第9話 昼食
天月は4限目が終わり、昼食をどうするか悩んでいたら、服部が近づいて来た。
「天月、昼はどうすんだ?」
「食堂で取ろうと思っている」
「俺もそう思っていたんだ。席が埋まる前に行こうぜ」
「そうだな」
「私もご一緒してもいいかしら、天月君」
2人の間に入って来たのは先ほど、天月に話しかけてきた霜月響だった。
「お前、いつの間に知り合いになったんだ」
「さっきだよ」
「お前、姫様の時も思ったけど、手が早いな」
「ほぅ、その根拠を詳しく聞こうじゃないか、服部」
「じょ、冗談にきまっているだろ、天月」
天月たち3人は食堂に向かった。そこで3人が見た光景は今の現実というべき光景だった。
はっきりとアトランジュと地球の人達との間で食事をしている場所が分かれていた。2人の世界では戦争がなくなったとはいえ、まだまだ溝は深い。さらにその中で自国の連中で集まっている為、さらにコミュニケーションが取りづらい状況になっていた。
3人とも弁当を持ってこなかった為、食券を買うために自動販売機の前に並ぶ。自動販売機もアトランジュ側と地球側で別れていた。それぞれの世界で食文化や通貨などが違うために2種類の券売機にするほか無かったのだ。それがさらに両世界の溝を深くするのに拍車を掛けていた。
勿論、3人は地球側の自動販売機に並ぶ。
「これ、全部、タダだと!」
「学生には嬉しい限りだな」
「いろんな国の料理があるわね」
注目してみると自動販売機には値段などは一切書かれていない。日本にこの学校が作れているが勿論、入学に日本人だけなどと言う制限はない為、外国からも入学する者もいる。そのために色々な国の料理が取り揃えられているのだ。
「早く、選ぼうぜ」
「そうだな」
食堂の入口には次々と食事を食べにくる生徒たちが入って来ていた。このままもたもたしていたら、混雑の原因を作ってしまうだろう。
「なんか、変な視線を感じるんだが」
雑談している途中、服部が突然、発言した。
「あれがアリア姫を泣かせたってやつだぞ」
「隣にいる奴は、異常なほどのマナ量が多いって話だぞ」
「一緒にいる女子は何者だ」
噂は早いもので授業が終わって1時間もしない内に学校中に広まっているようだ。
「まぁ、仕方ないだろうな」
「そうね、あなた達2人の所為ね」
「気にしてもしょうがない。特に害もないし、ほっとけばいいさ」
「お前たち何のことを言っているんだ」
「馬鹿はいいわねぇ」
「そうだな」
「2人とも俺の悪口言ってないか」
「気の所為よ」
「気の所為だ」
「こんなのでこの先、大丈夫かしら」
「大丈夫?何のことだ」
「おそらく、何も知らずに入学したんだろう。この学校はな、服部。いつも狙われていると言っていい」
「え、この学校ってそんなに危ないのか」
「ほんとに知らずに入ったの、大丈夫かしら」
「取り敢えず、お前は早く自分の身ぐらい守れるようにならないとな」
「え、自分の身を守る?さっきから物騒な言葉が聞こえるのは気のせいか」
「気の所為じゃないわよ」
「まだ、両世界には開戦派の連中がいるわけだが、そいつらとって一番目障りなのが俺たちな訳だ」
「でも、ドラゴンたちが居る限り、戦争が起こっても止められて終わりだろ」
「ドラゴンたちが居ようと学校に生徒が集まらなければ、実質、それは平和崩壊に等しい。親がわざわざ危険な場所に自分の子を送ると思うか。だから、開戦派の連中は学校の生徒を毎年狙っている」
「それって危なくないか」
「危ないぞ。でもな、開戦派連中もそこまで表立って動ける訳じゃない。町中とかは安全だから安心しろ」
「全然、安心できねぇ情報だな」
「だから、あんたは早く自分で強くならないといけないの」
「まじかよ」
「さ、こんなのは、ほっといて早く食べましょう。ご飯が冷めちゃうわ」
「そうだな」
結局、他の新入生がごたついて、混雑が発生したが30分もすれば、それぞれ落ち着いて、席についていた。
「それにしてもここまで、ハッキリ2つの世界でわかれんのか」
「まぁ、そうだろう」
「そこまでする必要があんのか。もう戦争が終わって10年だぞ」
「彼奴等にとってはまだ、10年なんだろう。仕方ないんじゃないか。戦争の時に父親や母親を殺された人だってこの中にはいるだろう。そんな奴らとは普通はすぐに仲良く出来ないだろう」
戦争が終わって、10年時間にしては長いと感じるかもしれないが、2つの世界の溝が埋まるにはまだまだ時間が足りない。
「お前が気軽すぎるだけだろうが気に病む必要は全然ないと思うぞ」
「・・・・」
服部はハッとして沈黙していた霜月の方へ顔を向けた。
「ごめん、霜月さん」
(ほんとにカンのいい奴だ)
「いえ、気にしていないから、大丈夫よ」
「「・・・・」」
2人の間に気まずい空気が流れる。
「さて、昼食も食べ終わったし、教室に戻ろうか、2人とも」
気まずい空気が流れた所に救い船が来たとばかりに、2人は天月の言葉に反応して、食事のトレイをもって返却口の方へ向かった。
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