第7話  天月対エスカルゴ

「あれが天月――」

「そういう噂よ」


周りの女子生徒の噂話がアリア・クロードの耳に入った。


「ちょっといいかしら」

「はひ」


いきなり姫から声を掛けられたことにびっくりした女子生徒は思わず、言葉を噛んでしまった。


「天月って言う名前を聞いたのだけれど、まさか、MEDの開発者の息子がここにいるのですか?」

「あっちの人だかりの方です」

「そうですか、ありがとうございます」


それだけ聞くとアリアは女子生徒に聞いた方向へ歩き出した。


「お待ちください、クロード姫」


エスカルゴは周りの生徒の相手をしていて、急にアリアが動いた為、驚きながらアリアに続いた。


「急にどうしたのですか」

「友達がいるかもしれないのです」

「友達ですか?」


エスカルゴの知る限り、アリア姫には姫として王宮で四六時中、勉強をしていたはずだ。自分も8歳から王宮に出入りしているが姫が誰かと一緒にいる姿は一度も見かけたことがなかった。友達と言える存在が果たして自分以外にいるのだろうか。


アリアはエスカルゴより先に人だかりを抜けた。出た場所には別に意味で印象に残っている2人がいた。


「貴方たちは朝の―」

「ん」


間抜けな声を出したのは服部で、天月は首を動かして声がした方へ首を向けた。


「あの天月夜空を探しているのですが、知りませんか」

「呼ばれているぞ、天月」

「俺に何か用ですか」


アリアは、何かをためらった様子を見せたが意を決して言った。


「貴方、本当に天月君ですか」

「そうですが」


少しだけ悲しそうな顔をした後、アリア姫は再度言葉を発した。


「私のことを覚えていますか?」

「自分に覚えはありませんね」


神崎がそう言った途端、アリア姫の目に涙が溜まりだした。


そして、間が悪いことに人だかりに邪魔されて遅れてエスカルゴが現れた。


「貴様、クロード姫に何をした―――――」

「俺は何もしてないさ、質問に答えただけだ」

「何かなくてクロード姫が泣くものか、決闘だ、貴様、切り伏せてやる」

「なぜ、そうゆう展開になるんだ」


アリア姫は泣きそうでこちらの話を聞いてくれそうにない。エスカルゴも同じ。そんな時、演習場でよく聞こえていた声が聞こえた。


「お、なんか、面白そうなことしているじゃねぇか、受けてやれよ、天月」


天月の後ろから現れた才波先生だが、天月にはにやにやしていることが振り返らずにわかった。


「才波先生、面白がっているだけじゃないですか」

「そんなことはないぞ、天月。次席の魔法のお手本が見られるんだぞ」

「それは俺にやられろと言っているようなもんですが、はぁ、わかりました、朝の借りもあるのでこの際、だから返しておきます」

「それじゃ、決闘内容は俺が決めさせてもらおう」


才波先生は、2人以外を離れさせるとある程度、離れされると他の生徒たちの間にマナ障壁を張った。


「MEDに特に制限は設けないが生徒手帳を付けろ。生徒手帳が腕から外れたか、こちらが戦闘不能と判断したら負けだ」

「では、始め」


開始の合図とともに両者ともにMEAを拡大して、マナ障壁を張った。


先手を取ったのは天月だ。


MEDを拡大させたと同時に発砲音が鳴り響く。


天月が取り出したのは銃のMEDで両手に持っている。マナの弾丸を1発はエスカルゴに、そして、もう1発は何故か上に向けて撃った。


それと同時にエスカルゴが弾丸を物ともせず、MEDを取り出した。


一閃


天月にエスカルゴの剣から伸びたマナの刃が迫るはずだった。


天月がさっき放った弾丸がマナの刃に当たり、エスカルゴの剣を逸らす。だがまだ少しずれただけで、まだ天月に当たる所をエスカルゴに放った弾丸が、エスカルゴの肩に当たって、さらに軌道がずれて、擦れ擦れの所でマナの刃は天月から外れた。


