最終話 嗚呼、大銀河ネオスズキ帝国よ永遠なれ!

 テオドーラ・スズキによって建国、いや再興された大銀河ネオスズキ帝国は瞬く間にこの宇宙を席巻せっけんした。


 最初の三日間でストン星系を制圧。

 これを脅威に感じた同盟軍は制圧艦隊を派遣するも、膨大な資金力で建造されたネオスズキ帝国の強靭な宇宙艦隊と機動兵器部隊の前に、星系外延部の会戦にて大敗を喫した。


 この「同盟軍大敗」の報は瞬く間に宇宙を駆け巡り、同盟に対して反感を抱いていた辺境の諸星系は、一気にネオスズキ帝国の下へと走った。


 一挙に戦力増強を成功したテオドーラは打って出る。

 オークル星系、キッサス星系、そして裏切り者のロッド将軍指揮する宇宙要塞。

 かつて自分に辛酸を舐めさせた憎き相手を次々と侵略、撃破した。


 そしてかつての根拠地シアトリア星系をも手中に収めたころ、テオドーラのネオスズキ帝国は再び銀河を二分する一大勢力となっていた。


 テオドーラが座上するは新造された超巨大宇宙戦艦〈クレオパトラⅡ世〉。

 かつての旗艦の流れをくむこの艦は、勇壮たるネオスズキ帝国の旗艦だ。


 今この艦を中心とした大艦隊を率いて、テオドーラは再び宇宙の雌雄を決する大戦に望まんとしている。


「バラック特殊作戦部部長より入電!」

「メインモニターに出して」


 かつての個人撮影会で最初の顧客であったバラックは、テオの睨み通りやはり特殊部隊出身でひとかどの経歴を持っていた。


 今ではこうしてテオの配下として、様々な特殊作戦の陣頭指揮を執っている。


『閣下、同盟軍の根拠地アゲルス星での破壊工作の準備、完了いたしました』

「ご苦労、バラック……いえ、ありがとね

『光栄の至り! この命に代えても成功させて御覧に入れます!』


 戦いは始まる前に決するとテオは思っている。

 かつて王手飛車取りをかけられた苦い思い出が、天才に狡猾こうかつなまでの周到さを育んでいた。


 その一環として、今度はこちらが敵に王手飛車取りをかけて揺るがす。

 アゲルス星は同盟軍の首脳陣が集まる評議場がある。

 そのアゲルス星を破壊工作によって混乱せしめれば敵は浮足立つという物だ。


「各艦総員戦闘準備! 勝機は我らにあり!」

「「「はっ!」」」


 テオの号令に従って、ブリッジクルーの女性たちが矢継ぎ早に各艦へと指示を飛ばす。

 よく訓練された兵士たちによって艦隊は巧みに戦闘隊形をとり、ついで機動兵器部隊も出撃する。


 テオの想定通りならもうすぐ同盟軍の艦隊がワープアウトするはずだ。

 この戦いを制した者宇宙を制することになるだろう。


「緊張してるのか? 肩の力を抜けよ、テオ……いや、皇帝陛下だったな」

「……テオで良いわ。ただのテオよ」


 テオの緊張を読み取ったのか、エルダーはおどけながら声を掛けてくる。


 エルダーは結局ここまで常にテオと行動を共にしている。

 あのアストリアの荒野での出会いから常にテオの傍らで知恵を出してくれて、危ない目に遭いながらも協力してくれて、文句の一つも言わずについて来てくれた。


「エルダー、この戦いがおそらく最後の戦いになるわ。それが終われば私はあなたに伝えたいことが……」

「じゃあ勝って聞かせてくれ。頼むぜテオ」

「……ええ、わかったわ」


 テオは必ず志をとげて、エルダーに伝えなければいけないことがある。

 エルダーはその志こそ明かしてはいないものの、テオの志を遂げさせたい気持ちは本当だ。

 テオが何を伝えたいかはわからないが、エルダーはこの沈黙を心地よく感じた。


「――! 敵艦隊ワープアウト! 予測地点との誤差ほぼなし!」

