第43話 正式に家族へ 2


「どうした?」

「今後……僕を不当に……扱わないで、ください」


……さすがに目をつけられるというのは予想されていたか。


「それは君を特別扱いしろ、という事か?」

「いえ……法律通りなら、大丈夫です」


 法律に則って……か。


「では仮に、私の権限で君を無理矢理徴兵しようとしたら……どうする?」


 私はこの国の頂点だ。

 私がそれをすることはあり得ないが、法律だろうと多少は捻じ曲げられる。


 彼がどう反応するかを確かめたくなり、そう尋ねた。


「僕……子供。子供は、気に入らなかったら……駄々をこねて暴れる……もの」


 それはつまり『手を出したら暴れるぞ』という事か。


「ほう……私を脅す気かね?」


 威圧的な雰囲気で問いかける。しかし、彼は表情を変えずに応えた。


「そんな事、無い……です」

「……」


 仮にも目の前にいるのはこの国の頂点。その私に、ここまで引けを取らない者は久しぶりに見た。


「……君は舌足らずだが、本当に子供なのか?」

「……? はい……子供、です」


 まぁそう答えるだろうな。


「今日……お時間、ありがとう、ございました」


 彼はそう言い後ろを向き、姿を消した。扉は開かなかったが、もうこの部屋には居ないようだ。

 大きくため息をつき、椅子の上で脱力する。


 とんでもないのが現れたな……。


 あれは、何事よりも優先して対策をしておかなければならないな。

 せめてもの救いは、彼の言動からグローラット家にいる限り暴れだす事は無いだろう。


「……」


 しかし、楽観視するより注意した方が良いだろう。

 すぐにオーランを呼ぼう。この事を話し対策を考えなければ。



ーsideカイト

 城を抜け出し、城下町を抜けてグローラット領にようやく到着した。


「……あー、緊張した」


 やっと肩の力が抜けた。

 少し失礼な態度を取った気もしなくもないが、無事王様の署名をもらう事が出来た。


 とにかく、今は家に帰ろう。


 家に着くなり、エアリスさんとグレイスさんが駆けつけてきた。


「カイト君! 心配したのよ!?」

「……無事でよかった」

「ご、ごめんなさい……」


 どうやら、相当心配させてしまっていたようだ。


「もう……『僕を狙う人避けに、王様に証人になってもらう』って言って、突然出て行っちゃうんだもの。ティカに無理言って手紙も書いてもらったんですって?」

「ごめんなさい……でも……これ……」


 そう言って養子縁組届を見せた。


「“ライナ・ラカラムス” ……ほ、本当にやったのか?」

「そ、それ……国王様は、謁見に応じてくれたの?」

「ううん……光魔法、で……見えなく……しました」

「……って事は、不法侵入したのね?」


 あ、まずい……怒られる……。


 2人は少し呆れた顔をしたが、すぐに優しい表情に変わった。


「……色々言いたいことはあるけれど、今はカイト君と無事家族になれた事をお祝いしましょう」

「そうだな。今夜は盛大に祝うとしようか」


 彼女達嬉しそうにしている。


「かぞ……く……」


 俺はこの人達と正式に家族になったんだ……。


 彼女達の言葉を聞いて、改めてその事を実感した。


 家族……なら、あれを許してもらえるかな……?


「あ、あの……」

「なに?」

「なんだ?」


 俺は自信なさげに話を切り出す。2人はすぐに聞く姿勢を取ってくれた。


「あの……お母さん、と、お父さん、って……呼んでも……いいです、か……?」


 謝ったあの日、1度だけそう呼んだ。しかし、それは泣きじゃくってその場の勢いに任せた結果だ。

 改めて呼ぶとなると、許可を貰わなければ不安で仕方がない。


 1度目の人生では母親はいなかったし、父親を呼んでも暴力を振るわれるだけだった。

 2度目なんてその存在すら無かった。


 断られたら仕方ないが、やはり家族となったからにはそう呼びたい。


「……ダ、ダメ……ですか?」


 訊くと、頭を優しく撫でられた。


「良いに決まってるでしょ?」

「そうだな。そう不安がらなくてもいいぞ」


 それを聞いて自然と笑顔になった。


……俺にも、“お母さんとお父さん”が出来るだなんて……夢にも思わなかった。


「それじゃあ、私からも1つ」


 エアリスさ……お母さんからも何かあるようだ。


「私達はもう親子なんだから、敬語はダメよ。普通の口調で話してね」

「え……」


 予想外だった。

 俺は大人なら誰でも敬語を使うのが、当たり前だと思っていたからだ。

 もちろん親だとしてもその対象だ。


「良いわね?」


 釘を刺されてしまった。

 少し抵抗があるが受け入れるしかないだろう。相手側もお願いを飲み込んでくれたのだ。


「分かりま……分かった……」

「ふふふ、それじゃあこれからはあなたのお母さんとして、よろしくね。カイト」

「私はお父さんだな。よろしく、カイト」


 赤面している俺と違い、2人はとても笑顔だ。きっと、今の俺も笑顔だ。



 1度目の人生では、母親に見捨てられ横暴な父親に殺された。

 2度目の人生では、右も左も分からぬ世界に落とされ、奴隷として殺された。


 3度目の人生にて、過去に夢見た暖かで優しい親に迎え入れられた。

 そして、この3度目の人生はまだまだ終わらない。


「うん……! よろしく。お母さん、お父さん!」


 2回転生したら人恐怖症になったけど、新しい家族と幸せになります。

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