「なぜ、俺が剣で攻撃すると思った」


天月が取った行動はすべてエスカルゴが剣で攻撃するのが前提の動きだった。そのことに気付いたエスカルゴは試合中であるが、動きを止めて天月に質問をした。


「別に難しいことじゃないさ。切り伏せてやるってそっちが言ったからな。それならすぐに剣系統のMEDを展開させてくると予想が出来た。あとは、腕の動きを見て、俺の届くところまでマナを広げるはずだから、そこを撃っただけだ」

「そんなの最初だけだろ」

「そうだな。でもそれだけじゃないさ」

「そんなにマナの障壁が薄くていいのか。そんなんじゃ、僕の剣に一撃も耐えられないぞ」


確かに、マナ障壁は天月の方が見るからにエスカルゴより薄い。


「当たらなければ、関係ないだろ」


この発言に周りからざまわめきが起こる。


今の発言は、天月はエスカルゴの剣をすべて避けて見せると宣言したことになる。


「貴様、覚悟はできているのか」


エスカルゴは天月の発言に顔を真っ赤にしている。


「俺には勝つ覚悟しかない」

「言わせておけば―」


エスカルゴは、横に剣を振るが天月はマナを片足から伸ばし、通常ではあり得ないほどジャンプをして、後ろに飛んで避ける。着地する瞬間には片足から出したマナは体の周りに素早く戻っていた。


「このちょこまかと」

「勝手に中断させといて、勝手に始めるなよ」


エスカルゴはまた、剣を振るが弾丸で剣筋をそらされて天月には当たらない。その行動を2、3回繰り返すが悉く避けられる。


「こうなったら」


エスカルゴは突然、腕を前に出す。手に嵌めている指輪が僅かに光ったと思ったら、天月はすぐさま横に飛んだ。


天月が元いた場所に突風が吹き荒れた。


「なに!」


エスカルゴはまた腕を天月に向ける。天月はこれにまた横に飛ぶ。飛びながらマナ弾丸を飛ばすが一向にエスカルゴの障壁が破れる気配はない。


周りの連中は風の音が聞こえているだけで何が起こっているか、分かっていない。

天月がまた横に飛び、才波先生が張ったマナ障壁の前に来た。天月がまた、横に飛ぶ、その時マナ障壁が何かで切られたように削られた。


それによってエスカルゴが何をしているか他の生徒にも理解できた。


魔法によって、鎌鼬のような風を作っているのだ。目に見えないはずの風を天月はいとも簡単に避けている。


避けている合間、天月の銃弾が止めどなく、飛んでいくがエスカルゴが張ったマナの壁にことごとく弾かれていく。


「無駄、無駄、貴様のマナの総量は圧倒的に俺に劣っている。そんな攻撃では、俺のマナ障壁を破るのに1時間はかかるぞ」


弾かれるのが分かっていながら、なおも天月は撃つのをやめずにいた。


当然、天月は撃つのをやめ、何かを空中に放った。天月は素早く、放ったものに弾丸を当てる。弾丸の勢いに押され、当たったものはエスカルゴに腕のMEDに飛んでいく。


高速で迫ったそれはエスカルゴのマナ障壁に当たって、盛大に金属音が鳴った。マナ障壁に当たり、エスカルゴの目の前に落ちたものは、マナの刃が出ている学校のMEDだった。


「さっきの借りを返す」

「この程度で僕を倒せると思うな」


確かにMEDで弾丸の時よりマナ障壁を倍は削ったがそれでも半分以上エスカルゴのマナ障壁は残っている。天月はまたも弾丸を飛ばす。今度の弾丸は今までの真っ直ぐ飛ばず、曲がってエスカルゴの腕のMEDに飛んでいく。


「マナの遠隔操作だと」


流石にマナ障壁を一点集中で狙われたら破られる可能性があると思い、エスカルゴは腕部分のマナ障壁を修復しようとしたが、思わぬ邪魔が入る。


エスカルゴの顔面前に石が振って来た。エスカルゴの顔面前で突然、突風が起こり、勢いよく石が当たった。その衝撃によりエスカルゴに一瞬の間が生まれた。そこにさらに天月は弾丸を打ち込む。


カランと虚しい金属音が響いた。


「そこまで、勝者、天月夜空」


エスカルゴのMEDが外れたことによって、才波先生が勝者宣言をした。

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