200話 ツンデレの真実 5


 あとそろそろ限界。


「……なにしてんの? 早くしなさいよ」

「う……うごけな……もう無理ぃ……」

「は!? あーもう、ったく! もう少し辛抱しなさい!」


 美音さんはそう言うと、俺の両脇を掴んで持ち上げた。そのまま俺を“厠”へ連れて行く。


 案内された厠は、当然和式のトイレだった。


「ほら、早くしなさい」

「あ、ありがとうございます……」


 プルプルと震えながら厠へ入る。そして、履いているズボンへ手をかけた。


 ……ここまで来れば、もう大丈……。


「あ」

「あ」


 ……。



 ー カイトの部屋。


「厠の場所は覚えたわね? もうさっきみたいなことがないようにするのよ」

「ご、ごめんなさい……」


 俺の部屋へ戻るなりそう注意された。もう、さっきのことは思い出したくない……。


「……あたし、履物下ろす前に出す奴初めて見たわ」

「うぅ……も、もうしないから許してください……」


 なぜとは言わないが、今の俺の服は全て新しいものになっている。


「……で? さっきの件だけど」

「……!!!」


 体がびくりと、大きく震えた。


 お……怒られる……!?


 両目をギュッとつむり、甚兵衛の裾を握りしめて下へ俯く。これなら、たとえ怒鳴られても耐えられる……と思う。


「……はぁ」


 しかし、美音さんが怒鳴ることはなく、小さくため息をついた。


「ほら、あたしも悪かったわ。だからそんな顔しないでよ」

「……ふぇ?」


 予想外のことに、情けない声が出た。


「もう怒ってないから、安心しなさいって」

「ほ……ほんと……?」

「ええ、本当よ。分かったらとりあえず、さっさと布団に入りなさい」


 そう言うと、美音さんは掛け布団をめくってそこへ入るよう促してきた。

 少しビクビクしながらも、布団へ潜る。布団へ入ると、美音さんはゆっくりと布団を俺にかけた。


「……で、さっきの件だけど」

「ぅえ!?」

「だから、怒ってないってば。少しはあたしの話も聞いてよ」

「ぁ……ご、ごめんなさい……」


 俺が謝ると、美音さんは「はぁ」と少し寂しそうにため息をついた。


「……あたしがそんなに怖い?」

「ぇ……あっ、いや……」

「……自覚はしてるわ。あたしみたいな強気な大人って、子供に怖がられるのよね」


 子供に怖がれるって……俺は大人だけど、それでも怖いと思う。


 すると、美音さんが急に申し訳なさそうな表情を見せた。だが、どこか納得のいってなさそうな印象も感じる。


「あたしもこんな人当たりの強い性格、直そうって思う時もあるわ。でも……どうしても人前だと強がっちゃうのよ」

「そ、そうなんですか……」

「ええ、そうよ。……とにかく、何が言いたいのかってのは、“他言無用たごんむよう”。分かった?」


 たご……え? なんで言ったのか聞き取れなかった。


「あの……ごめんなさい、もう一回……」

「“他言無用”。誰にも言うなってことよ。分かった?」

「あ……わ、分かりました」


 たじろぎながらそう返事をした。しかし、美音さんの疑いの表情は変わらない。


「……ほんとに分かってる? あんた、隠し事が下手だから不安なんだけど」

「え……」

「だってそうでしょ」


 ……思い当たる節がない事も……ない……かな?


「き……気をつけます」

「……ほんとに頼むわよ? もしこの事を喋ったら……」

「え……!? た、叩くんですか……!?」

「なんでそうなんのよ馬鹿。……まぁ、とにかく誰にも言わないことね。じゃ、あたし寝るから。あんたもちゃんと寝なさい」


 美音さんはそう言うと、立ち上がって部屋を戻って行った。その去り際……。


「約束、守らないと後が怖いわよ?」


 そう言い残し、ふすまを閉めた。


「……」


 あ、嵐がさった……。

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