第3話 ドキドキ☆撮影会
「ここで……、いいのよね?」
テオがいるのは人里離れた山小屋だ。
この仕事をつないでくれたエルダー曰く、この山小屋に待っていれば依頼人が来るらしい。
その後の事は依頼人の指示に従えとの事だ。
当のエルダーは見張りなのか山小屋の外で待機している。
「何か取引を持ち掛けられるのかしら……? いえ、身体を張ると言っていたからここで指示を受けて何か非合法な破棄工作を……?」
なんの変哲もない山小屋だ。
違和感のあるものと言えば、せいぜい部屋の隅に置かれた一人用のフィッテイングルームくらい。
それも中には何もないことは確認済み。
となれば人里離れたここで指示を受けて、どこかしらで仕事を行うと考えるのが自然だろう。
テオには〈カエサルコア〉という鋼鉄の手足がある。
それを使って運び屋まがいのことをさせられるか、幼い見た目も活かして何かしらの破壊工作を行うか……。
いずれにせよ甲殻獣狩りよりも良い報酬を得ることができるということは、相応の危険もともなうということに違いない。
――コンコン。
いくらか緊張しているテオの耳に、扉をノックする音が聞こえた。
どうやら依頼主は最低限の礼儀をわきまえるタイプらしい。
裏社会の人間にもいくらか種類は存在するが、こういった礼儀をわきまえたタイプ程バックは大物だ。
もしかしたらどこぞの惑星の政府の人間かもしれないとテオは推察する。
「こんばんはお嬢さん、私はバラックと言う。エルダーから話を聞いているかな?」
「ええ、後はあなたの指示に従えと」
バラックと名乗ったその男はそういった
この辺境アストリアに似つかわしくないぴっしりとしたスーツに身を包み、白髪交じりのグレーの頭はきっちり整えられている。
紳士然としているが、その眼光は鋭く全く隙を感じない。
低く唸るような渋い声にも威厳を感じられ、この男がひとかどの人物であると主張している。
――この戦場を駆け抜けてきた者特有のオーラ。どこぞの特殊部隊の参謀といったところかしら?
つまり依頼内容はやはり破壊工作……?
「ふむ、エルダー氏に聞いていた通りの見た目だ。まずはこれに着替えてもらおうか」
「わかったわ」
手渡されたのはピンク色のノースリーブのトップスに、ホットパンツ、そしてロングのソックスだ。
これに身を包めばそこらを歩く平凡な少女に見えるだろう。
破壊工作のための衣装、いや少女の格好で油断させての要人暗殺もありうるか。
テオは着替えながら、
「着替えたわよ……ってカメラ?」
フィッテイングルームから出ると、バラックは隙の無さはそのままにカメラを構えていた。
一体何が始まるのかとテオが身構えていると――、
「フオオオオオオオオオオオッ!!! ホットパンツの美少女ロリキタ―――――――!!!」
「ヒィッ!?」
――突然先ほどまでの渋い声とは打って変わって、甲高い声を上げてカメラのシャッターを連射してきた。あまりの圧力にさすがのテオも
「フオオオオオオオオオオオッ!!! YESロリータ、NOタッチ!!!」
「ヒィッ!? あ、あのバラックさん……? 仕事というのは……」
「聞いていないかね? 君の仕事は被写体だ。私はこれに一枚千ゴルンの金を払っている」
「い、一枚千ゴルン……!?」
先ほどから無作為に切られているシャッター一回で千ゴルン。
つまり二百回で甲殻獣一匹分。もうすでにー匹分は写真を撮影している。
「わかったかね? だったらこちらに笑顔を! そう、人生舐め切った感じに!」
全く理解が追い付いていないがテオにはお金が必要だ。
ややひきつった笑みを浮かべながら、必死に要望に応えていく。
こんな状況でもテオの天才性はいかんなく発揮されていた。
バラックの望むポーズ、表情を巧みに理解しこなしていく。
(エルダーめ、身体を張るとはこういうことだったのね……!)
騙された。いや、騙されてはいないのだが。
とにかくこういう系統の仕事だとは思わなかった。
一体何が楽しくてバラックという男が大金を払っているのかテオには理解できない。
こんな
「さあ、次はこれに着替えて」
「次!? まだあるのですか!?」
差し出されたのはいわゆるメイド服だ。
ただしカチューシャにはフリルではなく猫耳がついており、肉球の手袋とつけ尻尾もセットだ。
「当然だ、期待してくれていい。まだまだ衣装は用意してある。さあ、テオちゃんの可愛い姿を記録しようか!」
「ヒィッ!?」
ナース、バニー、チアリーダー、エトセトラエトセトラ。
結局着替えは都合十六回にわたり、撮影は一晩中続いた。
☆☆☆☆☆
「同志バラック、ご満足いただけたかな?」
「おお同志エルダー! 大満足です。契約通り報酬はいくつかのルートに分散して振り込んでおきます」
夜明け。
精神がすり減りうつろな目をしているテオを尻目に、エルダーとバラックの二人はガッシと握手をした。
バラックはひとしきり熱心にお礼を言った後、昨晩この小屋を訪れた時のようなシリアスな雰囲気をまとって出て行った。
「よおテオ、お疲れさん」
「エルダー、あんたねえ……!」
「でも稼げただろ? 占めて一千万ゴルン。一晩で甲殻獣狩りの十日分の額だ」
「い、一千万……!? 世の中にはわけのわからないお金の使い方があるのね……。天才と謳われる私もまだまだだわ……」
テオは思わず関心してしまうが、無論徹夜明けの変なテンションのせいである。
「喜べテオ、俺の
「は、ははは……」
バラックのようなおかしな金の使い方をする人間がまだいることが不思議やら、夜通し行われた撮影の疲れやらで、テオは乾いた笑いしか出ない。
強烈に精神のすり減るこの仕事と宇宙統一の志。
ふたつを天秤にかけてなんとか……なんとかギリギリのところでテオは今の人生を受け入れた。
――反対する心の中のもう一人の自分に、あることを固く誓って。
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