167話 コウの過去 30
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この倭国と言う国には、妖怪を倒す事を目的とした“侍”が数多く存在する。もちろんその中には有名な者も、そうでない者もいる。
しかし、全ての侍の目的は一致している。
それは、妖怪を統べる鬼達を倒す事。
『鬼と呼ばれる方々は、九尾などの一部の妖怪を除く、ほぼ全ての妖怪の頂点に立っています。鬼は個々実力はもちろん、知能もかなり高い存在。妖怪達からは崇められ、人間達からは畏怖の目で見られています』
「……」
『そんな鬼を倒す事を目的としている多くの侍達から、“鬼殺し”と讃えられているのです。どれだけ凄いか、分かるでしょう?』
「……はい。なんとなくは……」
『それに、彼は妖怪からも恐れられるほどの実力者なのですよ』
「そうなんですか……?」
『ええ、その証拠と言ってもなんですが、妖怪の方々からも異名をつけられています。それは……』
ー 道場
「最後ノ忠告ダ。ソノ幼子等ヲ差シ出セ」
「……断るっ……!」
ほとんど崩壊した道場の前に、膝をついて頭から血を流す秀幸の姿があった。彼と戦っていた者達は、更に破壊の進んだ庭の瓦礫の下敷きになっている。
そして、彼の背後には崩壊した道場に隠れている避難者達、目の前には鵺ぬえ。
鵺ぬえの体は酷く傷付き、あちこちから大量に流血している。しかし、鵺ぬえは意に返していない様だが、息は少し荒くなっている。
「ぐっ……!」
刀を地面に突き刺し、震える足を叩いて立ち上がる。刀を構え直すが、その左腕は上がっていなかった。
「……哀レダナ……」
「っ……なんだと……!?」
その様子を見ていた鵺ぬえが、呟くように言った。秀幸の目が鵺ぬえを鋭く睨み付ける。
「貴様等人間ハ弱イガ、群レレバ強イ。群レテイレバワシトモ戦エヨウ。ダガ、貴様ハ1人ダ」
「……それがどうした……!」
「貴様1人デハ勝チ目ハ皆無。ソレガ分カラヌ程愚カトハナ。ソレニ……片腕デハロクニ戦エマイ」
片腕で刀を構える秀幸を嘲笑う鵺ぬえ。しかし、秀幸は鼻で笑い飛ばし、言った。
「……それでも引かぬのが人間と言うものよ」
「……ヌ……?」
「例え敵が自分を遥かに凌駕する存在だろうと……例え命を失う代わりに出来る事が、ほんの少しの時間稼ぎだろうと」
秀幸の左腕が痙攣しながらも上がり、刀の柄を掴む。あちこちから血が吹き出すが、それでも力は強く込められた。
「守るべきものの前から逃げ出さずに戦い抜く。それが貴様等妖怪には無い、人間の“誇り”だ!!」
満身創痍ではあるが、その目は死んでいない。そして口からでは魂の叫び。
鵺ぬえはそれを聞き、不愉快そうに目を細めた。
「フンッ……ナラバ死ネ!!」
鵺ぬえが巨大な左腕を振り下ろす。それを紙一重で躱した秀幸は、その左腕へ刀を突き立てた。
しかし、力が入りきらない腕では大きな傷は作れない。
「良カロウ! ドレホドマデ抗エルカ見テヤル!」
「っっ!!」
幾度となく振り下ろされる巨大な腕。それを紙一重で躱し続ける。しかし……。
「ぐあっ!!」
叫び声と共に、秀幸の体が空へ昇って行く。
死角から迫った蛇の尾が、彼の胴体に噛み付いていた。
「コノママ噛ミ砕キ、両断シテヤロウ」
「っ! がああああああ!!」
ミシミシと音を立て、体が圧迫される。牙が食い込んだ箇所からは大量に血が吹き出した。
「おおおっ! 舐めるなああ!!」
叫ぶと共に、右手に持った刀を蛇の右目から突き刺し左目へ貫通させる。すると、蛇の尾は自らの意思を持ったように動き出し、秀幸を地面へ叩きつけ悶絶し始めた。
「ぐっ……はぁはぁ……ごふっ」
なんとか起き上がるが、口から血の塊を吐き出し、胸を抑える。息を吸うが苦しいままだ。
「……ココマデ抗エバ大シタモノヨ。ダガ、終ワリダ」
胸を抑え、苦しそうに呼吸を続ける秀幸へ、無慈悲に振り下ろされる巨大な腕。
「っ……ーーー!!」
声にならぬ叫び声を上げ、彼は目前に迫る腕へ刀を突き出す。
しかし、その刀は空を切った。
「……っ!?」
直後に聞こえる重い音。その方へ目を向けると、先程自分へ振り下ろされた鵺ぬえの腕が地面へ転がっている。
その上には総一郎立っていた。
「ガァァアア!? ギッギザマァァァアア!!」
突然の事に動揺したのか、鵺ぬえは叫びながらその総一郎へ残った片腕を突き出した。
しかし、彼は流れるような動きでその上に立ち、掌を鵺ぬえの額へ押し当てる。
「ぬんっ!」
次の瞬間、“発勁”が炸裂。鵺ぬえは吹き飛び、門を破壊してその先の家屋へ突っ込んだ。ガラガラと音を立てて家屋は崩壊し、鵺ぬえの姿を隠す。
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