61話 面倒くさい人
「その白髪の子、私達に寄越しなさい」
袋を差し出したシシリが言い放った事は衝撃だった。
白髪の少女……俺だよな。で、寄越せって事は……。
「……まさか、そのお金でミウちゃんを売れと言いたいのですか?」
ジーフさんが険しい表情で問いただした。
「ええ、その通りよ。それくらいは分かるのね」
すると、彼女はどうしてこのような行動を取るのかを、説明し始めた。
彼女達は俺達が盗賊に捕まったあの日、偵察に来ていたのだと言う。
俺達が拠点に入れられる前からそこにいたそうだ。
偵察をしていたところ、突然盗賊の拠点の一部が吹き飛び、そこから俺達が出てきた。
その後は知っての通りだ。
「その白髪の子が使った炎魔術はなかなかのものだったわ。なのに、あなた達の様な駆け出しの中にいるのは可愛そうじゃない」
立ち上がり、彼女はそう言うと俺を見下ろした。
「だから私達があなたをわざわざ買ってあげるの! 有り難く思いなさい!」
呆れた。俺を買う? そんなもんこっちから願い下げだよ。
だけど……差し出されたお金はかなりのものだ。こいつが言っていた通り、最低ランクの俺達ではどれだけ頑張ってもこの額を稼ぐ事はほぼ不可能だろう。
そんな事を考えたら、ジーフさん達が俺を売るのでは? と思ってしまう。
しかし、そんな心配はいらなかった。
「お言葉ですが、お断りします」
「そうね。話にならないわ」
「ああ、時間の無駄だった」
彼らはこの場で迷わず断った。なんだかとても感動した。
「皆さん……ありがとうございます」
お礼を言うと彼らは『当たり前だろ』と笑って答えてくれた。
本当にいい人達だ。
「そう言う事でシシリさん、お金をしまってどっか行ってください」
すると、彼女の表情がみるみるうちに険しくなっていく。
「はぁ!? 駆け出しの分際で私の有難い気遣いを断るわけ!? 信じられない!」
食堂に彼女の声が響き渡り、周囲の視線を集めた。だが、彼女の声はおさまらない。
「あなた達の様な駆け出しに人の役に立つ様な仕事が出来るの!? そんな無能な奴らが私に逆らっていいと思う!?」
とんでもないこと言い始めたな。
食堂がどよめき始めた。
「あのね! その白髪の力は私に劣るけど、価値のあるものだわ! だけど、あなた達の様な無能の中にいたらその価値も無くなってしまうのよ!」
ここで、職員がやってきて静かにするよう注意していき、ようやく彼女は静かになった。
しかし、表情は険しいままで息も荒い。
「とにかく、その白髪の少女を引き渡しなさい。その価値に見合う様、私達で面倒を見てあげるから」
さっきから人の価値がどうとか、好き勝手言ってるなぁ……。
きっと、自分は強いから偉いと勘違いしているタイプの人だ。聖騎士長アレと同じだね。
といっても、一応はランクは上から3番目のB。それなりに努力して来たのだろう。それは認める。
しかし、だからと言って好き勝手言って良いとなるはずがない。
もはや、俺に黙って聞いているつもりはない。こちらからも色々言わせてもらおう。
「では、シシリさんに質問します」
「なによいきなり、まあ良いわ。言ってみなさい」
「私達は、畑を荒らす猪を狩る依頼を受けるつもりです。なら、程度がどうであれ、人の役にはたっていますよ?」
「…は? 何言ってんの。私達は人を喰い殺す様な魔獣を駆除するのよ? その依頼も受けられない様なあなたが何偉そうに言ってるわけ?」
「…」
まぁいい、ここからが本題だ。
さっきの話を聞いている時に思った事、それは……。
「あなた方は私達が捕まった事を知っていたのに、助けようとは思わなかったんですか?」
そう聞くと、彼女は鼻で笑い飛ばした。
「何言ってんの? 捕まったのはあなた達の自己責任でしょ?なんで私達が助けないといけないの?」
