199話 ツンデレの真実 4



「あたし……倭国を出てから、必死になって強くなろうとしてたの。功君があたしにしてくれたように、あたしも功君達を守れるようになりたいなって」


 昔の美音さんは気恥ずかしそうに笑いながら、言った。


「強くなりたくて……弱気な自分を変えたくて、人前でずっと強気に振る舞ってたら、いつの間にか素直になれなくなっちゃった」


 ……え? 


「本当はみんなと仲良くしたいんだけど、どうしてもみんなの前では強がっちゃって……思ってもいない事、言ったりしちゃうの」


 ……も、もしかして、普段の美音さんって強がってツンデレな性格になってるの? え? じゃあ、本当はツンデレじゃないってこと?


 困惑した俺は、一瞬部屋の外へ視線を逸らしてしまった。

 そして、はっと我に帰り部屋の中へ目を向けた俺は驚愕する。そこにはとんでもない光景があった。


 美音さんが功さんの顔すれすれの位置まで、顔を近づけている。


「あたし、ずっと我慢してるの。弱いあたしを見せないために、何があっても強がって、絶対に人には弱みを見せないようにして……でも、たまに全部忘れたい日もあるんだ。だから……みんな鈍くて助かってる」


 そして、とんでもない行動を見た次の瞬間に、とんでもない発言が耳へ届く。


「あたし……ほんとはお酒強いのよ」


 ????????????


 ……え? お酒強い? 


 さらに困惑した俺の脳内に、彼女の言葉がこだまする。


 “お酒強い”……? “お酒強い”って……たしかお酒飲んでも酔わないってことだっけ? あれ? 違う? いや、そうだよね? 

 ……ということは、美音さんはお酒に酔わないってこと? えっ、じゃあなんで美音さんは酔っ払ってたの?


 ……え? まさか酔ったふりしてたの?


 ……ちょっとおしっこ漏れた。


「……!! ぁ……わっ……」


 意識がまったく違う方向へ向いてしまい、腰の力が一瞬抜けた。はっと我に帰り、やってしまった事で焦って声が出た。


 そして、がっつりと美音さんと目が合う。


「……」

「……」


 美音さんはこちらを見たまま硬直した。そして、少しの間静寂が訪れる。

 その静寂を破ったのは彼女の声だった。


「か……かいとぉ!!」

「ひぃ!?」


 顔が一瞬で真っ赤になりつつ、こちらへ歩み寄ってきた。俺は恐怖やら尿意やらでまったく動けない。


 ついに俺の元へ美音さんが到着する。そして、両肩を掴まれた。


「ふっ、ふざけ……いつから……あ、あんたぁ……!」

「ひ……な、なにも見てないから許してくださいぃ!」


 真っ赤な顔に汗をだらだらと垂らしつつ、目を見開いて俺を揺さぶる美音さん。それに対して、俺は股を抑えつつ許しをこう。


「ど、どこから見てたのよ……!」

「あのっ、あの……謝ってるところから……あっ違っ……なにも見てませんん……」

「がっつり見てるじゃない!」


 正直に答えてしまって見てたことがバレた。

 絶対これ怒られるやつだ……そんな事を思った時だった。


「ん……」


 功さんの声が聞こえ、美音さんの体がびくりと大きく震える。

 ゆっくりと彼に目を向けると、ただたんに寝返りを打っただけだった。


 しかし、それで落ち着きを取り戻したのか、美音さんは大きく息を吐き、俺の両手から手を離した。

 俺の心臓は、ポチと山岳で戦った時くらいバクバクと音を鳴らしている。


「……ふーっ……かいと、あんた……って、どうしたのよ」


 口調はいつも通りの美音さんに戻っていた。むしろ、今はこっちの方が安心するかもしれない。


「……聞いてるの?」

「えっ? あっ……なにがですか……?」


 彼女の様子に気を取られて、内容が頭に入ってこなかった。


「だから、どうしたって聞いてるのよ。股なんか抑えて」

「……あ」


 すっかり忘れてた。今、凄くトイレに行きたいんだった。

 それを思い出した途端、とてつもない尿意が襲ってきた。あまりの尿意に膝をつく。


「ちょっと! どうしたのよ?」

「あのっ……と、といれ……」

「……なるほどね。話は後でいいから、ついてきなさい。あ、あとこの国のといれは厠かわやって言うのよ」


 そう言い立ち上がる美音さん。しかし、俺は立ち上がれない。少しでも力抜いたらまずい。あとそろそろ限界。

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