177話 コウの過去 40
「ちょうどいい。憂さ晴らしにお前らと遊んでやる」
「っ……!」
刀を2人へ向け、ニヤニヤと笑う鬼。
一難去ってまた一難。再びその場に強い緊張が流れた。
「お、俺の木刀は……」
「……あ、そこにあるよ!」
逃げる事が出来ない今、どんな強敵といえど戦うしか道はない。
先ほど河童へ投げつけた木刀を拾い上げる。
「ん? まさかやる気か?」
「……だって、俺たちの事を殺すんだろ?」
疑問を持った鬼へ返答を返すと、鬼はキョトンとした表情を見せた。どうやら、功が答えたことに驚いたようだ。
「……ははっ! まさか俺を前にして恐れない人間の餓鬼が居るとはな!」
「……」
「気に入った! 遊んでやるから、この霊鬼れいきにどこまで抗あらがえるか見せてみろ!」
「……!」
霊鬼れいきは残った片腕で、功の身長ほどある刀を2人へ向けた。
それに対し、功は被害が美音へ届かぬよう、霊鬼れいきへ木刀を向けながらその場を離れる。
「……ふん、そいつを守りたいみたいだな」
「当たり前だ……!」
「面白え。なら、そいつの目の前でお前を嬲り、四肢をもいで喰ってやる!」
叫びざまに霊鬼れいきが功へ刀を振り下ろす。功は紙一重でそれを躱した。刀は地面をえぐり、砂埃が舞い上がる。
反撃に出る。刀を振り下ろしてバランスを崩した霊鬼れいきへ向かって、木刀を振り上げた。歯を食いしばり、柄へ指を食い込ませる。
そして、一撃で決めるつもりで振り下ろす。
……が、次の瞬間、霊鬼れいきの刀が振り下ろされた木刀へ直撃した。
「あっ……! ぐぅ……」
「おっと、そうはいかねえぞ」
強い衝撃が木刀を握る手に伝わり、思わず膝をつき、木刀をその場に落としてしまう。幸い、木刀は硬気のお陰で折れてはいない。
しかし……。
「……ん? 木刀を折るつもりだったんだけどな」
「うっ……」
「……ははっ。木刀は無事でもお前の手は無事じゃないみたいだな」
両手から伝わってくるのは強い痺れ、そしてその内側に激しい痛み。骨を鉄で直に殴られたような感覚を耐える。
それほどその衝撃は強かった。
「ほら、早く拾えよ。あいつを守りたいんだろ?」
「っ……ぐぅぅ……」
震える両手に力を込め、木刀を拾い上げ、立ち上がる。
それからは、まさに“一方的”な戦いだった。
功を霊鬼れいきがいたぶる。木刀を弾き飛ばし、峰打ちで痛めつけ、木刀を拾えばまた弾き飛ばす。
霊鬼れいきの攻撃は、どれも致命傷とはいかず、ギリギリで功をいたぶるものばかり。そんな攻撃を受けつつも、功は耐え続けた。
「もうやめて……やめてぇぇ」
美音はその場から動けず、両目を抑えてただ祈ることしかできない。
そんな美音の声が聞こえたのか、霊鬼れいきは彼女をじっと見つめた。
「う……うぅ……」
そして、今度は呻き声を上げた功へ目を向ける。
「はぁ……もう飽きた」
そう吐き捨てると、霊鬼れいきは功をヒョイと持ち上げ、美音の目の前に投げ捨てた。
「こ、功君!!」
その功を美音が揺する。それに応えるように、功はゆっくりと顔を上げた。
頭のあちこちから流血し、左目は開いていない。体のあちこちに痣も出来ていた。
「ぐすっ……ごめんね……あたしが動けないから……」
「……大丈夫……絶対……に……守るから……」
「はあーあ……ったく、なんでこうなったかな」
そんな2人を前に、霊鬼れいきは不服そうにしている。
「人間を大勢殺せるって聞いたから、今回参加したんだぞ? 俺はよ。だから仲間を集めて怨京鬼おんぎょうきの横に立ってここまで来たってのに……」
霊鬼れいきは刀を持った手でボリボリと頭を掻いた。
「なのになんだってんだ? いざ街についてみたら、化け物だらけじゃねえか。あっという間に仲間達は殺されていくしよ」
「……」
「逃げようって言ったって怨京鬼おんぎょうきの奴は残りやがった。それで、逃げる最中に片腕まで失っちまった」
功をいたぶっていた時と打って変わり、自分の身に起きたことを思い出し腹が立ったのか、霊鬼れいきは刀で地面を強く叩いた。
「本当は今頃人間共を大勢嬲り殺してるはずだった。だが、実際に嬲ってるのはその小っせえ人間1人だ。糞が!」
最後は声を荒げ怒りをあらわにする。そして、功達へゆっくりと歩み始めた。
「……さっきも言ったが、もう飽きた。2人まとめて死んでくれ」
「っ……! ぐっぅぅ……」
霊鬼れいきの手が、刀を高く振り上げる。ガクガクと膝を震わせながらも立ち上がる功。
「……最期まで健気だな」
必死に立ち上がる功を前に、霊鬼れいきは呆れた様子でため息をついた。
「もういいわ。死ね」
高々に上げられた刀が真っ直ぐ功と美音へ振り下ろされる。功をいたぶっていた時とは比べ物にならない速度で。
「っ!!」
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