198話 ツンデレの真実 3
足早に部屋を出て、トイレへ向かう……が、トイレの場所が分からない。
……この状況、かなりまずい。
「うぅ……」
トイレを求めて屋敷の中を歩き回る。すると、途中で明かりがついた部屋を見つけた。中を覗くとポチと秀幸さんが、声を抑えつつ談笑していた。
「ははは、君なかなかいける口じゃないか」
「ええ、こんなに美味しいものはいくらでも飲めますよ」
どうやら、2人は俺達が寝た後もお酒を飲んでいたらしく、そのすぐ隣にはとっくりがたくさん置いてあった。
「……」
トイレの場所を聞きたいけど……あんなに楽しそうにしてるところに、割って入ったらダメかな……? 嫌な顔されたらやだな……。
そう思い、気づかれないようにその部屋を後にした。そうこうしている間にも、はちきれそうな感覚が強まっていく。
必死に耐えつつ、屋敷の中を歩き回る。しかし……。
「あ……あれ?」
ふと襖が開いた部屋の中を見ると、そこには誰もいない布団が2つ。
どうやら、屋敷の中を一周してきてしまったようだ。
「あ……だめだこれ」
そろそろ本当に限界だ。寝ているところ悪いけど、功さんに場所を教えてもらおう。
腰に力を込めつつ、ずりずりとすり足で俺が寝ていた向かいの部屋へ歩み寄る。そして、襖を開けようと手をかけた時だった。
「……ん?」
部屋の中から小さな話し声が聞こえてきた。だが、それは会話ではなく、誰かがボソボソと話しているようだ。
なんだろ……寝言かな?
正直今すぐにトイレの場所を聞きたいが、その声が気になってしまった俺はゆっくりと慎重に、少しだけ襖を開けて中を覗いた。
暗闇の中、布団で功さんと寝息を立てている。瀬音さんは別の部屋にいるみたいだ。ここにはいない。
ボソボソと話していたのは功さんではなく、その声の主は彼のすぐ隣にいた。
功さんが眠る布団の隣。そこには俺から横顔が見える体勢座り込み、彼の寝顔を見下ろす美音さんの姿があった。
その口は微かに動き、ボソボソと何か言っている。
……美音さん? 何て言ってるんだろ。
部屋を覗きつつ、その声を聞き取ろうと耳へ神経を集中させる。
「……今日はごめんね……色々と迷惑かけちゃったわね」
どうやら、今日の事を謝っているみたいだ。口調は優しいから……これは昔の美音さんだ。
美音さんは何度も同じ事を謝っていた。しかし、小声なため功さんはまったく起きない。
すると、少しスッキリしたような表情になった昔の美音さんは、なにやら別のことを話し始めた。
「こうやって倭国に帰ってきて……思い返せば、あの日から9年が経ってるなんて、時間って……本当にあっという間だわ……この9年、色々あったね……」
寝ている功さんを起こさないようにしつつ、彼に語りかけるように彼女は話し続けた。
その表情はどこか懐かしげでもあり、楽しそうでもあった。
「王国についた時は不安なことしかなくって……それでも、功君はあたしと瀬音ちゃんのために、誰よりも早く覚えた王国の言葉で助けてくれて……」
すると、昔の美音さんは「ふふっ」と笑った。
「王国で……あたしの不思議な力が魔法だって分かった時、凄く喜んでくれたよね。「美音は人間だったんだ」って……凄く嬉しかった」
その後も、彼女は王国での思い出話を小声で語り続けた。
“ハンター”としての活動のこと、革命の事、生活での些細な出来事……。
そのどの話も、功さんが中心で語られていた。
「……それでね……」
すると、明るかった彼女の顔が不意に暗くなった。
「ここについた時……おじいちゃんが病気になったって知って……あたし、どうすればいいのか分からなくなってた……ただ、悲しいのを、泣くのを堪えることしかできなかった」
……今日の事だ、そういえば……美音さん、凄く悲しそうだったな……。酔っ払った瞬間に泣き始めたんだっけ。
「でも……ほんとに功君は凄いよね。功君だって悲しいはずなのに、あたしのために……」
そう呟きながら、昔の美音さんは悲しそうにしつつも笑顔を見せた。
「あたしも功君みたいに強くなりたいなって、ずっと思ってたんだ……」
すると、彼女は驚くべき事を話し始めた。
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