これは彼女の言う通り、冒険者は全てが自己責任。たとえ死んだとしても文句は言えない。
「それなら、盗賊に捕まっていた人達の救出は考えていましたか?」
すると、彼女は口角を上げる。
「考えるわけないでしょ。面倒くさい」
そう吐き捨てた。はい、クズ確定。
実行出来るかどうかは別として、その可能性を考える事くらいは出来るはずだ。
「……人の役に立つとか言ってるのに、人を助けるつもりがないとか矛盾してます」
彼女は小刻みに震えている。相当頭にきているようだ。
「全く……報酬は譲ってあげたのに、この恩知らず……」
「報酬が欲しいなら、自分達が倒したって言えばよかったんです」
「討伐証明出来るものが無いじゃない。あのままじゃ失敗扱いされて違約金を払わないといけなくなるから、その対処として本当の事を言わざるを得なかったのよ!」
「……一応は考えて行動してるんですね」
俺のその一言で彼女の怒りは頂点に達したようだ。
「分かったわ! 平和的に済ませようと思った私がバカだった!」
そう怒鳴り、乱暴に立ち上がった彼女の声は怒りに震えていた。
「付いてきなさい! 私をコケにした事を後悔させてあげるわ!」
ズカズカと奥の方へ歩いて行き、扉から出て行ってしまった。男達もそれについて行く。
彼女が出て行った食堂はシーンと静まり返っていた。
「……なんか、色々と残念な人だったね」
「そうですね……」
「で、どうするの? ついて行く?」
「多分、ついて行かないと後々面倒な事になるぞ」
4人で大きなため息をつき、彼女の後を追った。
追いかけ、行き着いたのは試験の際にも来た広場だった。
彼女は広場の中心あたりまで行くと振り返る。
「かかってきなさい! どれだけの過ちを犯したのか思い知らせてあげる!」
そう怒鳴った。
「かかってこいって……何考えてるんだ?」
「ですよね……なんなのでしょうか」
困惑する俺達の後ろには、騒ぎを聞きつけた野次馬が集まって来ていた。
「何事だ?」
「Bランクのやつが駆け出しをスカウトしたんだが、断られてキレたらしい」
「マジか、大人げ無ぇな」
やっぱり思う事は皆同じだな。
「おい! お前ら!」
俺達を呼ぶ声が聞こえ、振り返るとそこには会長が立っていた。
「全く……だから忠告したのに……」
会長は頭を抱えている。
「し、仕方ないですよ……成り行きでこうなったんですから」
「……まぁ、あいつらは変わり者だからな」
「それより会長、あの人達かかってこいと言ってるんですが、良いんですか?」
「ん? ああ……試験の時に冒険者は実力が全てだ、と言ったのを覚えているか?」
「はい」
「この状況はその言葉の通りだな。冒険者の間でいざこざがあれば、当然冒険者同士で解決させるのだが、脳筋のバカばかりで話し合いじゃ解決しないから分かりやすく実力で解決させている。負けた方が勝った方の言う事を聞く。簡単な事だ」
それを聞いたジーフさんが不安そうな声を漏らした。
「そんな……こんなにランク差があっても許されるんですか?」
「あまりにランク差があれば、こちらから手を出すこともあるが……」
会長は俺のことを見た。
「……まぁ、ミウなら問題あるまい」
申し訳なさそうな表情でこちらを見る会長に返事をする。
「……分かりました」
全員の視線が1人でシシリ達へ近づく俺へ向いた。
「ミウちゃん!?」
「私に任せてください。元はと言えば、私が原因ですし」
「まさか、1人で戦うつもり!?」
「はい。皆さんにご迷惑はかけません」
しかし、今回は流石に自重しなければ。
野次馬が多いのであまり力は見せたくない。 それなら……。
俺はにっこりと笑い宣言した。
「あの人達は勝手に自滅してくれますから」
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