第16話  冒険者登録

午後、皆がクラス対抗戦に向けて練習している中、服部が天月に話しかけてきた。


「なぁなぁ、天月、冒険者登録に行こうぜ」

「なんで今頃、冒険者登録しようと思ったんだ」

「なんでって、もうすぐ俺たち、アトランジュに行けることになるだろ」

「それは確かにそうだが、語学で合格を貰ったら、だろう。ケツから数えた方が早い、お前がそもそも大丈夫なのかって問題があるが」

「そこは置いといてだな」

「そこは置いとくのか、まぁ冒険登録自体はこの学校でもできるし、やっておいていいんじゃないか」

「なんだよ、天月はしないのか」

「残念ながら、俺はもう済ませているんでな」

「なっ、いつの間にずるいぞ」

「いや、入学の時の書類にあったぞ」

「まじで、見逃していた―――」


演習場から移動してきた2人は、学校内にある冒険者の受付に来ていた。


「ここで冒険者の登録は出来るはずだ」

「何で、学校に受付なんてあるんだ?俺はこう学校の事務室的な所で手続きをすると思っていたぜ」


「オホン、それは私、綾城涼音、ここの受付をしているから説明します」


受付に座っていた女性が神崎たちに喋りかけてきた。それに対して服部の顔は誰こいつって顔をしていた。


「色々と冒険者の処理をしてくれる人だ。これから付き合って行くことになるから、そんな顔をするな」

「でもよ、話に割って入ってくるような人にいい奴はいないぜ」


人生経験なのか、妙な説得力が服部にはあった。


「何よ、結局、私が説明するんだからいいでしょ、それに先輩は敬いなさい」

「それは意外ですね」


ここを卒業するだけ、どのからも引く手数多のはずだ。それがわざわざここに残るのには理由があるはずだ。


「それでは説明させて頂きます、まず、冒険者登録をするとこのギルドカードが発行されます。これはアトランジュの世界では身分証明書の代わりになります。さらに、アトランジュでの世界での宿泊施設や買い物なので優遇措置があります」

「なんだ、すげー便利じゃん」

「しかし、その代わり、モンスター大量発生した場合など、緊急クエスト発生時には、それに参加する義務が生じます」

「つまり、優遇されている代わりに度々、義務的なものを発生するってわけだ。服部、まぁ、俺たちはこっちに住んでるから、あんまり関係ないけどな」

「基本的に招集される冒険者はその場所にいる冒険者となります。確かにあまり関係ありませんが、もしもの時があるので頭の隅に置いておいてもらうとうれしいです。ここではクエストを受けることが出来ますが、あまりお勧めはしません、ここでは常駐クエストしかありませんので、現地に行ってクエストを受けることをお勧めします」

「つまり、どういう事?」

「つまり、ここにはいつもあるクエストしかなくて、現地に行くとそこから出たクエストがあって同じクエストでもそっちの方が報酬が高い場合があるってことだ」

「そういう事ね」


服部はウンウンと頷いているがこれは分かってないなと天月は思った。


「もう一つ、地球側の生徒なら、解体の講義を受けることをお勧めします」

「それはここで受けることが出来るんでしょうか」

「可能ではありますが、準備がありますので申し込みして頂いて、後日と言うことになります」

「だったら、アトランジュに行く予定が立ったら、その手前に出来るようにしよか、服部」

「えーーそんな講義受けなくたって魔物倒せれば、関係ないじゃん」

「多分、受けといたほうがいいぞ」

「あんた、馬鹿でしょ、この賢い、お友達の言う事聞いといたほうがいいわよ、何で私が受けといたほうがいいなんて言ったと思う?」

「それは・・・」


綾城に理由を説明しろと言われ、わからず、服部は口を噤む。


「地球の人たちは、あまり魔物に触れたことがないから言っているの、解体の善し悪しによって素材の買い取りやクエストの可否だって変わってきたりするのよ、何ならちゃんと死体の処理をしないとその匂いに釣られて他の魔物だって寄ってきたりするのよ、あんたのせいで仲間が危険になったりするの、そんな後悔をしたくないなら大人しく解体の講義は受けときなさい、わかった」

「はい、わかりました」


すごい剣幕で綾城は服部にまくし立てた。服部は言われている側なので気づいていていないが、綾城が語っているのは自分が体験したことだと天月には分かった。自分も魔物を刈ったことが無かったら、服部と同じ意見を出していたかもしれない。


「それじゃ、話も終わった所で今日の目的の冒険者登録をしようか、服部」

「あぶねぇ、忘れるところだった」

「では、こちらに記入お願いします」


綾城さんから出されていた紙につらつらと書いて服部は空欄を埋めていく。


「はい、確かに冒険者登録はこれで完了です、後日、ギルドカードは出来次第、先生を通じて渡すように手配しておきます」

「ありがとうございます」


用事が終わり、ここから天月たちが立ち去ろうとした所、そこにアリア姫がエスカルゴを携えて現れた。それを見て、天月はその場を立ち去ろうとするが、アリア姫が呼び掛けた。


「ソラ、聞きたいことがあります」

「なんでしょうか、アリサ姫」

「貴方はいったい、ご両親がお亡くなりなってから、学校にも行かず、どこにいたのですか」


アリアのご両親がお亡くなりになったと言う発言に服部は目を見張った。


「それを話す理由は俺にはありませんね」

「待ってください、ソラ――」


それだけ言うと天月はアリサ姫の制止の声も無視して歩き去った。


「あんな無礼な奴、クロード姫が気に掛けなくても良いのです、放っておきましょう」

「無礼なのは私ですよ、エスカルゴ、私も彼が簡単に答えてくれるとは思っていません」

「何が無礼なのですか、アリア姫の言葉を無視する方が無礼じゃありませんか」

「彼の死んだ両親の話題を出したのです。その時点で罵倒を浴びせられても文句は言えません。それに彼は私の国の国民ではありませんし、私を敬う義務はありません」

「ですが――」

「彼の事はもういいでしょう、今日はここに見学に来たのです。早く要件を済ませましょう」

「わかりました。姫がそう言うなら、もう何も言いません」


少し2人は離れ、人のいない教室にいた。


「天月、そのご両親の事・・・」

「そんなに気にしなくていいぞ、俺が話さなかったんだ、お前が気にすることじゃない」

「でもよ」

「少し話をしようか、馬鹿な少年の話だ」

「天月何を―」

「その少年は両親が亡くなって、悲しかったが泣くわけでもなく、叔父さんに頼み込んで鍛えてもらおうとしたんだ。両親が死んだのは、自分が弱かったせいだとな、その少年は5歳で傍から見たら、守られる側なのにな」


天月の5歳と言う発言に服部は息を飲む。


「叔父さんに稽古をつけてもらうが、1年で叔父さんから教えることは何もないと言われ、それでも尚強くなりたかった少年は、叔父さんのコネを使って、アトランジュに武者修行の旅に出るんだ。そして、また、現実を知ることになる。そして、ある人の誘いを受け、高校に入学することになるんだ、面白い話だろ」

「全然、面白くねぇよ、話してくれたのは嬉しいけど、無理すんなよ」


天月の顔に変化はなかったが拳を強く握っていた。


「そうだな、悪い、服部、今日は調子が悪いから帰るわ」


天月はそのままトボトボと帰っていった。

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