Epilogue 2020年 8月10日

幕間 真っ白な世界のきみへ


 目を開けると、また俺は真っ暗な世界に一人ぽつんと漂っていた。


 しかし、今回は俺の意識もはっきりとしていて、この無機質な空間に対しても不思議と恐怖心は湧かなかった。


 そして、俺の目の前に、ゆっくりと球体の光が降りてくる。



 ――慎太郎しんたろう、くん。



 俺の頭の中に直接響く声。


 だが、以前のようなノイズは全くなくて、とてもクリアな声で聞こえるようになっていた。


 そして、その正体の声も、俺はもう既に分かっていた。



 ――そうだよ。久しぶりだね、慎太郎くん。



 やっぱり、この目の前にいるのは、俺のよく知っている人物だった。



 ――私を助けてくれてありがとう。頑張ったね、慎太郎くん。



 目の前の球体が、ほんのりと光りを放った。



 ――ただ、少し補足をさせてもらうと、私はきみが助けてくれた私とは少し違うんだよ。



 ん? それは、一体どういうことですか?



 ――私は、きみが二度目に経験した2015年の夏に一緒に過ごした私じゃないということさ。



 ――だから、ここにいる私は、きみと夏休みの間、図書室で会ってはいなかったし、デートもしたことがない私なんだ。


 ――それに、世界はたくさんあってね。


 ――例えば、きみが今から戻る世界以外にも、同じ時代に第三次世界大戦が起こってしまった世界や、新型ウィルスが流行してしまって、大規模なパンデミックが起こってしまった世界があったりするんだよ。



 光の球体は、俺にもちゃんと分かるように説明をしてくれているんだろうが、俺には上手く理解できなかった。



 ――ははっ。まぁ、その辺は気にしなくていいよ。とにかく、きみは私を助けてくれたんだ。



 光の球体は、ただゆっくりと光っただけだが、俺には彼女が微笑んでいる姿が浮かんだ。



 ――だから、私はもうきみとは会えないと思うんだ。第一、私自身、こうやってきみに会えるとは思っていなかったからね。



 そういうと同時に、暗かった空間が徐々に白くなっていく。


 そのせいで、光の球体も見えにくくなってしまった。



 ――もう、お別れの時間だね。最後にまた、きみに会えて良かったよ。



 そして、光の球体は、ゆっくりと俺に近づいてきて、眩い光を放ち、俺を包み込む。




 ――きみは、きみが掴んだ未来の中で、生きなさい。




 最後に、そんな声が俺の頭の中で響いたのだった。


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