「――来たわね! 同盟軍に誰がこの大宇宙の覇者か今日こそわからせてやりなさい! 全艦砲撃開始!」


 テオの号令一下、激しい暴風雨のような砲撃が同盟軍の艦隊に浴びせられる。

 それに続いて機動兵器部隊の攻撃。瞬く間に敵は宇宙の藻屑と化していく。


「陛下! ストン星系ヒューム付近に新たな敵艦隊がワープアウトしました!」

「私が同じ轍を踏むと思って? ドタン!」

『はっ! 重粒子砲じゅうりゅうしほう発射用意!』


 敵の伏兵による王手飛車取り。

 まるで録画映像を見せられたような展開にテオはほくそ笑み、惑星アストリアにいるドタンへと指示を出す。


 かつて甲殻獣が跋扈ばっこしたアストリアの広大な荒野に、巨大なクレーターの様なものが誕生していた。全てを薙ぎ払う重粒子砲だ。


 辺境で何もない惑星だったアストリアは、今ではその惑星全土に火砲を備えた要塞へと変貌していた。


『対艦隊重粒子砲発射!』


 ――閃光が宇宙を走った。


 惑星ヒュームを制圧せんと動いていた艦隊は、光の奔流に飲み込まれるように一瞬で消え去った。

 あまりの出来事に、残された同盟軍艦隊は激しく狼狽する。


「フフフ……、ハハハッ! 哀れな同盟軍に私が直接引導を渡してあげるわ。〈カエサリオン〉で出るわよ。エルダー、ブリッジは任せたわ!」

「任された。気をつけてな」

「ブリッジからは決して出ないようにね」

「俺が命令破りをするって? お前に任された以上ここは俺が護ってみせるよ」

「それもそうね。それじゃあ行ってくるわ」



 ☆☆☆☆☆



 そこからは一方的な展開だった。

 テオは一機で艦隊以上の戦闘力を持つ〈カエサリオン〉をもって同盟軍の残存機動兵器部隊を蹂躙。


 さらにバラックの破壊工作によって本拠地アゲルス星を混乱に陥れられた同盟軍は、もはや組織だった抵抗ができなくなっていた。


 結果、同盟を見限った星から次々に降伏を宣言。

 盟主たるアゲルス星も粘ったが、戦況を覆すことなど到底不可能であり、ついには降伏を宣言した。

 ここにテオドーラ・スズキによる宇宙統一は成し遂げられたのだ。


「テオ、やったな!」


 旗艦〈クレオパトラⅡ世〉のブリッジへと帰って来たテオを、エルダーは満面の笑みで迎えブリッジクルーの女性たちも立ち上がって拍手し祝福する。


「ありがとうエルダー、これで志を遂げられたわ。ただまだまだ私の道は半ばよ。通信員、草案を上げていた銀河帝国法を各惑星に公布、ただちに施行しこうさせなさい」

「了解いたしました」

「法律なんて作っていたのか……」

「ええ。私の支配を受け入れさせるためにルールは必要よ」


 大銀河ネオスズキ帝国は宇宙を統一した。

 つまり、テオドーラの意志こそがこの宇宙の法律であり唯一無二のルールなのだ。

 彼女は彼女の理想をこの宇宙にあまねく伝えるため、ただちに法律を施行する。


「さあテオ、俺に何か言いたいことがあるって言っていなかったか?」

「そうねエルダー、無事に勝てたことだしあなたに伝えるわ」

「ここで大丈夫か? 人がいないところに場所を変えるか?」

「いいえ、ここで大丈夫よ。――各員、ただちにエルダーを拘束しなさい!」


 その瞬間、女性ブリッジクルーたちが即座にエルダーを拘束した。

 エルダーは歴戦の男だが、勝利の後――しかも味方であるはずの人間からの攻撃に対応はしきれなかった。


「何をするテオ……!?」

「あなたには感謝しているわエルダー。けれど私にも許せないことはあるのよ。例えばそう、プロジェクトH・Gとかね?」

「……どこでそれを!?」


 テオの言葉に、エルダーの顔は驚愕の色に染まる。

 表情の変化に満足感を得、テオはそのまま語りを続ける。


