193話 倭国入国 5



 ポチはそれを伝え終わると、俺の手を引き案内を始めた。


「……」


 森の中をポチと手を繋いで進む。しかし、さっきから不安で仕方なく、無言が続いてしまっていた。


 な、なんだか気まづいな……あ、そうだ。


「……ね、ねえポチ」

「総一郎様の容態ですか?」

「ぇあ……な、なんで分かったの?」


 即答で思ってた事を言われた。


「私も何か、会話の話題が無いかと思っていたところです。そこで、主人様の考えている事を予測してみました」

「えっ」

「主人様は、心優しい方です。おそらく、総一郎様の病がご自分に治せそうなものか、考えていたのでは?」


 ポ……ポチってやっぱり凄い……完璧に見抜かれてる。


「す……凄いね……なんで分かったの?」

「ありがとうございます。私は主人様の従者であり、子でもありますから」


 あ、そういえばポチって俺から産まれた(?)んだっけ……頭が良すぎるから忘れてた……。


 感心する俺の横を歩きながら、ポチは総一郎さんについて話し始めた。


「私も、直接ご本人に会ったわけではありませんので、街人の方々からコウ様が得た情報をお伝えします」


 ポチが話した内容はまとめるとこのようになる。


ーーーーーーー

 大和総一郎、72歳。

 一月ほど前から、体が重いなどの体調不良を訴えるようになる。次第に症状が重くなり、他の症状も出始めた。

 そしてついに、1週間ほど前に意識を失ってしまったとの事だ。


 街人の間では、病やら妖怪の仕業やらと噂されている。

ーーーーーーー


「……これらの話だけでは、総一郎様の病の正体は分かりません。それに加え主人様、そう言った症状に効果のあるポーションの作成経験はおありですか?」

「えと……な、無い……」


 聞いた限りだと、俺が作ってきたポーションで効果のありそうなものは無い。治癒魔法は病気には効かないし……。


「ですが、実際に症状を見てみれば、もしかするとポーションが効く症状があるかも知れません。それが解決につながるかは分かりませんが、1度総一郎様の屋敷へ足を運びましょう。そこにコウ様方もいらっしゃいます」

「う、うん……分かった」

「それに、貴方様がそこまで気負う必要はありませんよ」

「うん……」


 ポチのおかげで少し気が楽になった。というか、終始思ってる事を見抜かれてて驚く。


「主人様、街が見えてきました」

「……!」


 会話しているうちに、街の近くまで来たみたいだ。近いとは聞いてたけど、思っていたより近かった。


 ポチが指し示した方向。その先は木がひらけていて明るくなっている。すすむに連れて人の声も耳に届きはじめる。


「ちょ……ちょっと緊張してきた……」

「大丈夫ですよ。先程の件から時間はそれほど経っていません。堂々としていれば怪しまれる事はないでしょう」

「う、うん」


 意を決して歩を進める。自然とポチの手を握る左手に力が入る。


「いきなり街へ出ては怪しまれます。1度、小道に出てから街へ入りましょう」

「わ、分かった」


 森を抜けると、ポチの言う通り小道だった。人の声はすぐそこから聞こえて来る。


「さ、行きましょう。街に入ったら、反対側にある総一郎様の屋敷へむかいますよ」

「う、うん」


 ポチに手を引かれ、小道を進む。街はすぐに姿を現した。


 コウさんの話の通り、いつか教科書で見た江戸の風景そのもの。王国とはまるで違う造りの家ばかり。

 やっぱり、話で聞くのと実際に見るとでは感じる事が違う。


 でも……。


「ちょ、ちょっと怖い……」


 どうしても嫌な事を考えてしまう。もしさっきの女の子が俺の事を言いふらしてたり……とか色々と……。


「主人様、先ほども申し上げましたが、件の事から時間はそう経っていません。例えその方が主人様の事を言いふらしていたとしても、急いで屋敷へ向かって身を隠せば問題ないでしょう。主人様の様な容姿の方は他にも大勢いらっしゃいます」

「……うん。行こう」


 大きく深呼吸をして、小道から街へはいる。家の合間を縫って街道に出た。辺りを見渡すと、街道の先に話しに聞いていた通りの屋敷があった。

 ただ、そこまでかなり遠い。屋敷に続く階段がとても小さく見えた。

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