない。


「何よ、その顔は私たちがここ守っているのが不満なの」


天月の悩むような顔にイラつきを感じたノアは思わず、声を上げる。


「それだ」


ノアの一言により、天月の思考のピースは埋まった。しかし、時は既に遅かった。


「残念だったね、天月君」

「エスカルゴ――」


天月がエスカルゴの名前を叫ぶが、その眼は虚ろでアリアをしっかりと掴んで離さなかった。その隙をついてマチス・マーチェスは小さな短剣でアリアを刺した。寸前の所で天月のマナ障壁が短剣を弾くが、弾かれた短剣は僅かにアリアの腕を傷つけた。マチスは素早く、短剣を拾うと自分の指を軽く切った。


「じゃあねー」


短剣に切られた二人は紫のマナに包まれ、何処かに転移されてしまった。


「くそ―――」


天月の叫びが虚しく空に響き渡った。


アリアは転移特有の激しい揺れを感じたが、入学当初とは違いしっかりと意識を保っていた。すぐにアリアは自分のMEDを展開し、マナ障壁を張った。


「ここは、何処なの?」


そこには何もなかった、地面に土があるわけでもなく、空も黒く染めあがっていた。


「ここは反政府組織のアジトですよ、クロード姫」


周りを見渡しているアリアの前に現れたのは、先ほどアリアを刺した、マチスだった。


「マチス・マーチェス、何故、国を裏切るような真似をしたのですか」

「別に僕は国なんて裏切っていませんよ、元々、こちら側の人間だっただけです」

「なんですって」

「僕の目的はただ一つ、また戦争を起こすことですよ」

「なんで貴方はまた、戦争を起こすなんて言うんですか」

「なんでか、ですか?こんな力があるのに使わないなんて勿体無いじゃないですか」

「そんな理由で、貴方は狂っています」

「全く、苦労しましたよ、あの天月とかいう想定外の所為でこんなにも予定が遅れてしまうとは思いませんでしたよ」

「予定が遅れたですって?」

「貴方は本来なら最初の訓練の時に死ぬはずだったたんですよ。それなのに天月って生徒がいたせいで1週間も予定が遅くなってしまいました」

「何故、私を狙うんですか?」

「貴方はまさか自分の価値に気付いていないのですか、貴方はアトランジュ側で絶大な人気を誇っています。そんな貴方が死んだら、これは言わなくてもわかりますよね、つまり、貴方には死んでもらう。必要があるんですよ。姫様。戦争を起こす、きっかけとしてね」


その言葉を皮切りにマチスはアリアに襲い掛かって来た。アリアはマチスの攻撃に気を引き締めるが、それも虚しく、マチスの電撃魔法がアリアに当たる。


「くっ」

「貴方のマナ障壁が空気で作っていることは確認済です」


元々、追っている怪我とマチスの電撃によって、完全にマナ障壁が霧散してしまったアリアはもうだめなのかと後ろに後ずさりしながら、憎しげにマチスを睨んだ。


(私はこんな所で死ねないわ)


「誰もここには助けに来ませんよ」


そんなアリアにマチスは剣のMEDを出しながらゆっくりと歩み寄って来た。


「それでは死んでもらいます」


マチスが剣を振り下ろす瞬間、マチスの剣が銃弾によって吹き飛ばされた。


「何!」


それに剣が吹き飛ばされたのにも関わらずに、マチスは冷静に距離を取った。


「全く、俺がいるのにそんなことさせるわけがないだろう」


そこに現れたのは刀のMEDを持った天月だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る