「あなたの隠れ家で見つけた記憶媒体よ。悪いと思ったけれど中を見させてもらったわ」

「くそっ……!」

「プロジェクトHikaruGenji……光源氏計画。私を支え宇宙統一を実現させ、その政権中枢に自分の仲間を配置して理想郷を実現する。エルダー、あなた自身は私と結ばれる……そんな計画みたいね?」

「別にお前の理想を歪ませるつもりはない。お前も俺達も志を遂げられるウィンウィンの計画じゃないか。それにお前も俺の事を信頼してくれていただろう?」

「ハンッ、私があなたに感じていた信頼は所詮父とか兄に対するものよ。決して男として見ていたわけではないわ。そして私はあんたたちの志を許さない!」


 エルダーの真の目的。

 それはロリコン仲間を政権の中枢に配置することによって、ロリコンが許される理想郷を創りだすことにあった。


 エルダーは初めからテオの正体に気がついていた。

 そこで好みの幼女であるテオの宇宙統一を手助けし、自分はテオと結ばれようと画策したのであった。


「銀河帝国法第一条、ロリコンは罪! バラック、ドタン、それに他のやつら……あんたの仲間達はそろって逮捕よ!」

「信じてくれテオ! 一目惚れだったんだ!」

「普通の人間は幼女に恋心なんて抱かないわ。それにあんたがアストリアに流れついた理由も調べがついているのよ!」


 テオが配下に調べさせたところによると、エルダーはどうやら違法な幼女の映像を販売して摘発。

 流れ流れてアストリアにたどり着いたようだった。


「俺はただ可愛いロリの映像を販売しただけだ! YESロリータNOタッチの精神に誓って危害を加えたりしていねえ!」

「何がYESロリータNOタッチよ。あんたたちの性的な視線に晒されるだけでそれは恐怖の消えない暴力的な行為だわ!」


 テオはそれをバラックらとの個人撮影会で思い知った。

 はっきり言って恐怖感しか抱かなかった。


 それにMYUTUBERをしていた時も思った。

 なぜ自分という存在を自称紳士の変態に切り売りしているのだろうと。


「教えてあげるわ。まともな大人は幼女が泣いていても『レディ』とか声を掛けないのよ。普通に子どもとして心配するわ。ついでに成長途上の身体の横でタバコを吸うな。あんたたちは銀河の刑務所ガルカトラズで冷凍刑と精神教育を受けて更生しなさい!」

「そ、そんなあ……、助けてくれテオ―――――――!!!」


 エルダーはそんな泣き言を言いながら、ずるずると引きずられていく。

 テオは苦楽を共にした人間が連行されるのを見ていられなかった。

 だがこれが彼の為であり宇宙の為なのだ。


「宇宙からロリコンは消え去った……。さあ、世界を正しく導かなくちゃね」


 かくして大銀河ネオスズキ帝国の宇宙統治は始まり、天才皇帝テオドーラの下で繁栄を極めた。

 ロリコン共の逮捕により幼女たちは安心して過ごすことができ、才ある女性たちが次々と活躍して帝国の治世はますます向上し千年帝国を築き上げた。


 嗚呼、大銀河ネオスズキ帝国よ永遠なれ!



―――――――――――――――――――――――――――――

後書き

この話で完結です。最後まで読んでいただきありがとうございます!

感想や☆評価をいただけると私は嬉しいです!

→別作「紅蓮の公爵令嬢」内の「異伝」にて、その後にあたるエピソードを掲載しています

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大銀河幼女皇帝☆テオドーラ・スズキ~宇宙統一5分前~ 青木のう @itoutigou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