第6話  マナの性質

服部を置いて速足で戻った天月は、まぁこれと言って言い寄ってくる奴らのことは考えたりせず、自分の腕についている携帯端末から書籍データを出して読書を始めようとしていた。


(まぁ、今は俺が狙われるわけではないから気楽にいくか)


机でディスプレイを出して、読書を始めようとしたら、突然、誰かに声を掛けられた。


「昨日はありがとうございました」

「ん、何のことですか?」

「昨日の生徒手帳のことです」

「あー、そのことですか、気にしなくていいですよ」


天月は昨日のことは本当に勝手なお節介でやったことだ。見返りなど微塵も期待したわけではない。


「それでも助かったのは事実ですので、お礼を言っておきます」

「はぁ、丁寧にどうも」

「私は霜月響です。今後ともよろしくね」

「天月夜空です。おそらく、そちらが知っている、あの天月です」


霜月の目が大きく開かれたことから先に天月は正体をばらした。


「そうなのね。それならこれから大変なことになりそうね。さっきの彼もあなたも」


若干、驚きの表情を浮かべた霜月だったが、特に何もなくて夜空は安堵した。


「それじゃ、頑張ってね」

「そうするよ」


4組の皆が戻り、才波先生が戻って来た。


「えー、取り敢えず、4組は3限目に演習場が入っているので、それまで取り敢えず自己紹介でもしてもらおうか」


(やっぱり、来たか)


夜空が予想していた通り、自己紹介がやって来た。名前からも自分が最初なのだが


「天月夜空です。以上です」


夜空はたったそれだけの一言しか言っていないにも関わらず皆がざわついた。


「まさか、あの天月ですかね」

「え、教科書に出てきた」

「それしか、考えられないだろ」


才波先生もよけいな騒ぎになるのを恐れたのか、一声かけて夜空の自己紹介を終わらせた。


「それじゃ、次だな」


ざわめきが収まらない内に次の自己紹介が始められた。次の人はとてもやりづらかったのは仕方がないだろう。


自己紹介が終わり、2時限目と3時限目の間に服部が天月に近づいて来た。


「なあなあ、なんで天月の時だけ、皆騒がしかったんだ?」

「そうだな・・・、事前に配布された資料を見ろと言ってやりたいが、此処だと机の端末で見た方が早いだろ」


天月が机に生徒手帳をセットしたら、空中にディスプレイが浮かび上がった。認証の文字が出ると天月はMEDの記述について服部に向けた。


「えーなになに、MEDはこの第一国連科学魔法学校、第1期卒業生、天月 湊によって作られ、今では両世界になくてはならないものに変わりつつある」

「そこだな」

「え、まさか、この天月?」

「そう、その天月」


現実を理解しようとしない服部に天月は軽い返事で答えた。


「うぇ、え――――――――」


ようやく天月の正体を知った服部の驚きの声が教室中に響き割った。


第一演習場に向かって歩きながら、2人は話をしていた。


「全く、そうならそうと早く言って欲しかったぜ」

「別に言わなくても後で教科書やなんやらで知ると思ったからさ」

「心臓に悪いぜ」

「そっちが勉強してないのが悪いんだろう」

「それはそうだけどよ」


服部は言われたことに反論できずに決まりの悪そうな顔を外に向けた。


「ほら服部、それよりももうすぐ第一演習場に着くぞ」

「あ、待ってくれよ、天月」


外に顔を向けていた為、反応が遅れた服部を置いて、若干、速足で天月は第一演習場に向かった。


第一演習場に着くと先ほど同様、別の4組とは別の組の生徒が集まっていた。人数的にはもう1組集まっていた。その答えはすぐに才波先生が教えてくれた。


「えー今から1組と4組の合同練習を行う」


またも、学年全体の時の様に才波先生の声が全体に響く。


「今から模擬戦を行うと思うのだが、魔法も満足に扱えない者もまだいる為、その者達には学校が用意したMEDを使用してもらう」


先生の前には台車があり、太さ1cm長さほどの細い棒がいくつも置いてあった。


「このMEDには、生徒手帳と同じ様に自動的にマナを吸収する機能が付いている。その代わりに威力の調整が聞かないが初めて触るものにとっては十分のはずだ。注意して扱うように。自分のMEDを持っている者はそのまま自分のMEDを使ってくれて構わない」

