136話 移動中 1
透き通るような青みを帯びた空。
その青を背景に、1つの黒い物体が動いていた。
大きさは15メートルほど。大きな翼を広げて一直線に移動している。
倭国に向かっているポチだ。
空気魔法で空気抵抗を減らし、風魔法で気流をつくり、常に“滑空”に近い状態で進んでいる。
そんなポチの背には、4人の姿。
「うぅ……出ますぅ……」
「ち、ちょっと待って待って。ここで出すのは不味いって」
「ズミマゼン……」
四つん這いで口を抑え、青ざめているセオトの背をさするコウ。
「そこで出したら、さすがにポチがかわいそうだわ。カイト、あんたの治癒魔法でどうにかならないの?」
「……乗り物酔いには、治癒魔法効かないんですよね……」
少し離れた位置で、ジト目でセオトを見るミフネ。その膝の上にはカイト。
ミフネの膝にカイトが乗っているのは、『また落ちそうになったらこっちがヒヤヒヤするから』との事。
決して『高いところが怖いから』と言うわけではないと、ミフネは主張している。
「うぅぅ……も、もうだめ……おr」
「収納!!」
「うわぁ!?」
セオトの口からモザイクが出る瞬間、カイトが彼女を収納した。突然、目の前にいた人の姿が消えて、驚くコウ。
「あ……収納させてもらいました。そこで出すと、アレなので……」
「な、なんだ……びっくりした」
胸を撫で下ろしながら、ミフネとカイトの元へ戻る。すると、コウの視線が2人に向く。
「ミ……ミフネ……」
「か、勘違いしないでよね。カイトが落ちないようにしてるだけで、怖いとかじゃないから」
「……はいはい。分かってるよ」
ミフネのツンデレを、若干寂しそうな笑顔で返すコウ。そんな2人の会話を聞きながら、カイトは地平線を眺めていた。
景色は絶景。しかし変わらない。
すでに移動を始めて数時間経つが、変化といえば雲やたまに見える小さな島程度。
カイトは正直なところ、そんな光景に飽きてきていた。
そして、飽き始めた頃から感じる違和感。時間が経つにつれ、その違和感は大きくなってきている。
「……あれ?」
そんな時、カイトは自分以外の異変も感じ取った。
ミフネの体がプルプルと震えている。見上げると、そこにはおかしな表情のミフネ。
唇を噛みしめ、無表情ではあるものの冷や汗をかいている。
「ミ……ミフネさん……もしかして」
「……ねぇカイト」
「は、はい」
ミフネは一点を見つめながら、カイトへ早口で話しかけた。
「あんたのその“収納魔法”。生き物を入れても問題無いのよね?」
「……そうですね。収納した瞬間の状態で保存できるんです」
「なるほどね……」
なにやら、ミフネは考えている。
「よし、ねえカイト。あたしも収納してもらえないかしら。それで、倭国に着いたら出してもらえる?」
「え、ミフネさんをですか?」
「そうよ。未知の魔法を体験できる、良い機会だわ。別に高いのが怖いとか酔ったとかじゃないからね」
「わ、分かりました」
承諾すると、ミフネは口を押さえながら立ち上がり、カイトの前へ立った。
「良いですか?」
「う……ええ、いつでも良いわ。もう1回言うけど、倭国に着いたら出してね。もちろん地面によ。絶対よ」
「は、はい、分かりました。……収納」
収納魔法を使ったとともに、ミフネの姿が消える。
すると今度は、その様子を見ていたコウがカイトへ話しかけた。
「前にも聞いたけど、生き物まで入れられるなんて……その収納魔法って凄いね」
「……そうですね。僕が使える魔法の中で、これが1番意味分かんないです」
なにせ、物体がその場から消える上に、収納した瞬間の状態で保つ……つまり、“時間が止まる”のだ。
ゲームに当てはめれば、『主人公が明らかに持てる量では無い荷物を持っている』のようなこと。
しかし、そんなもはやゲームをするにあたって、当たり前と言って良いようなことも、現実ではあり得ない。
だが、収納魔法はそれが出来てしまうのだ。
カイトが意味が分からないと言うのも、無理はないだろう。
「俺も似たような力があるけど、生き物はダメだし……やっぱり勝てないね」
以前にも同じようなことを言っていたな。と思うカイト。
「……それより、カイト君。どうかしたのかい?」
コウが何かに気がついた。
「え?」
「いや、その……なんというか、ソワソワしてない?」
その指摘通り、カイトは先ほどからずっと落ち着かない様子だ。やたらと辺りを見渡し、体を意味もなく揺らしている。
「じ……実は……」
「もしかして、君も酔ったのかい?」
「い、いや……そうじゃなくって……」
なにやら、口を渋るカイト。そんな彼へコウは追及する。
「気分が悪いなら、早めに行ってくれないかな。君に何かあったら大変だ」
「……」
追及され、カイトは先ほどから感じていた違和感を伝えることにした。
「な、なんだか……ずっと胸が苦しくって……落ち着かないんです。それで……それで……」
「それで?」
「と、とにかく家に帰りたいです!」
顔を上げ、そう伝えるカイト。すると、コウは「なるほどね」と言わんばかりに頷いた。
「カイト君。多分それ、ホームシックだ」
「ほおむしっく……?」
「そう。つまり、家が恋しくて恋しくて仕方がない状態だよ。まぁ、なにか別のことをして気をそらせるか、あとは時間が経てば良くなるよ」
カイトにとっては初めての経験だった。帰りたいと思える家が出来たからこそ、陥る症状だ。
「じ、時間ってどれくらい……?」
「うーん……きっと、一晩も経てば……」
その情報に、カイトは気を落とした。
今は昼頃。コウの言ったように一晩経つまで、かなりの時間がある。
そんな落胆するカイトへ、提案した。
「じゃあさ、俺となにか話でもして気を紛らわせるかい?」
その提案に頷く。しかし、なにを話せば良いのかが分からない。
「えーと……」
「……なら、質問とかでも良いよ。答えられることは答えるからさ」
「質問……」
そう言われると、以前に疑問に思ったことが頭をよぎる。
他に思いつくことが無かったので、それを訊いてみることにした。
「えっと……コウさん達って、なんで騎士団長とか会長とかしてるんですか?」
それは、なぜ別の国から来た彼らが、国のかなり重要な立ち位置に就任しているのか。と言う疑問だった。
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