137話 移動中 2


「えっと……コウさん達って、なんで騎士団長とか会長とかしてるんですか?」


 それは、なぜ別の国から来た彼らが、国のかなり重要な立ち位置に就任しているのか。と言う疑問だった。


「それは、ライナから指名依頼を受けたからだよ。あれ? ミフネから聞いたって聞かされてたんだけど」

「あ……じゃあ、なんで指名依頼をされたんですか?」

「なるほどね。そっか、カイト君は知らないんだね」

「……は、はい」

「それじゃあ、教えてあげるよ。ラカラムス王国で、6年前に革命があったことは知ってる?」


 コウは、カイトがこの世界に来る前に起きた出来事について、話し始めた。


「えっと……は、はい」

「なら話は早い。俺達はその革命で功績を挙げたんだ。それで、信用された俺達はめでたく、国王ライナから指名依頼って形で騎士団長とハンター協会会長に任命されたってわけ」

「……??」

「……ごめん。ちゃんと順を追って説明するよ」



 コウ達が倭国からラカラムス王国に来たばかりの頃。


 言わば、“独裁国家”のような状態だった。


 税は高く、民衆の扱いは酷く、統治も間に合っていない。

 しかし、当時まだ鎖国をしていなかった倭国との貿易をしていた国は、このラカラムス王国のみ。コウ達は、やむおえず唯一倭国人を受け入れるこの国で生活するしかなかった。


 そんな国で過ごすこと3年。


 その頃には、コウ達は持ち前の実力を生かし、“Bランクハンター”となっていた。

 そんなある日、たまたま受けた依頼が元で、とある平民と出会う。


 その平民は名を“ライナ”と名乗り、コウ達と親密な関係を築いた。

 ライナから受ける様々な素材集めの指名依頼。そんな日々を送る中、平民達の間でとある“噂”が広がっていた。



 それは、とある平民が王城へ攻め入り“革命”を起こすと言うもの。



 その噂がコウ達の耳に届いた時。3人はライナに呼び出された。

 なにやらいつもの雰囲気と違うライナに、戸惑いつつも案内される。


 案内されたのは小さな宿の角部屋。そこには、多くの武器を持った人の姿。

 そこでコウ達は聞かされた。


 驚くべきことに、ライナは王族だった。現国王の3番目の実の子だと言う。


 彼は、暴君と呼ばれる父へ、毎日のように政治体制を改めるよう説得をしていた。

 しかし、国王ちちおやは聞く耳を持たず、それどころか逆上してライナの地位を剥奪。

 そして、王城から追い出してしまったと言う。


 それからと言うもの、ライナは平民として身を隠すように暮らした。

 平民として暮らしたことにより、暴君の父の政治の酷さを改めて実感した。


 それが、“革命”への決心に繋がったと言う。


 そこまで説明したライナが、コウ達3人へ再び指名依頼を出す。内容は、王城へ攻め入る突貫部隊へ入隊し、戦うこと。

 そして、ライナを守りつつ国王の元まで行動を共にすることだった。


 コウ達はこの指名依頼を受け入れた。


 王城には、協力者がいると言う。

 ライナと同じ思想を持っていた実の姉。つまり、王女だ。

 彼女は王城内から情報をライナへ流すなど、協力をしてくれているらしい。


 革命は、少しでも敵勢力を減らすため、王国騎士団第1番隊が遠征へ出たタイミングで行われた。


 結果は成功だった。


 国王と同じ思想を持っていた第1王子は王女が討ち取り、国王はライナが直々に討ち取った。




「……てな感じで、革命は成功したんだ。そして、元々王族で革命の中心だったライナは、国王に抜てき。その革命で功績を挙げた俺達は、国王ライナから再び指名依頼を受けて、今の職に就任したってわけ」


 そ……そんなドラマがあったんだ……。


 コウさんの話しを、俺は食い入るように聞いていた。


「そ……壮絶……」

「そうだね。あの国に来てからは、なかなかハードな生活だったなぁ」


 彼の話しは、彼の言う通りハードなものだ。

 なんだか、コウさんの話しだけでラノベ書けそう。


「……この国に来る前の話しって……聞けませんか?」


 自分以外の転生者の人生に、興味が湧いてきた。


「え……それは、俺が生まれた頃からの話かい?」

「はい。……だめですか?」

「いや、ダメではないんだけどさ。その、ポチがいるだろ?」

「あ……」


 そっか。コウさんが転生者だってことは、秘密……だとしたら、ポチにバレるのも……。


 ……ん? いや待てよ。


「ねぇポチ」

「ゴァウッ」

「コウさんが転生者ってことは、知ってるよね?」

「ゴァッ」

「ちょっ!?」


 驚いたコウさんが、慌てて俺の口を押さえてきた。


「な、何言ってるんだい!?」

「むぐぐ……ぷぁっ! 大丈夫です。実は……」


 ポチは俺の記憶から知識を得たらしい。家族のこととか、他の人たちのことも、俺の記憶から知った。


 そして、俺が転生者であることも知っていたのだ。


 その流れだと、当然コウさんが転生者だって記憶も見ているはず。

 そのことを説明した。


「……って事で、ポチは僕たちの秘密を知ってるんです。ね、ポチ」

「ゴァウッ、ゴアア」


 ポチは返事をするように鳴きながら、首を上下に揺らしている。


「……そっか。それなら仕方ないけど、そう言うことは先に言ってね。前にも言ったけど」

「……ごめんなさい」

「……問題にならなかっただけ、よしとしよう。次からは気をつけるんだよ?」

「……はい」


 俺はまた同じことを……気をつけないと……。


「まぁまぁ、そんなに気を落とさなくてもいいよ。失敗は誰にでもあるんだから」

「……ありがとうございます」

「うん。じゃあ、時間もたっぷりあるし……長くなるけど、俺の過去話し、聞くかい?」

「はい、お願いします」

「一応もう1回言うけど、本当に長くなるからね」

「はい」


 この世界にいる、自分以外の転生者。

 その過去を語る彼を、食い入るように見つめて続けた。


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