第20話  異常事態

1組の方に人の気配がないこと気が付いたエスカルゴの背後から天月はエスカルゴに切りかかった。


「ちっ」

「流石だな」


完全に死角から切りかかったはずなのにエスカルゴは反応して見せた。


「大丈夫か、服部」

「天月、前、前」


エスカルゴは鬼の形相で天月に切りかかってくるが、天月は涼しい顔でそれを捌く。


エスカルゴが通常ではあり得ない速度で剣戟を繰り出してくるが、天月は難なく反応して、激しい金属音が鳴り響く。


「服部、今1組側に誰もいないから、フラッグを回収してくれ」


服部はその言葉にうんうんと顔を立てに振ると1組が居た場所へと走り出した。


「させると思うか」


天月の言葉にエスカルゴの剣に力が入るが、簡単に天月に捌かれる。


「何故、さっきの技を出さない」


鍔迫り合いになり、エスカルゴはさっき簡単に自分の剣のマナを切り飛ばした技について言及してきた。


「出す理由が無いからな」

「なんだと」


天月の発言が自分を侮った発言に聞こえたエスカルゴは怒りを覚えるが、突然、天月がエスカルゴと距離を取った。天月が居た場所に突然、火球が降り注ぐ。


「すみません、エスカルゴ、彼にしてやられました」

「クロード姫、ご無事で」


上からやって来たのは天月が先ほどまで相手をしていたアリアだった。


2人が揃ったにも関わらず、天月からは焦りの表情が見えない。


「他は放っておいて彼を先に倒しましょう」

「わかりました、クロード姫」


今、この中で1番強いのが誰なのか、アリアにもエスカルゴにも目の前の敵だと言うことがもう十分に認識できていた。


(くるか)


アリアとエスカルゴの雰囲気から本気なのを察すると天月は自分の神経を研ぎ澄まし始めた。


両者が戦闘に入ろうとした時、突然、サイレンがフィールド全体に鳴り響いた。


「この音は何だ」

「恐らく、非常事態を現すものでしょう、そうでしょう、ソラ」

「そうだな」


3人が現状を確認しようとしている所に異変が起こる。森の各所からマナの光があふれ出た。


「なんだ?」

「服部、戻れ―――」


さっきまで余裕の声とは打って変わって、真剣な声を天月は出した。


「すまん」


天月がそれだけ言うと4組の生徒の生徒手帳を攻撃した。それによってその生徒の生徒手帳が外れる。しかし、生徒手帳が外れたにも関わらず、転移は発動しなかった。そんな確認をしている中、天月が焦った理由はすぐに目に見えて形となる。


マナの光から次々とモンスターが現れ始めた。ゴブリン、サイクロプス、ミノタウロス、アトランジュで見られる魔物が勢揃いだった。中には天月が倒したキメラの姿もあった。


「皆、マナ障壁を張って身を守れ」


(間に合わないか)


フラッグを取りに行った服部の近くにもモンスターが出現している。この距離では4組を服部のマナ障壁に入れることは難しい。


「エスカルゴ」

「はっ、クロード姫」


アリアの一言によって、エスカルゴは4組の周りにさらに大きなマナ障壁を張った。


「すまない」


天月はそれだけ言い残すと、足のマナ障壁を伸ばし高速で服部の元に向かう。


「そこはすまないじゃなくて、ありがとうでしょ、ソラ」


その声は天月に聞こえるはずもなく、虚しく空に散った。


「エスカルゴ、私は他の生徒たちがどうなっているか、確認してきます」

「しかし、外は危険です、クロード姫」

「私に他の生徒を見捨てろと言うのですか?」

「そうではありませんが・・・」

「貴方はマナ障壁を空高くまで伸ばし、他の生徒にもわかるようにして置いてください」


アリアもそれだけ言うと天月の方へ飛んで行った。


服部はモンスターに囲まれながらもマナ障壁のお陰で無傷でいた。周りのモンスターは服部のマナ障壁を壊そうと試みるが、どんどん溢れてくるマナ障壁に成すすべがない。服部も天月の声が聞こえて、戻ろうとしたが周りがモンスターに溢れてしまい有効な攻撃手段がなく、身動きが取れなくなってしまった。


そこに高速で何かが突っ込んできた。甲高い音を響かせながら、モンスターをなぎ倒してやってきたのは天月だった。


「無事か、服部」

「おうよ、しかしモンスターが邪魔で動けねぇ」

「少し待っていろ」


モンスターたちは後からやって来た天月に殺到したが、近づいてくるモンスターを悉く天月は切り裂いていく。甲高い音を出している刀は普通の刀なら壊れてしまいそうなモンスターのどんな硬いものも関係なしに切り裂いていく。


モンスターを全部倒すと、天月は刀でエスカルゴが出しているマナ障壁の方を指した。


「あっちにエスカルゴが4組と一緒にマナ障壁を張ってくれている、そこに合流してマナ障壁を強化してくれ」

「天月はどうするんだ」

「他の生徒がモンスターに襲われてないか、確認してくる」

「俺もい・」

「お前じゃ、足手纏いだ、早く行け」


服部の言葉を遮ると天月ははっきりと現状を伝えた。


「わかった、気を付けろよ、天月」


それが分かっているのか、少し唇と噛むと服部は天月の言葉に従った。


「大丈夫だ、そっちこそ何があるか、分からない気を付けろよ」


服部がエスカルゴの方に行ったのを確認すると、天月は一つのMEDを取り出した。


「ここでこれを使うことになるとは」


天月はまず、生徒手帳を外し、自分のMEDを胸の前に持ってくるとマナを流し展開した。そこには巷で噂されている白銀の翼と同じMEDを全身に装着した、天月がいた。背中には白銀の翼と言われる由縁の白いマナの翼が4本出現する。素早くそれに生徒手帳のMEDを付けると、顔を隠しているヘルメットを軽く、人差し指と中指で触った。それによりヘルメットのシールドに文字が浮かび上がる。


「ラショナル起動しました」


いつも聞きなれた機械的な音声と共にあらゆる情報がシールドに流れ始めた。


「ネットは?」

「現在、接続できておりません」

「では、入れておいた予想マップとカメラから現在の地形を把握しろ」

「了解です」


天月は会話をしながら、フィールドの上空ぎりぎりまで上昇した。


「今から索敵に入る、生徒の位置とモンスターの位置から、最短距離を割り出せ」


天月の右腕から索敵魔法が放たれる。マナを飛ばして、相手のマナの反応を見る魔法でアトランジュ側では一般的に使われているが敵にこちらの位置がばれてしまう為、さっきまでは使えなかったが、今は非常事態なのでそうも言っていられない。フィールド全体の敵は天月の存在を認知しただろう。ヘルメットに内蔵されているカメラで撮影するために天月はフィールド全体を見渡した。


「ルート算出しました」

「誰一人、絶対死なせない」


強い決意を胸に天月は上空から急降下で降りて行った。

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