第1章 入学編

第1話  入学式

「ここはどこだ」


少年はいつの間にか眠ってしまっていた。そこは草原にある一本の木の下で丁度、木陰で来ていた。少年は起き上がって、周りを見渡すが草原が広がっているだけだった。


「いつまで寝ているの、ソラ」


突然、後ろから声がしたと思い、少年は振り返る。だが声の主はいない。


「ソラは私が守って見せるね」


もう一度、声が聞こえ、少年は上を見た。

そこには麦わら帽子を被った少女が木の上にいたが少年には顔が逆光で見えない。

その少女は幼い自分に静かに微笑んでいた。


「何か、懐かしい夢を見ていたな」


眠気を振り払うように長い髪と一緒に頭を振ると天月夜空は自動操縦の車から外を見渡した。

そこには車両の列がとある場所に向かって長蛇の列を成していた。


(明日から電車で来るか)


車両の横の歩道には電車で来たであろう生徒がやすやすと車両を抜いて歩いていた。

10分後、やっと順番が回って来て、夜空はやっと目的の場所、第一国連魔法化学学校に降り立った。


学校に続く道には桜並木が気持ちのいい青空と共に並んでいた。


正門を通ると自動的に認証と表示されたディスプレイが目の前に表示された。


(便利なもんだな)


入学前に配られた仮IDカードにより自動的に認証されたことに感心していると横でIDカードを忘れたらしき生徒が警備員とめんどくさそうな確認をしていた。身体検査、持ち物チェック、魔力検査、など通りかかる生徒から同情の視線が送られ中、夜空はIDカードを忘れないよう気を付けようと心に決めた。


正門を潜るとそこにはさっきまで晴天の青空だったにもかかわらず、その空は満点の星空に変わっていた。


この学校は二つの世界の間にあるのだ。


広がっている星空もただの星空ではなく、夜空は虚無の空間で、星はその一つ一つが一つの世界であると言われているが、虚無の空間を自由に移動できるのがドラゴンだけなのその事実を確かめた人間はいない。


2つの世界の真ん中にこの学校があるということなので天月が入ってきた反対側からは異世界のクロード公国の生徒たちが登校していた。


入学式は9時からで現在の時刻は7時30分、時間には余裕があるので夜空は周りを眺めながらゆっくりと生徒の流れに着いていった。


校舎の入り口には案内をしている生徒と先生が並んでいた。事前に渡されたIDカードにクラスの方は表示されたが、場所は表示されず、学校の構造を知らない人たちが先生と上級生とおもしき人たちに群がっていた。


「あっ」


周りに押されて、女子生徒が片手に持っていた携帯端末が天月の方へ飛んできた。天月が反射的にそれを地面に落ちる前に拾うと近づいてきた女子生徒に渡した。


「すみません、どうもありがとう」

「いえ、飛んできただけですので」


入り口で案内していた女子生徒には何故か妙な溜めがあって何か話したそうにしていたが


「それでは」


夜空がそれだけ言ってすぐに校舎の入り口に向かったので何も話せなかった。


夜空が教室について中に入ると一瞬、視線が集中したが、すぐに皆、自分たちのグループの会話に戻った。いや、一部の女子生徒たちからは熱い視線が夜空に向けられていた。教室の中には机にパソコンが埋め込まれているようなものが置いてあり、生徒たちがそれぞれの集団でいた。


夜空は机のディスプレイに名前が書かれていたのでそこが自分の席だと分かった。特に何もすることがなかったので夜空は席に座り、腕に着けたら携帯端末からディスプレイを空中に出して書籍を適当に読み始めた。そのまま時間が経ち、8時30分になった所で学校のチャイムが鳴った。


定刻になり教室に長い黒いコートで髪をオールバックにした男性が入って来た。


「席に座ってくれ。おはよう、一年生入学おめでとう。君達は、晴れてこの第一国連科学魔法学校に入学できたわけだ。俺は、この4組担任の才波だ。よろしく。今から入学式だ。体育館に向かってくれ。あと、何が起こっても驚くなよ」


意味有り気な台詞を残して、才波先生は先に体育館に向かってしまった。


先生が先に行ってしまったので生徒たちは困惑した感じで廊下に出始めた。幸い、他の教室からも生徒が出てきたのでその流れに4組の生徒はついて行った。


他の組は先生に引率されていたが、本郷先生は何故か先に行ってしまった。


体育館に周りの流れに乗って来ただけの4組の生徒たちは戸惑いながら、運良く体育館で生徒の誘導をしていた先生に促されて特に間違うこと無く4組の座るべき定位置に着くことができた。座ってすぐに入学式が開始された。問題なく、入学式が進んでいる中、ひと際、ざわめきが起こる。


「新入生代表、アリア・クロードさん」

「はい」


壇上に現れたのは、金髪で青眼の瞳を持つ美少女だった。


「あれクロード公国の王女じゃないか」

「確か、今年入学の噂があったけど、本当に入学するとは・・」

「しかも、主席、さすが王女様は伊達じゃないな」

「2つの世界の戦争が終わり、早20年です。この学校は平和の象徴ともいえるものです。諸君の活躍に期待していています」


アリア姫の言っていることは普通の事だが、皆、その容姿に心を奪われていた。アリア姫が壇上から降りても男子の視線はアリア姫から離れることはなかった。


「晴れて入学おめでとう。生徒諸君・・」


そんな中、校長先生の挨拶が始まり、突然、会場が暗くなった。


明るくなった瞬間には、黄金のドラゴンが生徒たちの目の前に現れた。


生徒たちの反応は様々だったが一番多いのは、恐怖だった。それも仕方ないだろう急にドラゴンが目も前に現れたのだから、しまいには魔法まで放とうとする生徒までいた。その前に先生に魔法を打ち消されたのだが。


「ほほほ、驚かずとも、儂はさっきまでそこにいた校長じゃ」


そんなこと言われても信じられないと言わんばかりにほとんどの生徒が首を横に振っていた。


突然、突風が体育館内に吹き荒れた。


その瞬間、黄金のドラゴンの姿はなく、元の校長の姿はあった。


「これにて第一国連科学魔法学校の入学式を終了するぞい」


さっきの衝撃が大きすぎて立ち直れていない生徒がいたが先生たちはなれたように誘導していた。

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