第11話  仕事

演習場に着いてみると先生たちが生徒たちに囲まれていた。どうやら、指導をしてもらっているみたいだ。


「どうやら、あれが普通の光景みたいだな。どうする、服部、あっちに行くか」

「いや、やめとく、あの人数ならまとめて教えると思うし、そんなの俺にはわかんねーしな」

「意外と頭が回るのね」

「意外は余計だ。それで俺は何をすればいいんだ、天月」

「マナを自由に出せるようにするとこから始めようか、服部、生徒手帳を出してMEDを起動してくれ」

「おう」


生徒手帳を取り出した服部は腕に起動したMEDを付けた。


「これから、どうするんだ」

「まずはマナを出してみろ」


服部は言われた通り、MEDからマナを出すが形が不格好なものが出てきた。


「なんで、天月の出すマナと違うんだ」

「それが次の段階だ。出したマナの形を変えて見てくれ」

「どうやって?」

「意志の力で変えるんだ。見ていろ」


天月は服部に近づくとマナに触った。その瞬間、マナは服部から離れ、天月の指先に移った。


「意志の力、マインド力などと呼ばれているがこれによってマナは操作できる。これが弱いとこんな風に他人にマナを利用されることがあるから注意しろよ」


喋りながら、天月は指先のマナを変幻自在に変化させていた。


「動かしたいと思えばいいってことか」

「そうだな。具体的にどう動かすかを考えると早くできるぞ」

「ふん」


掛け声と共に腕に力を入れている様に見えるが僅かに10センチほどマナが動いただけだった。


「全然、うごかねぇ――」

「最初はそんなものだ。あとは日々の積み重ねだな」


服部が悪戦苦闘している中、何もしない霜月の方へ、天月は振り返った。


「霜月は何もしないのか?」

「今は彼を見ていることにするわ、この調子じゃ、彼が一般生徒のレベルに追いつくまでかなり掛かりそうね」

「じゃあ、霜月はあっちに行くのか?」

「いえ、確かにあっちの方が色々と学べそうだけど、人と同じことをしていたら、私はダメなのよ」

「つまり?」

「貴方に教えてもらうわ」

「何故、俺なんだ?」

「貴方のマナ操作を見たらよ。あそこまで簡単にマナ操作をやっているとこは他では見たことないもの」

「なるほど、しかし―」

「彼も見なくちゃいけないでしょ。片手間でいいわ。私は誰よりも強くなりたいの」

「了解した」


天月は2人のアドバイスをして放課後まで過ごした。最終的には服部は1分ほどでマナを鎧状に張れるようになった。


六限目の終わり、帰宅のSHRでも速やかかに行われ、生徒達が帰宅しようとしていた所に才波先生は何人かの生徒を呼び止めた。


「おい、服部と日番谷と渡辺、ちょっと来い。お前たちにはこれを渡して置く。このブレスレットはマナを吸収してくる。金属や無機物は純粋なマナに反応して形を変える。つまりだ。まだ、マナをうまく扱えないお前たちは勝手にマナを出して、怪我をする可能性があるということだ。慣れるまでは遊ぶなよ」


才波先生がそう言って渡したのは、シンプルなシルバーのブレスレットだった。普通のアクセサリーと言われても普通の人は疑わないだろう。


「ま、お前らの取りあえずの目標は1週間以内だな」


おもむろにそんな言葉を残すと才波先生は教室を立ち去った。その言葉の意味は才波先生が語らなくても、ブレスレットを受け取った生徒たちには伝わったようだ。


天月は放課後、伯父の所ではなく、別の場所にいた。高層ビルと言っていいほどの高さを有したビルの中にいた。


「昼間、才波先生から長瀬さんの話を聞きましたよ」

「また、あいつ余計なことを・・・」


そこに天月と一緒にいたのはこの会社の社長で今、異世界との貿易で一番稼いでいるといわれている長瀬隼人。才波の話に出てきた友達を100人作って第一国連科学魔法学校を卒業して人物本人だった。


「楽しい話でしたけどね」

「そんな事より、わが社の新商品はできたのか」

「もちろんできていますよ。ほら」


天月が投げたのは、地球で使われている小型の携帯端末だった。


「学校の生徒手帳と同じ機能の勝手に人の魔力を吸い取って動く端末ですよ」

「おーもうできたのか。これでアトランジュにもやっと機械が導入できる」


魔法を常用して使われるアトランジュでは本人が意識していなくてもマナが溢れている場合が多々ある。その場合、地球側で使われている機械類は膨張して、使い物にならなくなってしまう。それにより、これまでアトランジュ側では機械があまり投入されることはなかった。


また、この問題により、戦争が終わったのにも関わらず、地球側では魔法が、アトランジュ側では機械がまだ、あまり普及していない。


「全く、この生徒手帳だって、やっと作ったって言うのに、俺に仕事任せ過ぎじゃないですか」

「ほかの連中は、商談でひっきりなしにあちこち行っているか、MEDの制作で手一杯だからな」

「もっと人員を増やせないんですか」

「無茶言うなよ。これでも、うちは最大手なんだぞ。基本、MEDはオーダーメイドな上に、作れる人間なんてそんなにまだいないんだぞ」

「だからと言って、高校生に一大会社の新商品を開発させるのはどうなんですか」

「持っている才能を使わないのは宝の持ち腐れだろう」

「報酬は貰っているので構いませんが高校生だけに頼るのはやめてくださいね」

「わかってるよ」

「所で例の物、用意できましたか?」

「いつものようにお前さんのラボへ、運んであるぜ」

「それはありがとうございます。じゃあ、俺はラボに行きますね」

「こっちの商品開発は、もう終わりか?」

「それならいくつかの候補をファイルで送っといたんでどれを作るかは勝手に決めてください」

「全く、仕事が早いことで」


振り返りもせず、天月は部屋を出て行った。


天月がエレベーターで降りた先は地下30階、そこは社長の長瀬すら、立ち入りを禁止されている天月専用のラボになっていた。


天月床に置いてあったのは箱の中には、大きな金属だった。それはアトランジュでも加工が難しく、マナにあまり反応しない代わりに耐久性が一番高いものだった。


「これがアダマントか」


天月は箱からひとかけら取り出すとマナを流した。情報通り、その金属の面積はほとんど変化していない。


天月の腕が少し光ったかと思うとアダマントがほんのり赤くなりだした。


「やっぱりだめか」


そう天月が呟いて、天月は突然手にしていたアダマントを空中に放り投げた。その瞬間、空中に投げられた、アダマントが爆発した。


素早く手に残っていたマナで爆発を囲った為、特に被害は無かったが天月の表情は険しかった。


「これでも駄目か」

「夜空様がいつも使用しているMEDより、2.1秒、臨界時間が長くなっています」

「そうだが、これではいつもより少し長いだけで使えないぞ、ラショナル」

「加工を行えば臨海時間が1.2秒は延びると想定されます」


機械的な音声で天月と会話をしているのは、天月が自分で作成した人工知能プログラム、ラショナル。立ち位置禁止になっている、このラボにアダマントを運んだものラショナルだ。


「取り敢えずは構造分析からか」


端末が震えた。画面を見るとエレベーターの方へ天月は歩き出した。


「呼び出しか、後の解析頼む、ラショナル」

「了解しました。行ってらっしゃいませ、夜空様」

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