191話 倭国入国 3
「じゃああたし達は街へ向かうわ。いい? ポチが来るまでここで待ってるのよ」
「分かりました」
「……それじゃあ、また後でね」
「あ、そうだ。いい? この国での“魔法や魔術の使用は禁止”だからね。あたしの話を聞いたのなら、その意味がわかるでしょ?」
「は、はい。分かります」
「ポチはともかく、あんたはなんかやらかしそうだからね。じゃあ約束よ」
そういうと、2人はさっきまでいた場所へ戻っていった。そして、木々の間から街へ向かう4人が見える。
それを確認して、肩まで水に浸かった。
あんなに喜んで貰えるなんて……。そう思うと、嬉しくなって頬が緩んでしまう。
それにしても、さっきのコウさんの反応が気になる……あんな顔するの珍しいしなぁ……。
いや、それよりも……。
「……びっくりしたなぁ……」
まさか、収納部屋から出した途端にあんな事が……。
二の腕の匂いを嗅いでみる。
もう臭くはないけど、やっぱりまだ気分的に嫌だな。もうちょっと洗おっと。
地面に池の水を片手ですくって、体のあちこちをこする。服も両腕で掴んでわしゃわしゃと洗った。
こうしていると、森で一人暮らしを思い出す。家の隣にあった湖で、毎日体を洗っていたっけ。
「……」
ふと、あの時が懐かしくなってきた。まだほんの数ヶ月前の出来事だけど。
森だと、体を洗うときは水魔法を使っていた。シャワーとかホースだとか、色々な事を再現できるから便利だったんだ。
「……倭国で魔法は禁止って言われたけど……誰もいないし、いいよね」
誰も見てないし、バレなきゃ大丈夫。
そう思って、少し浅いところに座り込む。水面はちょうどおへそのあたりまでだ。
「……よし、これでいっか」
水魔術。
水面から、ふわりと水の球が浮かび上がった。なんだか、久しぶりに魔法を使った気がする。
浮かび上がった水の球を眺めてみる。水の中は、
昇ったばかりの太陽の光がキラキラと反射している。
なんとも不思議な光景である。
「……」
その水の球を見ていたら、ふととあることを思い出した。
今のような水の球で頭を洗っていたら、何も知らないお父さんがスライムと勘違いしてしまった時の記憶だった。
「あの時は本当にびっくりしたなぁ……」
いきなり押し倒されるとは微塵も思ってなかったし……。でも、それだけ俺のことを気にかけてくれてたって分かって、嬉しかったっけ……。
ふいに、家族の顔が脳裏に浮かんだ。
「あ……寂しくなってきた」
家族の事を考えたら、急に寂しさを感じた。
コウさん達が居れば気を紛らせる事ができてたんだけど……まずい、せっかく治ったほーむしっくがまだ出てきちゃった。
これ以上はまずいと、慌てて水の中へ頭を突っ込んだ。その中でぶくぶくと思い切り息を吐く。
とにかく、今は楽しい事を考えよう。……えーと……倭国のご飯ってどんなのかな?
「……ぷは!」
苦しくなってきたところで水の球から頭を出し、水魔術を解いて頭から水をかぶる。
気を紛らわせようと、続け様に水魔術で魚とか動物とかを池の水で再現してみた。それを動かして遊ぶ。
一人でいて寂しくなると、とても辛くなることは知ってる。もうあんな気持ちになるのは嫌だ。
誰か早く来てと思いながら、必死に水を操りながら気を紛らわす。
その時、視界の端に見慣れない赤色が映った。
「……!」
一瞬ポチが来たかと思い、期待しながら目を向けた俺は固まってしまった。空中に浮かんでいた水が冷汗とともにバシャンと水面へ落ちる。
池の反対側。そこに居たのは木陰からこちらを覗き込む、見知らぬ女の子だった。小さな池だったこともあり、その姿ははっきりと見える。
赤い和服で身を包み、髪型はおかっぱ。しかし、後ろ髪は腰まで伸ばしているように見える。
無表情で、いわゆるジト目と言う目でこちらを見ている。
「あ……わ……」
この瞬間、思考が停止してしまった。その女の子と目があったまま、ピクリとも動けない。
冷や汗がだらだらと流れる中、女の子はふいに顔を背け、何処かへ行ってしまった。
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