第37話 神様が誓う神様って誰
「いやいやいやいや、冗談はよしてくれ、そんなのあり得ないだろう。神に誓って無い」
「……あれ?」
なんかめちゃくちゃ否定された。てかお前が誓う神って誰だよ。
「え……じゃあなんで、あんな奴に?」
すると、彼の様子がおかしくなった。一言で言えば目を逸らしてくる。
「あー……いや、それがだな……」
「……まさか、またミス?」
『ギクリッ』
そんな音が聞こえた気がした。
「テ、テイル……」
「いや、理由を聞いてくれ! 今回は私は悪くないんだ!」
へえ、そこまで言うなら違うのか?
「そやつは昔から、何かと神の意に反するだのなんだの言っては人を手に掛けていたんだ。普通はほっとくんだが、仲間内で『なんとなく気に入らない』と言うことになって私が代表して止めるよう言いに行ったのだ」
そこまで話すと彼は頭を抱えた。
「だがな……そやつはその時、興奮しすぎて私の話を聞いてくれなかったのだ。『ついに私に神託が! やはり私の行いは正しかったのだ!』とか言う勘違いしながらな」
大きなため息が耳に届く。
「しかも、『話を聞け』と言い続けた時間がまぁまぁ長かったから、私の力に当てられる時間も長くなってまぁまぁ強い加護与えてしまうし……」
「あー……それは……なるほど……」
納得した。あいつなら、そんな勘違いをするだろうから。
それにテイルおっちょこちょいだし……それに加護って、半ば強制的なんだね……。
「……でも、それ責任とか大丈夫なの?」
例えあの聖騎士長が悪くても、多くの人が殺されたのだ。全く咎められないと言うわけにはいかないだろう。
「そうだな、では1つ例え話をしよう」
「……うん?」
「君の周りに“こいつ絶対結婚出来ないだろ”と思う者はいなかったか?」
いきなりなんの話だ?
「いや、まぁ……いたけど……」
聖騎士長アレとか。
「そして、その中には本当に一生を独り身で終わる者もおるのだ」
「う、うん……?」
本当になんの話?
「実はな、それは運命担当の者と、愛担当の者の連携がうまくいかなかった結果なのだ。あの2人は仲が悪いからな」
「そ、そうなんだ……」
「死んでしまった者には申し訳ないとは思っている。だが、私達も失敗をするんだ……」
以前に聞いた話だと、彼は3つの世界の魂の転生を、たった1人で担当しているんだったっけ?
そう考えると、失敗しても仕方ない気もする。
逆に言えば、それだけの量をたった1人で担当しているのに、俺みたいに“転生先を間違える“という失敗は、まだ2回しかしていない事は相当すごい事だと思う。
失敗は誰にでもあるし、彼の苦労を知らない俺はとやかく言える立場ではないだろう。
やろうと思って失敗してる訳無いしね。一応、反省はしてるみたいだし。
「失敗は出来るだけ少なくするよう、気を付けている。分かってくれて嬉しいよ」
「……また心読んだの?」
「ハッハッハッ、すまんな」
これ、変な事考えられない。本当に油断出来ない……。
「そう身構えるな。そういえば、あの聖騎士との戦闘で魔術を消していたように見えたが……どう言う原理なのだ?」
ん? ああ、あれのことか。というか、見てたんだな。
「“魔力分散”っていう魔法だよ」
「……そんな魔法あったか?」
彼はその魔法に聞き覚えがないらしく、顎に手を当てて考えている。
「スキルの“技術考案“で創ったんだ。効果は名前の通り」
聞き覚えがなくて当たり前だ。俺が作ったんだから。
魔法を作る手段はラノベだと“魔法創造“とか言う魔法が多かったけど、俺は“技術考案”で出来た。
「あいつは魔術じゃないって言ってたけど、どうせ魔術だろうなって思ったの。だから、それ用に作ったんだ」
「ほ、ほう……」
「魔術の攻撃って要するに、魔力の塊を属性別の形にして放つんでしょ? だったらその魔力を“分散“させてしまえば問題ないって、思ったの」
「そ、そうか……そう言うものなのか……」
「……まさか知らなかった?」
「え、いやいやそんな事はないぞ? 自分オリジナルの魔法を作ったのは驚いたが」
遂に神(仮)にも驚かれてしまった。というか、見てたんだ。
すると、テイルが何か思い出したかのように、話し始める。
「そうそう加護といえば、あの聖騎士もそうだが……」
「……?」
……なんだろ?
「君の身近にいたエアリスと言う女性にも、加護を与えたぞ?」
……!
突然その名を出され、言葉を失ってしまった。うつむき、目を逸らす。
「う、うん……そういえば、そう言ってたね……」
「……なぁ、カイトよ」
するとテイルは俺の肩に手を置いた。表情はいつになく真剣だ。
「彼女の元に帰るつもりはないか?」
「……っ」
再び彼から目を背け、考える。
森に帰ってからの数日間、以前の様な生活を送る事は出来ていなかった。
何をしていても、領地での生活が頭にちらつくのだ。
それに加えて、今まで失っていた“寂しい”という感情を再び感じる様になってしまった。
それが原因か定かでは無いが、食事の味や狩りをする時の緊張感などを、全く感じなくなっている。
「......帰り……たいと、思う……だけど、エアリスさん達は……」
きっと、戻って欲しいなんて思っていない。
「何故そう思うのだ?」
「だ、だって……覚えてないけど……酷いこと言ったから……」
そうとしか答えられなかった。
しかし、真剣な表情のテイルに説得される。
「カイト、君は自分より他人を優先して考えている。それは優しい君だからこそ出来る、素晴らしい事だ」
「……」
「だがな、他人を優先しすぎて自分が不幸になってしまったら……それは、ただの過度な自己犠牲だ」
「……っ」
俺は何も言わず、黙ったまま目を背ける事しか出来ない。
「君は自らの経験から、彼女達が自分の事を許してくれないと思い込んでいるだけなんだ」
「……」
「今すぐにその考えを変えろとは言わない。だが、落ち着いた時にはどうか、もう一度考えてみてくれ」
俺が……そう思い込んでいるだけ……?
彼の言葉を必死に理解しようとする。
「うぅ……」
しかし、どうしても理解することができなかった。
「今の君には少し難しいか……」
テイルはそう呟き、俺の頭をわしわしと撫でた。
「テイル……?」
「一旦話を変えよう……だが、今の私の言った事を忘れないでくれ」
「……」
ゆっくりと頷くと、テイルは頭から手を離した。その時の彼は、いつも通りの笑顔だった。
「さて、話は変わるが、君はエアリスに随分と甘えていたようだな」
「……は!?」
突然そんな事を言われ、思っている以上の声が出てしまう。
「べ……別に、甘えてるつもりは……俺大人だし」
「いや……まぁいいか。それに、今の君ならそれほどおかしなことではないぞ?」
「……?」
”今の君”にはってどう言う事?
すると、俺の心を読んだのか、テイルがその疑問に答えた。
「あ、言ってなかったか?」
なんか、嫌な予感がする。
「実は君の“精神年齢”は少し幼児退行しているんだ」
「……えぇ!?」
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