第8話  卒業資格

「まさか、ホントに勝っちまうとはな」


誰にも聞こえないように才波先生はこっそりと呟いた。


「馬鹿な、俺が負けるはずない」


エスカルゴはフラフラして頭を抱えている。


「エスカルゴ」


動揺しているエスカルゴに突然、叱声が掛かる。


「クロード姫」

「あなたは負けたのです。潔く負けを認めなさい」

「しかし、あんな奴に負けるはずないのです」

「いいえ、あなたの負けです。敗因は貴方との驕りと彼の狡猾さでしょう。貴方は自分のマナの多さで彼を侮り、何も考えずに技や魔法を使用していましたね。それに対して彼は、貴方の技や魔法を避ける為に布石をずっと打っていました。エスカルゴ、貴方は自分の魔法がなぜ避けられたか、わかりますか」

「いいえ、わかりません」

「彼がずっと撃っていた。弾丸ですよ。貴方の周りを見てみなさい」


アリア姫が示したエスカルゴの周りには、よくみるとうっすらと光っていた。


「これは!」

「そう、彼の撃った弾丸の欠片です。今は地面に落ちていますが、さっきまではこれが空中に漂っていました。彼はこれを頼りに貴方の魔法を避けていたのです」

「そうだ、なぜお前は俺が使う魔法が分かったんだ。何かインチキをしたんじゃないのか」


まだ、言い訳をするかと言いたくなったが天月は何も言わずエスカルゴの質問に答えた。


「なぜ、俺の魔法がわかったか、か。今朝、使ったじゃないか。皆の前で」


指輪に刻まれていたのは風系統の魔法であることは朝、確認している。


「そんなことで」


まさか、自らが魔法をばらしていたと言われ、エスカルゴは呆然とした。


「まだだ、俺にはまだ――」

「エスカルゴ」


またもアリア姫から大声で名前を呼ばれた。しかも、さっきより声が大きくて周りがびっくりしたほどだ。


「すみません」

「行きますよ、エスカルゴ」

「はい、クロード姫」


さっきまでの取り乱しが無かったかのようにエスカルゴは悠然とアリア姫の後ろに立った。


「先ほどは取り乱してしまって、すみませんした。取り乱している間とはいえ、危険なことになってしまって申し訳ありません」


アリア姫は深々と頭を下げた。


「いえ、気にしていませんので、お気になさらず」


一国の姫が頭を下げたとあって、天月もつられて頭を下げる。


「本当に何も覚えていないのですね」


アリア姫は小声で誰にも聞こえないようにそっと言葉を呟いた。


「両者ともいい手本を見せてくれた。両方に拍手を」


才波先生は切りのいいところで観覧していた生徒たちに対して言葉を発し、模擬戦の練習に戻るように促した。


「それでは失礼します。エスカルゴ、あなたも謝りなさい」

「悪かったな」


アリア姫はそれだけ言うとエスカルゴを連れて踵を返して歩いて行った。


「すげーな、天月」


アリア姫が離れると服部が天月に飛びついて来た。


「暑苦しい、離れろ」

「悪い、つい」

「ふぅ、やっと終わった」

「それだけかよ、次席に勝ったんだぜ。もっとなんかないのかよ」

「実際にやっている方は緊張しているんだよ」

「そうゆうもんかな。俺なら飛び上がって喜ぶぜ」


もっと喜べよと服部はバンバンと天月の背中を叩くが天月にはただ痛いだけだった。


「まぁ、借りは返した」

「最初からそれ言っているけど、何のことだよ」

「何でもない」

「そんなことないだろー教えろよー」


服部はぐりぐりと肘で天月のことを突いたが天月は教えるかと顔をそっぽに向けた。


(お前の為だなんて言えるか)


天月が返すと言った借りは最後、エスカルゴの顔面に入った石のことである。あの石は朝、服部の顔面に当たりそうになった石だ。それをそっくりそのまま風魔法まで真似して天月は返したのだ。


「少しはMEDを使った戦闘を理解できたか」

「それがよ、全然だぜ」

「少しは学んでくれ」


そうこうしている内に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


教室に戻り、4限目の授業が始まった。


「自己紹介も終わったので、授業について説明する。この学校の授業は6限目まであり、4限目まで通常教科、5、6限目は自習になっている」

「「「自習?」」」


先生の言葉に生徒たちは驚きを隠せない。


「お前らの反応もわからなくはないがもう一度言う、自習だ。簡単に言うと、卒業までに学校に何かしら有益なことをすればいい。簡単な例を言うと魔物討伐などがこれに当たる」


