69話 王都にとんぼ返り



 テイルが夢に出てきた後、2度寝して見た夢があんな夢だったのだ。

 夢をみることに“忙しい”と思ったのは初めてだな。


 今日は、彼からの依頼をこなす為に動かなければならない。


 話をまとめると、テイルからの依頼を受け、俺は“倭国”へ行く事が決まった。

 その為にはこの事をコウさんに伝えなければならない。


 と、言うわけで家に帰った俺は王都へとんぼ返りした。


 何故戻るのか、疑問に思っていた両親には『忘れ物をしたから取りに行く』と伝えておいた。


 夢のこともありかなり心配されたが、なんとか説得して王都へ行くのを許された。


 馬車に揺られ、しばらくして王都へ到着。


「さてと……コウさんは、王城かな?」


 以前王都へ来た際、コウさんが門番に“黒髪黒目の少年は客室へ”と伝えてくれたおかげで王城へは簡単に入れる。


 門番に挨拶をして城内へ入ると、明らかに慌ただしい事に気がついた。


 なんだ? なんかやたらと人が走り回ってるな。それに武器の調達とか、作戦案とか聞こえるけど……。


 とりあえず客室へ向かおうとあたりをキョロキョロと見渡していた時だった。


「カイト君!?」


 声がした方を向くと、コウさんが紙を数枚持って立っていた。


「どうしたんだい? 昨日帰ったばかりじゃないか」


 彼は近くにいた男性に紙を渡して、俺の元へ駆け寄ってきた。


「すみません。実はコウさんに内密の用件が……」

「内密……?」


 コクリと頷き、手招きする様に指を動かす。彼はかがんで耳をこちらに向けてくれた。


「実は……テイルから依頼を受けまして……」


 すると、コウさんは驚いた表情を見せ、あたりを見渡し今度は俺に耳打ちをした。


「……分かった。ただ、場所を変えよう。付いて来て」



 早歩きのコウさんについて行くと、彼の部屋に到着した。


「ここなら誰も来ないから、気にせず話せるよ」


 彼は俺を先に部屋へ入れると、廊下に誰もいない事を確認して自分も中へ入った。

 そして、俺を椅子に座らせ自分はベットへ腰をかけた。


「それで……テイルって言ってたけど、まさか生命神テイル様?」

「はい、昨日の夜に。いきなりすぎて驚きました」

「ほ、本当に友達なんだね……」

「疑ってたんですか?」

「あっいや、ごめんね。そう言うわけじゃなくって……その、改めて本当なんだなって」


 多分これ信じてなかったな。……まぁ無理もないと思うけど……。


「とにかく、昨日テイルから聞かされた事を言いますね」


 俺はコウさんがこの世界にいる事は異常である事。

 コウさんの転生に何者かが関わっている事をコウさんに話した。


「そっか……そうだったんだね……」


 それらを聞くと、彼はうつむいてしまった。

 そして、不安そうな声で問いかけてきた。


「……俺、テイル様に消されたりしないよね?」

「……へ?」


 消される? 何で?


「だって、その話からすると俺はこの世界にいたらダメな存在なんでしょ?」


 ……あーなるほど、確かに考え方によってはそう思っても仕方ないだろう。

 だが、俺ははっきり言える。


「テイルはそんな事しません。断言出来ます」

「……本当かい?」


 断言してもまだ不安そうだ。

 その彼の目をまっすぐ見て、再びはっきりと答える。


「はい。ありえません」


 テイルはそんな事はしない。彼は生きている者を何よりも尊重する事は知っている。

 だから俺なんかを律儀に呼び出して、謝罪して新たな人生をくれたのだ。


 俺とコウさんの視線が合ったまま少しの間、沈黙が流れた。

 そして、彼は大きなため息をついた。


「そっか、なら安心だね……」


 ため息は安堵からのものだった。


「はい。心配はいりません」

「……そういえば、テイル様から受けた依頼ってなんだい?」


 ……あ、そういえばそれはまだ話していなかったな。


「えーっと、実はコウさんがこの世界に来た時にいた森に案内していただきたいんです」

「森に?」

「はい。テイルが僕を介してそこの調査をしたいそうです。ですので、テイルと相談してコウさんに案内してもらおうと」


 すると、コウさんは額に手を当ててため息をついた。


「……どうしました?」

「……えっと、カイト君? テイル様と相談して俺に協力を求めたんだよね?」

「? はい」


 再び彼のため息が聞こえた。


「もー……それを先に言ってくれれば変に心配しなくて良かったのに」

「……あ」


 確かにこれを先に伝えておけば、不安にさせる事は無かったかもしれない。


「す、すいません……確かにその通りです」

「……まぁ良いけど、それじゃあ君を、俺が生まれた森に連れて行けば良いんだね?」

「はい。お願いします」


 返事をすると、コウさんは立ち上がり笑顔で続けた。


「分かったよ。それじゃあライナに頼んで、倭国へ船を手配してもらおうかな」

「ありがとうございます」

「うん。日時が決まれば連絡するね」


 そう言い彼はドアへと歩いて行く。


「それじゃあ俺は行くね」

「……」


 なんだか、今日の王城の中は騒がしい。

 彼を含めて、皆急いでいるようにも焦っているようにも見える。何かあったのだろうか。

 疑問に思い、彼に問いかけてみた。


「あの、なんだか皆さん慌ただしいですが、何かあったんですか?」


 するとドアノブに手をかけたコウさんの動きが止まり、ゆっくりとこちらに振り返った。


「あー……知りたい?」

「……はい」

「それじゃあ……歩きながら話すよ」


 彼について行くと先程いた場所へ出た。

 やはり、兵士から偉そうな服装の者まで皆走り回っている。


「何があったんですか?」

「……カイト君。君はワイバーンを知ってる?」


 ワイバーン……確か、ドラゴンに似た生き物だったよな。ラノベによく出ていたので覚えている。


「はい。知っています」

「なら話は早いね。実は、とある村がワイバーンの群れに襲われたんだ」

「え!?」

「半分がその場で喰われ、半分が巣へと連れ去られてしまったらしい。今はその討伐兼救出作戦のための情報収集をしているんだよ」

「情報収集ですか?」

「そう。例えば群れは何匹だったか、どれくらいの大きさかとかね」

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