第10話  勧誘

5限目が始まり、本当に才波先生が来ず、目の前にディスプレイに自習と虚しい文字が浮かんでいた。


自習の文字がディスプレイに表示されていた。


突然、教室の前に扉が開かれていたが入って来たのは、才波先生ではなかった。


上級生、制服に使われているデザインの色が自分たちとは違うので勘のいい生徒はすぐに気づいた。


入って来た上級生は4人。内、男子生徒は1人、残りの3人は女子生徒だった。


「天月夜空って生徒はいるのか」


ただ、一人いる男子生徒がクラス全体に聞こえるように質問を投げかけてきた。


その質問に対して回答する生徒は現れず、しんと無言の空間が広がった。しかし、皆の視線は一点を見つめていた。


当の本人はその視線や先輩の声を気にせず、黙々と机のキーボードを叩いていた。


「君が天月君かな」

「そうですが」


天月は前の質問に返事をしなかったのに、今度は質問に答えた。相変わらず、机のディスプレイから目を離していないが。


「返事ぐらい、返してくれてもいいんじゃないかな、天月君」

「する必要性がないと思いましたので」

「それはどうしてだい?」

「わざわざ、早くに教室にいらしたのはその為でしょう」


つまり、先輩たちが来るのが早すぎたのだ。チャイムがなってから教室に入って来たのは1分以内だった。それではふつうはまだ、教室に全員が残っていても不思議ではない。いや、普通なのだ。


上級生たちは天月の質問には答えず、勝手に話し始めた。


「まだ、自己紹介がまだだったね。僕はマチス・マーチェスだ。書記をやっている、よろしく」

「生徒会長のノア・シルヴィアです」

「副会長のサラ・オクレールです」

「書記のミシェーレ・セナンクールです」

「僕たちは次席のエスカルゴ君が負けたと聞いてその噂を確かめに来たのさ」

「そうですか、生徒会もこんな一介の生徒に会いに来るなんて暇ですね」

「そんなことはないさ、あの次席のエスカルゴ君を倒しただけでも十分、評価に値するよ」

「その噂が本当か、どうかは確認しないんですね」

「する必要はないだろう」


まるでお前の方が強いだろうと言わんばかりの言い方である。


「通常は主席と次席に生徒会に入ってもらうのが通例なんだけど、生徒会としてもそんな噂が立っている中でエスカルゴ君を生徒会にスカウトしてもいいものかと思ってね。生徒会は全生徒の中で常に最強でなければならないからね」

「それで自分と服部を様子見でここに来たわけですか」

「俺もなのか」


突然、自分の名前が出てきて、思わず、服部は声を上げた。


「へぇ、それもわかっているんだね」

「そこら辺の事情を知っているだけですよ」


謙遜ですと言わんばかりに神崎は肩を竦める。


「これから、君の力を見せてくれないかな」

「嫌です」

「おっと、断られるとは思わなかったな」

「みすみす、自分の手の内を見せる馬鹿ではないので、それにそれ、やめてくれません」


天月が視線で示した先ではマチスの片腕が微かに光っていた。


「軽い冗談だよ」

「もういいでしょう」


ノアがマチスを手で制すと天月に近づいてきた。周りから何事かと悲鳴が上がるが顔近くで止まった。他人には聞こえないように近づいたのだ。


「私は貴方を許しません」


耳元でそう囁かれたが天月には身に覚えが全くなかった。天月は必死に記憶を探るがその間にノアは踵を返していた。


「行きますよ」


ノアが教室を出ていくとそれに続いて、他の三人も続いて教室を出て行った。


「彼、できるね」


誰もいない廊下を歩きながらさっきの出来事を振り返っていた。


「そうね、断られるのも想定内だったけど、少し挑発が過ぎたんじゃない」

「あの程度で冷静さを失うならそれまでだね」

「他の生徒は少し焦っていたけどね」

「ところで最後に会長は彼に何を言ったの?」

「貴方には関係ないことです」

「おー怖い、怖い、珍しいね。そんなに怖い顔をするなんて、彼に恨みでもあるのかな」

「それ以上詮索するなら、それ相応の覚悟を持つことね」


生徒会のメンツが去った後も天月は自分の机で何かを打ち込んでいた。


「何をしているの?」

「そうだぜ、天月、先輩がいるのに何をしてんだよって思ったぜ」

「とりあえず、先生に言われた通り、卒業生の資料でも見てみようかなと思ってね」

机から空中のディスプレイに映し出されたものは円グラフだった。天月はこれをずっと作っていたのである。

「これは?」

「先生が言っていた学校に有益なもの記録だな。今まで卒業生の業績と言ってもいい」

「つまり、これまでの卒業生が何をして卒業資格を得たかのグラフってこと」

「その通り」

「赤ばっかりだな」

「その赤は魔物討伐だ。調べてみるとここの生徒の大半は魔物討伐で卒業資格を得ているみたいだ」

「なんで、魔物討伐ばっかりなんだ?」

「魔物討伐だと、ランクに応じての討伐数で卒業資格が与えられているからだな」

「つまり、魔物討伐だけが基準を決められているってことね」

「そう、つまり、明確に卒業資格を得る簡単な方法が魔物討伐ってことだな」

「そうと決まれば、さっそく、魔物討伐をやりに行こうぜ」

「はぁ」

「なんだ、そのため息は」

「魔物は通常の武装だと効果が薄いものが多いいんだ。魔物討伐は服部のマナ制御ができてからだな」

「天月まで~」

「服部は取り敢えず、演習場で練習だな」


話がまとまった所で天月たち3人は演習場に足を向けた。

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