59話 今日も冒険へ 1



 街は何事も無く、いつも通り賑わっている。

 そんな中、俺はパーティと合流するためハンター協会に向かっていた。


 程なくして協会へ到着したが、まだ他のメンバーの姿は見えなかった。

 入り口の横に立ち、考え事をしながらメンバーを待った。


 昨日あんな事があったのに、翌日には仕事を入れるだなんて根性のある人達だな。

 まぁ、俺の治癒魔法のおかげでもあるのかもしれないけど。


 ……また誘ってもらえた。


ふとそう思った。昨日の別れ際、『また明日』と言ってもらえた。


 これはもしかしなくても、今日また会う事を許してくれたのだろう。


 正直言って、昨日の俺の言動はかなり怪しいやつだと思う。

 だが、こんな得体の知れない奴にあんなに優しくしてくれた上、また冒険に誘ってくれるとは、本当にあの人達は良い人だ。


 ……もし、このまま友達にもなれたら。


 前にも考えたが、一緒にお店に行ったり、一緒に遊んだり……そういう事をしてみたい。


 そんな事を想像していると、口角が上がりニヤニヤしてしまう。


 こんなところを誰かに見られたら恥ずかしいな……早く落ち着かないと……。


「おはようミウちゃん」

「わあぁ!?」


 振り返るとそこには昨日の3人が立っていた。


いつの間に来てたの!?


「ぁ……お、おは……おはようございます」

「ミウちゃん早いね。待った?」

「い、いえ。私も今来たばかりです」


 ニヤついてたのは見られなかったか?

 良かった……見られてたら恥ずかしす……。


「ところで、なんでニヤニヤしてたんだい?」


 見られてたぁ! 恥ずかしい!


「ぁぅ……ご、ごめんなさい……」

「い、いやいや、謝らなくても大丈夫だよ?」


 赤面してうずくまる俺は3人に慰められ、建物へ入った。


 そして今日受ける依頼を選ぶ。


「今日は何を受ける? また討伐依頼?」

「そうだな。また討伐依頼を受けようと思う。でも、あまり森の奥に行かずに済むやつにしよう」

「ああ、また魔獣に出くわすのは勘弁だからな」


 魔獣か……。


 俺はそんな会話を聞きながら、試験の日に受けた会長の説明をぼんやりと思い出した。



『……ハンター協会のランク制度についてはここまでだ! 次に討伐依頼について説明するからよく聞け!』


 説明によるとこうだ。


討伐依頼はランクごとに、討伐する対象の目安が変わる。


 I〜Gは獣、F〜Dは魔獣、C〜Sは魔物、その他(例、薬草摘みはI以上、盗賊などはD以上)自分のランク以下の依頼ならば、どれでも受けることができる。

 ただし、中には強力な個体もあり、これらに当てはまらず高ランクのものもある。その逆もしかり。


 しかし、あくまでこれらは目安である。


 まず、I〜Gの“獣”はよく知っているものだ。  

 野生の狼、熊、牛……昨日受けた依頼の大ネズミは“獣”に分類される。


 次にF〜Dの“魔獣”。

 “魔獣”は“獣”と似ているが全く別のもので、体格は大きく発達し、“獣”より知性がある。


 最後にC〜Sの“モンスター”。

 これらが最も危険視されている。

 中には魔術を自在に操り、知性により行動している種もいる。

 例をあげると、オークやグリフォン、ワイバーンなど。ラノベでよく見かけたファンタジーな生き物達だ。

 この世界に来て、5年経ったがまだモンスターは見たことがない。



「……よし、これにしよう」


 ジーフさんが手に取ったのは、畑を荒らす猪の討伐依頼だ。


「依頼した村はここから数時間の場所だから、森の奥に行く必要はないと思う」

「そうね。それにしましょう」

「そうだな。ミウちゃんもそれでいいだろ?」

「はい。大丈夫です」

「よし。じゃあ行こうか」


 しかし、受付に行き手続きを済ませ、出発…

 と思ったが、受付嬢に呼び止められてしまった。


「呼び止めて申し訳ありません。白い髪の少女がいるパーティを、呼び止めるよう言われておりまして」


 え? 俺?


 受付嬢からそう説明され、奥へ通された。


「な、なんだろうね……」

「分からない……ランクが上がるなら受付で済まされるはずだし」

「俺達なにかしたのかな?」


 うーん……何かやらかした記憶は無いけど……。


「こちらです」


 受付嬢が示した部屋のノブをひねり、中へ足を踏み入れる。


「失礼しま……」

「待っていましたよミウさん」


 そこにいたのは会長だった。そして俺以外の3人が部屋に入るなり目つきが鋭くなる。


「……会長、どうかしたんですか?」

「いやなに、少しお前に用があってな」

「え……? 知り合い……?」


 小声で驚いている声が聞こえた。


「え、えっと……会長。私……何か……?」

「ん? ああ、いや。別にお前達は何もやらかしてなどいないぞ」


 すると、会長は笑顔を見せた。


「むしろ、お前達を褒めたいくらいだ」


 そう言い、1枚の紙を取り出した。


「この報告書によると、お前達は“Bランク指名手配、およびBランク討伐依頼が出されている盗賊団を壊滅させ、攫われた人達の救出に成功した”とある」

「……え?」


 盗賊の件に関しては証拠がない、という理由で昨日断られたはずだけど……。


「お前達が盗賊の件を報告した後にな。ある盗賊討伐依頼を受けていたパーティから報告があったんだ。なんでも、その盗賊どもに捕まった他のパーティが代わりに殲滅してしまったらしい」


 会長が俺をちらっと見た。


「白い髪の少女がいるパーティだったそうだ」


 み、見られていたのか……。


「それでだ。信憑性が出たという事で、衛兵の役所を調べたところ、白い髪の少女達に助けられたという奴が十数名いてな」


 一緒に来た受付嬢に会長が目で合図を送る。

 すると、俺達にお盆のような板が1枚差し出された。


 その上には金貨が数枚と銀貨が十数枚乗せられている。


「検討した結果、“盗賊討伐”の報酬に加え、“攫われた人命の救助”の報酬が払われることになった」

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