第5話  生徒手帳のMED

「天月、あの時に何をしたんだ」


教室に入り、服部はさっき自分に何が起こったか、わからないと言った感情を隠せないまま天月に質問した。


「普通に石を掴んだだけだ」


天月が広げた手の平からはさっき服部に飛んできた石が握られていた。


「掴んだのは分かったけど、いつの間に近くに来たんだ?」

「お前が中々戻って来ないから、様子を見に来ていたんだよ」

「そうゆうことか」

「もうそろそろ、席に戻ったらどうだ。先生が来るぞ」

「そうだな」


納得したのか、服部は席に戻った。


(実際は結構、ギリギリだったけどな)


魔法の発動した瞬間、天月は服部と別れた場所から1歩も動いてはいなかった。魔法の発動に気づいた天月は発動の中心に視線を向けたところ、魔法が発動し風が起こり、道が出来た。そのど真ん中に服部がいた。そして、石に気付いた天月は瞬間移動とも言える速さで移動して石を掴み取った。


「おーし、お前ら席に着け―」


大きな声と共に才波先生は教室に入って来た。


「えー、今日はまず、最初に昨日、配った生徒手帳の他の機能についてまず説明する」


才波先生は懐から生徒手帳を取り出した。


「気づいている者もいるかもしれないが、これにはMEDの機能が付いている。MEDについては知っていると思うが、実際に着けた者は少ないはずだ。なので、今から演習場に行き、基本を説明する。付いてきてくれ。あと、地球側の連中は金属類を外して演習場に向かうように」


そう言うと才波先生は教室から出た。昨日と同様、突然の事に戸惑いながらも生徒たちは才波先生の後を追った。


才波先生が向かったのはグランドでなはなく、第一演習場と書いてある場所だった。そこはコンクリートのようなもので作られた殺風景な光景が広がっていた。


天月たちが第一演習場に着いたがどうやら4組だけではないようだ。近くに人だかりが出来ている。1年で人だかりが出来るような有名人はアリア姫だけだろう。


「えーこれより、生徒手帳のMEDの使い方を教える。まず、生徒手帳の真ん中に付いているボタンを自分の二の腕に付けて押して見てくれ」


才波先生は、いつの間にか、全生徒たちの前に居て説明を始めていた。天月たちは演習場の後ろの方にいるのだが才波先生の声がしっかりと聞こえてくる。


生徒たちは才波先生の言う通り、二の腕に生徒手帳を付けてボタンを押し始めた。押した生徒の生徒手帳は、外装が変形して腕に巻き付いた。外装部分が腕に巻き付いて、内装が外に剝き出しになった。内装の中心に球体があり、人それぞれ違う色をしていた。


「今、生徒手帳がバンクルの様に二の腕に巻き付いていると思う。これには自動的にマナを吸収する機能が付いている。それによってまだ、マナのコントロールが未熟な者も簡易的だがMEAを展開できるようになっている」


生徒たちはそれぞれ、色々な反応だった。驚くものもいれば首を傾げるものいた。


その中で首を傾げていた生徒が前に出て才波先生に質問をした。


「先生、なぜ、腕だけにMEDを付けるようにしたんですか?普通のMEDは全身のはずですが?」

「その疑問を持つのも当然だろうが、まずMEDってのは、個人的に色々と設定しなきゃならんから全員分用意できないんだ。その分、腕なら多少、太さが違っていても関係ない。これはそれが調節できるように出来ている」

「なるほど、ありがとうございます」


納得がいったのか、質問してきた生徒は頷いて元の場所に戻って行った。


「また、この生徒手帳にはさっき言った通り、長さの調節ができるのでMEDの上にも付けられる仕様になっている。これには一定のダメージが入ると外れる仕組みがしてあるこれによって模擬戦闘などの勝敗を決める。説目は以上だ。各自それぞれ、MEDの感触を確かめてくれ」


と言われたものの、マナがコントロール出来ている生徒はともかく、魔法について初めて学ぶものにとっては何の感触を確かめればいいか、分かるはずもない。


そんな生徒がここにいた。


「なぁ、天月、これどうすればいいんだ?」


天月は頭を抱えたくなったが、仕方がないと腹をくくり、服部の方へ振り返った。


「そうだな、服部、まずは体からマナが少しずつ抜けていると思うがその感覚はないか」


服部は生徒手帳がついている腕の方を見て、腕を振って感触を確かめて見た。マナの光が生徒手帳の周りを照らしているので間違いなくマナは吸い取れていることが見て取れた。


「うー、全然」

「それじゃ、どうするかな」


基本的にマナを感じることが出来なければ次のステップに進むことができない為、服部には何とか感じてもらう必要がある。服部の場合、特待生ということもあり、おそらくマナの量が多すぎるため、感じることが出来ないんだろう。


「それなら、俺からマナを流す。多分、お前の中のマナが俺のマナに対抗して減ってくると思うから、それを感じてくれ」

「わかった」


天月は服部のMEDに触れマナを少量流した。男子同士が密着していて、周りから白い目で見られるが気にしてはいられない。


「どうだ?服部」

「んー全然わからん」

「そうか、もうちょっと強くするぞ」


1分後


「はぁ、はぁ、どうだ、服部」

「ちょっとだけ、わかったかも」

「そうか」


マナを使いすぎて息切れを起こした天月は、手を膝に付きぐったりしてしまった。


(こいつ、どれだけマナがあるんだ。こっちは3分の1もマナを消費したぞ)


「はぁ、はぁ、次はMEDを通してマナを出して見てくれ」

「了解、ふ」


服部の腕のMEDから溢れんばかりのマナが出てきた。


「馬鹿、出し過ぎだ、ちょっと抑えろ」


爆発的に出てきたマナはすぐに服部の周りを埋めてしまった。


「お、おう」


服部は何とかマナが溢れ出るのを止めた。


「止めたぞ、天月」

「そうだな、そして目立ってしまったな」


天月の言葉で周りを見渡した服部は自分に視線が集まっていることに気付いた。


「なんか、まずかったか」

「そんなことはないが、今後、面倒くさくなりそうだ」

「どうゆうことだ?」

「簡単に言うとお前の素質に気付いた奴らが、お前に勧誘なんかしてくるだろう」

「何だ、そんなことか」

「軽く捉えているみたいだが、結構大変だと思うぞ」

「そんなの、全部、断ればいいんだよ」


楽観的に捉えている服部に天月は絶対大丈夫じゃないと思った。ここが各国の権力が集中している学校だと、権力を主張する場所だということが分かっていない。そんな各国が簡単に断れるような勧誘の仕方をしてくるとは到底思えない。


(こりゃ、今近くにいる俺も何かされる可能性が高いな)


平穏なスクールライフを送りたい天月には悩みの種がまた、一つ増えたのだった。


「生徒諸君、MEDの感触は確かめられたかな。取りあえずは、ここで解散する。一端、教室に戻り、担任の先生の指示を仰いでくれ。以上だ」


才波先生の号令とともに生徒たちは教室へ戻り始めた。天月に関しては、とりあえず、厄介事に巻き込まれる前にそそくさと速足で教室に戻ったのだった。

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