第4話 チャンネル登録よろしくにゃ~
「皆さんこんにちにゃ~ん! 宇宙中のお兄ちゃん達、今日もテオチャンネルを見てくれてありがとにゃ~ん」
ネコミミに尻尾、肉球手袋の三点セットをつけ、紺色の水着に身を包み媚び媚びの挨拶をする美少女が画面に映る。テオだ。
個人撮影で名を上げたテオは、例によってエルダーの手引きで
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「あ、肉ダルマ男爵お兄ちゃん、今日もスパチャありがとにゃ~」
スパチャ、投げ銭、いろいろ言い回しがあるが、テオが何かを喋るたびに凄まじい金額が飛び交う。
少し媚びようものならば、一瞬で甲殻獣一匹なんてものじゃない大金が転がり込む。
世の中金はあるところにはあるのだと思い知らされる。
天才的なテオは、凄まじい学習速度でこの手の手合いからいかにお金を搾り取れるかを学習し、すぐにチャンネル登録者数もスパチャ金額も宇宙トップクラスとなっていた。
こんなに目立って同盟軍の連中に目をつけられないか初めは心配していたが、冷静に考えるとあの才知に溢れるテオドーラ・スズキがこんなことをしていると誰も思わないだろう。
皇帝時代の自分を知る人物も、せいぜい似た少女くらいにししか考えないだろうとテオは悟った。
「それではお兄ちゃんたち、また今度にゃ~ん。チャンネル登録よろしくにゃ~」
☆☆☆☆☆
「はあ…………」
銀河の底に沈みこむような溜息をつく。
いかに偉大なる志の為とは言え、どこかで精神的な調整をしなければテオはやっていけない。
ここは銀河の辺境ストン星系のアストリア星、そのまた辺境の辺鄙な田舎町だ。
配信を終えたテオとエルダーは、もはや行きつけになっている酒場で打ち上げをしていた。
蓄えはだいぶ増えたが、拠点を移すのには慎重にならなければならない。
なにせテオは他の惑星へ行くためのパスポートを持っていない。
馬鹿正直に発行手続きを行えばすぐに同盟軍の御用となって、良くて銀河の刑務所である大監獄ガルカトラズ行き、悪ければ公開処刑だ。
「どうしたテオ? 今回も収入はガッポガッポ、今着ている服も良く似合ってるぞ?」
今日のテオのコーディネイトは薄汚いローブではない。
エルダーが「金持ってるんだから小綺麗な格好をしろ」と渡してきた、どこぞのお嬢様然とした純白のワンピースに麦わら帽子の組み合わせだ。
まったくもってこの田舎の酒場に不釣り合いな格好だが、もはやこの辺で顔役となっているエルダーと、〈カエサルコア〉を操る勇猛な狩人で通っているテオをからかう恐れ知らずな馬鹿はいない。
「収入に不満か?」
「……収入に不満はないわ」
個人撮影でもかなりの額を稼いだが、あれは客の予約がつかないと行えなかった。
その点MYUTUBEだと自由に配信出来て、宇宙中の視聴者からお金を集めることができ、事実莫大な金額を稼いでいる。
宇宙統一の志のために必要な金額が集まる見通しはかなり明るいと言って良い。
しかもエルダーはテオの取り分を多くしてくれている。
どうしてここまでしてくれるかはわからないが、テオにとってはありがたいことこの上ない。
「あら~、エルダーじゃなぁ~い。最近儲けてるんだってね~」
エルダーがいるのを見つけて、街一番の美人で知られる商売女が甘ったるい声をあげながら寄ってくる。
男なら誰もが見とれるその豊満な胸をギュッとエルダーの腕に押し付けてだ。
これで揺らがない男はいないだろう、とテオは冷静に分析する。しかし――、
「うるせえ邪魔だあっち行け。俺は今大事な話をしているんだ」
エルダーは少したりとも鼻の下を伸ばすことはなく、鬱陶しそうに商売女を払いのける。
エルダーと行動を共にし始めてこの方、テオはこの男が女になびくのを見たことがない。
どんな妖艶な美人に対してもだ。
弱冠八歳ながらも多くの歴史を学び、そして数多の人間を見てきたテオの目には不自然に映る光景と言える。男という物は美人に弱い生き物だからだ。
決して自分の事を多くは語らず、「ただお前を手伝いたいだけ」と協力してくれるエルダーだが、その実何か揺らぎのない志のようなものがあったりするのだろうかとテオは推察している。
「……で、何の話しだっけか?」
「私は正規の手段ではこの星を出られないって話よ」
「ああ、そうだったそうだった。その件なんだがな、どうやら上手くいきそうだぞ?」
「上手くいきそう?」
「そうだ。趣味の伝手をたどってアストリアの運輸長官と渡りをつけた」
「運輸長官……! 本当なの!?」
「本当さ。それにMYUTUBERとしての実績が決め手だったな。是非会いたいと向こうから申し出てきた。会食の約束を取り付けてある」
運輸長官はアストリア星政府の中でも、重鎮中の重鎮として知られている。
この産業も何もないアストリアの輸送を抑えているということは、他星から流入する全ての利権を握っているということだ。
現在の運輸長官ドタンは高圧的で差別的な人物で、流浪の身ではっきり言って最底辺の階級に属するテオたちと話すことなど全く想像できない話だ。
それが会食の約束を取り付けてくるとはこのエルダーという男、なかなか底を見せない男だとテオは心底驚く。
今も目の前で右手にタバコを持ち紫煙をくゆらせる、ボロローブを身にまとったはっきり言ってさせない見た目の男のコネクションはどれほどかと。
こうなると益々エルダーの目的が何か気になってくる。
「上手くいけば渡航の段取りをつけてくれるかしら?」
「それだけじゃねえ。運輸利権にも一枚かんで、商船名義で宇宙戦艦を購入するルートをいただくのさ。必要なんだろ、宇宙戦艦?」
八歳の幼女が莫大な金を欲しがるのに疑問を挟まず、はたまた宇宙戦艦――それも一隻ではなく大艦隊を欲しがるのに全く疑うことなく協力する。
まあそれを言い出したら、初めて荒野で出会った時からツッコミどころ満載だったと自嘲するが。
とにかくそんな不思議な相棒が頼もしく思えて、テオは甘いミルク入りのジョッキを掲げて乾杯した。
会談の成功を祈って、そして二人の
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