261話 神社生活 3



 走っているうちに神社へたどり着いた。草履を脱ぎ境内へ入る。


「おかえり、はやかったどすな」


 それを朔夜さんは笑顔で迎えてくれた。


「……なにかありはったん?」


 しかし、すぐに笑顔が察したような表情へと変わる。


「ぇ……」

「今のかいとはんのお顔、何かあったお顔やね。そうやね……茫然自失って感じどす」

「……」

「……何がありはったん? うちに教えておみ」

「……うん……」


 促されるがままに、先程のポチとのやりとりを話す。

 決して悲しいことでは無いが、話していてあまり気分は良くなかった。


「……それで……ぽちがなんで謝ったのか分からなくって」

「……うーん、そやねぇ。うちはぽちはんがなんで謝りはったのか分かりましたえ」

「……!」


 期待の眼差しを彼女へ向ける。すると、彼女は諭すように俺に言った。


「ぽちはんはね、負い目を感じてはるんよ」

「お……おいめ……?」

「かいとはんが大変な目にあった事に責任を感じてはるんやね」

「っ!? ぼ、ぼくはそんなこと……」


 否定しようとした俺に、朔夜さんは首を振った。


「いくらかいとはんがそう思ってはっても、ぽちはんはそう思ってないんどす」

「……それは……」


 たしかに思い返せばすぐに分かる。ポチは何度も謝ってきたし……でも……。


「でも……僕は……」

「分かります。「気にしてない」とか、そういう事やろ?」

「ぅ……」


 図星をつかれ目を逸らす。朔夜さんはクスリと笑い、俺に諭した。


「そう思えはるのはとてもいい事どす。かいとはんが優しい子だからそう思えはるんやね」

「……」

「でもね、時にはかいとはんが許しても、相手側が自分の事を許せない時がありはるんよ」

「……?」


 すぐに理解できず、首を傾げる。


「ぽちはんは今、きっと自分に怒ってはるんよ。かいとはんに許してもらうとかでは無く」

「……」


 ようやく理解できた。


 そっか……ポチは今そういうふうに思ってたんだ。


「……でも……ぁ、いや……それじゃあどうすれば良いの?」

「そうやね、かいとはんはどうすれば良いと思う?」

「ぇ……」


 予期せぬ問いに面食らってしまう。我に帰り回答を考える。


 えっと……“ポチを許す”だめなんだよね……別に怒っては無いけどそういう事では無いみたいだし……。


「うーん……」


 ……ポチは自分のせいで俺がこの状況になってるって思ってるのかな? だったら、ポチのせいじゃないって……あれ、前にも同じこと言ったような言ってないような……。


「……あ、そうだ」


 ここで1つ思いついた。


「……今の状況が嫌じゃないって言えば良いのかな?」

「……はい、正解どす」


 にっこりと笑う彼女を見て、緊張が解けると同時に安堵のため息が出る。


「そうやけど、嫌じゃないより“楽しい”って伝えた方がきっとええどすえ」

「わ、分かりました」


 うまくまとめられなかったけど、つまりは朔夜さんのいう通りだ。

 ポチが自分のせいでこの状況になったっていうなら、逆にポチのおかげで楽しいって言えばきっとポチも……。


「それなら、かいとはんは頑張ってこの生活を楽しまなあかんねえ」

「え、あっそっか……」


 嘘は言っちゃだめだしね……いや、でも……。


「僕は今もう……」

「はいはい、それじゃあお姉さんがね、かいとはんがこの生活を楽しめるよう1つ占いをしてあげます」

「ぇっう……」


 俺の言葉を遮るように朔夜さんが言う。遮られた俺は言葉に詰まってしまった。


「そうやね……明日の朝、うちが今から教える場所に行きはってください。きっと、いい事がありますさかい」

「あ、えっと……分かりました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る