「あとは、生徒手帳のMEDを使って自由に模擬戦を行ってくれ」

「それじゃ、服部、前にMEDを借りに行こう」

「そうだな」


2人は前の才波先生の所に歩いて行った。


「才波先生、MEDを2つ貸してください」

「服部、お前1人で2つか」

「俺と天月で2つですよ、才波先生」

「まぁいいだろ。天月は大丈夫だろうがお前は特にこれの扱いには気を付けろよ」

「こんなの全然、問題ないですよ」


服部はそういうと何も聞かずに台車の上にあるMEDを手に取ろうと触った。


「馬鹿、勝手に触るな」


才波先生の注意も間に合わず、服部はMEDのボタンに触れしまった。


その瞬間、MEDは文字道理広がり、マナの刃が出た。


幸いマナの刃が出た先には誰もいなかったので刃が刺さるなんてことはなかったが、もし目の前に人がいたなら確実にマナの刃が刺さっていただろう。


「自動的にマナを吸収すると言っただろうが浮かれていると怪我するぞ、服部。気を引き締めろ」

「はい、すみませんでした」

「MEDの横にお前が触ったボタンがあるだろう。そこを押せば元に戻る。今度は説明を聞いてから触るように」

「以後、気を付けます」


服部は謝ると自分のいた場所に戻ろうと後ろを振り向くが演習場にいる全員から視線が集中していた。


「天月、俺、やらかしたかな」

「さっきのこともあってさらに注目が集まっているな」

「ですよね」


そんな中だが、前に立っていても仕方ないので2人は元いた場所に戻った。


「さぁて、やるか、服部」

「よろしくお願いします。天月先生」

「才波先生が模擬戦と言っていたから、それについて説明しよう」

「模擬戦?」

「基本的にMEDを付けた者同士が戦うとマナの障壁を突破出来るかが勝負のカギになってくる」

「それなら、マナの少ない奴が絶対的に不利じゃねぇか」

「それはそうだ。だけど絶対じゃない。マナの障壁は、基本的にMEDから出たマナと言っていい」

「だからなんだよ、マナの優劣は変わらなくないか」

「いや、物質をある程度広げたマナは、その物質の性質を持って出てくる。つまり、弱点が基本的に存在するんだ」

「つまり、弱点を突けばいいってことか」

「その通り、弱点を突けば、マナ障壁が意味をなさないことだってある」

「意味をなさない?」


意味が分からず思わず、服部は首を傾げた。


「そうだな。例えば、この生徒手帳のMEDは素材で言ったら金属類だろう。それを使って体の周りにマナの障壁を張ったら、金属の鎧を着ている状態になる」

「そうだな」

「そんなので体をガチガチに包んだら呼吸できないと思わないか」

「確かにそうだな」

「つまり、呼吸は確保できるように最低限の隙間はあるわけだ。そこに魔法で酸欠になるように二酸化炭素でも送ったら、それでこっちの勝ちってことだな」

「なるほど、天月の説明は分かりやすくて助かるぜ」

「それじゃ、取りあえず説明は終わりだな。早速、MEDでも使ってみるか、服部」

「それを待っていました」


言われて瞬間、服部はさっき事故で押してしまったボタンを押した。


その瞬間、さっきと同様にMEDは拡大され、マナの刃が飛び出した。マナによって作られたのは剣と言える形だった。


「それにしても軽いな」


服部は腕を振り、感触を確かめているが、容易く風の切る音がしている。


「マナには質量がないからな」

「え、そうなの」

「しかもMEDは展開する前の質量しかないから、基本的に軽い」


天月は服部に説明しながら、自分も学校用のMEDを取り出した。


「次は――」


この学校に入学する者なら、当たり前に知っているようなことを天月はため息をつきながら服部に説明し始めた。

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