生徒たちの間でざわめきが起こる。あらかじめ知っていたものは何も反応はなかった。


「中には面白い卒業生がいる。例えで言うなら、友達100人作って卒業した奴がいる」


面白いだろうと才波先生はここぞとばかりに、にやりとした表情を浮かべた。


「この学校の目的がなんだか分かる奴いるか」


誰に対して向けられたものか、分からない質問に誰も答えないと思っていたら、一人真面目そうな女子生徒が先生の質問に回答した。


「2つの世界の交流です」

「そうだ。その卒業生はそこに注目した。友達を増やせば、2つの世界の交流というこの学校の目的に沿うことになるんじゃないかと。そいつは友達と思う奴らに自分はコイツの友達ですと署名させて、校長に提出した」

「それでその人は無事卒業できたんですか」

「いや、流石にそれだけでは卒業できなかった。この学校の目的には沿う形にはなるかもしれんがこの学校の利益にはならないと。しかし校長はその後にこう付け加えた。その人脈を元に2つの世界で貿易を初めてみないかとな。その卒業生は提案を快く、承諾して今は貿易商をしている」


話を聞いてピンと来たものと来ていないものがいるがピンと来ていない服部が手を挙げて、才波先生に質問をした。


「それは学校に対する利益になるもんなのでしょうか」

「おいおい、2つの世界を行き来するには必ず何処を通る必要ある?それまで2つの世界での大体的な貿易はやっていなかった。さっきも言ったがこの学校の目的は2つの世界の交流だ。校長は教材を提供してくれることを条件に2つの世界の行き来気を自由にしてくれたってわけだ。生徒手帳や売店で売られているもののほとんどの物はその卒業生が提供してくれたものだ。

普通に魔物を倒して魔石を集める事や研究などの成果を出すのもいいだろう。自分なりの卒業の仕方を探しても面白いんじゃないか、よく考えて決めてくれ」


最初のダメな印象もあり、生徒たちは自然と珍しくいい話をするなと才波先生の話に聞き入ってしまった。


「学校のサーバーに資料が乗っているから参考にして見てくれ」

「さて、次はクラスの委員決めをしたいんだが、机のディスプレイに標示してあるから、したい委員を選んでくれ」


生徒たちの目の前に出されたディスプレイには日本の学校でよくある委員会が並んでいた。


「先生、委員会とはどんなものなんですか」


事情に詳しくない、アトランジュ側の生徒が質問をした。


「そうだな。学校の運営の一部を生徒に行わせるものだと思ってくれていい。一般の高校にはない委員会が存在するが、その詳細はディスプレイに標示されている名前を押してくれれば表示される。一人どれかはやってもらうことになっているので10分間時間を与えるから、選んでくれ。ちなみに選ばなかったものは勝手に委員会が決められるので自分で選ぶことを進めておく」


ディスプレイにはそれぞれの委員会と定員人数が地球側とアトランジュ側で決められていた。これも交流の一環なのか、両世界人数が同じになっていた。


それぞれ生徒達が悩む中、天月は迷わず、一つの委員会を選んだ。


10分後


それぞれの生徒の前には全員の委員会が表示された。


「それでは委員会も決まったことだし、最後にこの学校のイベントについて話しておこう」


また、何かがディスプレイに映し出された。


「クラス対抗戦?」


生徒たちは、ディスプレイの出された文字に首を傾げた。


「そう、クラス対抗戦だ。何度も言うがこの学校の目的は両世界の交流なので、定期的に学年全体のイベントがある。その先駆けがクラス対抗戦だ。クラス対抗戦はその名の通り、クラス別にチーム戦を行うものだ。まず、君たちにはこれに出てもらうことになる。勝ったチームにはけっこう褒賞が出るから期待しておけ」


その言葉に生徒たちは思わず、歓声を上げる。


「クラス対抗戦は毎回、ルールが変わるが最初の一回だけは決められている。端的に言うと旗取り合戦だな。学年全体のクラスがデカイ森のフィールドで相手陣地にある旗を取るというものだ。毎年、怪我人が続出するので模擬戦の練習をしっかりやっておけよ」


ここで4限目の終わりのチャイムが鳴った。


「おっと、ここまでだな。5、6限目はさっきも言った通り、自習だ。よく考えて行動しろ。以上だ」


言い終わると、才波先生は教室出て行った。

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