62話 面倒くさい人 2



「あの人達は勝手に自滅してくれますから」

「自滅…? ミウちゃん、待ってくれ!」


 彼女は俺の制止を聞かずに相手の前まで進んでしまった。


「ねぇジーフ、本当に大丈夫かしら……」

「やっぱり俺達も行った方が……」


 心配そうなミゼリアとラングと俺も同じ意見なのだが……。


「いや、俺達が行ったところで戦況が良くなる事は無いよ」


 ならば、任せるように言った彼女の言葉に従う他ない。


「来ましたよ。さっさと始めましょう」

「はぁ? あなた、まさか1人でやるつもり?」


 彼女達の会話が聞こえてきた。


「ええ、何か問題でも?」

「は? 問題以前に……」

「Bに対してIが何人いても、変わらないですよね?」

「……」


 彼女の発言に面食らった相手は、一瞬何も言えなかったようだ。


「……」

「くだらない……分ったわ。その言葉、後悔させてあげる」


 シシリが男に合図を送ると、2人は同時に大剣を抜き、ミウちゃんに向かって距離を縮め始めた。


「ミウちゃん!」


 とっさに叫ぶが、その瞬間に男達の様子がおかしい事に気がついた。何か動きがぎこちないのだ。そして、突然片方の男が何かにつまづいてバランスを崩した。

 その拍子に振ってしまった大剣がもう1人の男の頭に直撃。

 幸い当たったのは刃の部分では無かったが、相当な衝撃だったのかそのまま失神してしまう。


「何やってるのよ!?」


 仲間の失敗を見て腹が立ったのか、シシリは杖を構え詠唱を始めた。

 しかし……、


「炎ま……え!? な、何これ!?」


出現した火の玉は彼女の意に反してどんどん大きくなっていく様だ。


「え、ちょっと待っ……」


 そして、その火の玉は暴発して2つに分かれた。

 一方はシシリ、もう一方は転んだ男に直撃した。


 2人はそのまま失神。その場には何もせず立ったままのミウちゃんだけが残った。

 少しの間静まり返った後、野次馬達の呆れた声が聞こえてきた。


「なんだよあいつら」

「駆け出しに喧嘩売っておきながら自滅かよ。情けねぇ」


 野次馬達はハンター協会の建物へ戻っていく。最後の1人の姿が扉の向こうに消えた。

 それとほぼ同時に、ミウちゃんは振り返り、こちらに駆け寄ってきた。


「終わりました」


 その顔はいつもと変わらない笑顔だ。


「あ、ああ……」

「私の言ったとうりになりましたね」

「た、確か……ミウちゃんが何かしたわけではないの?」

「何もしてイナイデス」

「そ、そっか……」


 ラングとミゼリアは素直に彼女の主張を受け入れている様に見えた。


 だが、俺は見てしまった。


 相手と対峙した彼女の両手は無抵抗の意を示すかの様に地面へと垂れ下がっていた。


 しかし、左手の人差し指だけがくいっくいっと動いていた。

 その動きに合わせて相手が転倒したり、魔術を暴発させていたりしていたのだ。


 それらを見るに、あれは自滅では無かったのではないか。彼女の力によって倒されたのではないか。と思った。


「あ、おい」

「なんですか? 会長」

「過程がどうであれ、お前達が勝ったんだ。あいつらに何か要求するなら、私の権限で無理矢理にでも呑ませてやるぞ?」


 会長は顎でシシリ達を指した。


「そうですね……では」


 彼女は俺達、シシリ達の方を見て言った。


「2度と私達に関わらないよう言ってください。特にジーフさん達に絡むのは許しません」

「……分かった。後であいつらに伝えておこう」

「ありがとうございます」


 彼女は会長にお礼を言って俺たちに笑顔を見せた。


「一件落着ですね。じゃあご飯食べに行きましょう」


 彼女の笑顔を見て改めて思った。

 彼女が正体不明の力を持っているのは確実だ。

 しかし、恐れる必要は無いだろう。


 今までも、そしてたった今も彼女は俺たちのためを思ってその力を使ってくれたのだ。

 ならばそれに見合うよう彼女に接しようと心に決めた。



 ーside シシリ


「ぅ……ん」


 眼を覚ますとそこは医務室で、となりに並べられているベッドにパーティメンバーの2人が寝かされていた。

 すると、職員であろう男性が目を覚ましたこちらに気がつき、部屋を出て行った。


 何が起きた? 確か……そうだ。


 白髪の子に魔術を撃とうとしたら暴発したのだ。


 ……いや、あれは“私の魔術では無い”。だって……。


 その時、突然扉が開いた。そこから会長が入って来てまっすぐこちらへと歩いて来る。


「目を覚ましたと報告を受けて来た。体の調子はどうだ」

「……特に問題は無いわよ」

「そう睨むな、……まぁいい。負けたお前達にはあのパーティから1つ要求が来ている。“2度と関わるな“だそうだ」


 私はそれを聞いた瞬間に声を荒げた。


「はぁ!? 何言ってんの!? なんで私達があんな奴らの言うことを聞かなきゃならないわけ!?」


 それは要求の内容への不満ではなく、格下の相手の言う事を聞かなければならないと言う事への不満だった。


 しかし、会長の怒鳴り声が響く。


「黙れ! 敗者が勝者の言う事を聞くのが決まりだろう! 敗因が自滅だとしてもお前達は負けたのだ! それ以上に理由が必要か!」


 会長は振り向き!ドアへと歩いて行った。


「貴様らはあのパーティに2度と手出しはできない。もし手を出したらそれ相応の処分を下す。話はこれで終わりだ」


 会長は大きな音を立てて扉を閉め、部屋を出て行った。


 腹が立つあまり、思い切りベットを叩いた。


「自滅? いいえ…あれは自滅ではないわ…」


 魔術が暴発した時、白髪の子が少量だが魔力を放っている事を確かに感じ取った。

 なにより、暴発した火球は“詠唱の途中”で出現したのだ。


 それらを考えると、あの火球は白髪の少女の魔術で、わざと暴発したように見せかけたのだ。


「許さない……」


 怒りに震えそう呟いた。


 BランクがIランクに負けた上、“自滅した”という汚名を着せられた。


「この借りはいつか絶対に返すわ…」


 私は物音1つしない部屋の中で、静かにそう誓った。

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