第34話 聖騎士長戦 2
「化け物がぁあああ!!」
聖騎士長が大剣を地面から抜いた。
そして、叫び声を上げながら大剣を振りかぶり、俺へ切りかかって来る。
「……!」
その瞬間、ドクンッと心臓が大きく鼓動したのを感じ、聖騎士の姿にある人物が重なった。
それは、2度目の人生で、俺に剣を突き刺して殺した男の姿だった。
あの時は荷物に体を潰されて、身動きを取れず何も出来ず死んだ……。
でも、
「今は……違う」
振り下ろされた大剣をかわし、身体強化をかける。そして、力の限り聖騎士長の顔を全力で殴った。
「がはぁ!?」
聖騎士長は回転しながら吹き飛んだ。
立ち上がった聖騎士長は、顎に拳が入ったからか、ガクガクと足が震えている。
それを見て、過去の出来事が脳裏に浮かんだ。
昔はどんな扱いを受けても、何も出来なかった。
嫌いな人、怖い人、会いたくない人、どれだってそうだ。
学校のクラスメイトや教師、奴隷商の男、そして……実の父親。
何も出来なかったのは立場や、力、それに加えて反抗する気力が無かったからだ。
だが、最近1つ、思うことがある。
“何も出来なかったのではなく”、“何もしなかっただけ”かも知れない。
だが、今は違う。
強い者に抗える力を今の俺は持っている。
『理不尽に耐える必要は無い』
そう感じた時、自然と笑みが浮かんできた。
今だけ……我慢するのを止めよう。今までのうっぷんを晴らそう。
そう思うと吹っ切れた気分になった。
右手を聖騎士に向け、炎魔術を撃つ。
「なぁ!?」
聖騎士はとっさに避けたが、右足が炎に巻かれてしまった。
悲鳴をあげる聖騎士長へ風魔術で追撃。地面に凄まじい斬撃痕が刻まれながら、風の刃が聖騎士長へと向かっていく。
「ひっ!? あっあがぁぁあああ!」
聖騎士長の左手が勢い良く吹き飛んだ。
再び悲鳴が響く中、俺は各魔術を順に使う。
そして、最後の魔術を使った時には、聖騎士長は満身創痍の状態だった。
「ま……魔術をあんなに……まさか、本当に魔力付与人型兵器?」
観客席から声が聞こえた。
それらに耳を傾けると、俺に対する恐怖を表す発言ばかりだ。
しかし、それは突然響き渡った。
「息子の仇を取ってくれ!」
声のした方を見ると、1人の男性が立ち上がっていた。
「俺の息子はそいつに殺された! 『食事をしている自分の視界に映る場所で咳き込んだ』と言う理由でだ!」
……ほんとに最低だね。
「兵器だかなんだか知らんが、頼む! 仇をとってくれ!」
すると、その男性の言葉に背中を押されたかの様に、他の人達も聖騎士長への恨みをあらわにした。
「娘の仇を取って!」
「殺してくれ!」
「頼む! やってくれぇ!」
聖騎士長は遂に耐えられなくなったのか、大剣を持ち観客に向けて叫んだ。
「ふ……ふざけるなぁ!! 神々より使命を受けた私がわざわざ手をくだしてやったというのに、その態度はなんだ!! 貴様ら必ず全員殺してやるぞ!!」
そして俺を睨みつけた。
「このクズ供は後回しだ! まずは貴様を殺してやる!」
叫びながら突撃して来る。
「……やっと、本性出した」
それに合わせて俺も歩き出す。
「死ねぇええ!」
聖騎士長の大振りな横薙ぎをかわし、足へ全力で拳を叩きつける。そして、崩れ落ちる聖騎士長の動きに合わせて顎への膝蹴り。
それにより、聖騎士長は後頭部を地面に叩きつけた。
周りからは俺を応援する声が聞こえて来た。
今までこんな事一度も経験した事なかったが、なかなか悪くないものだ。
「はぁ……はぁ……グ、グゾがぁ……」
身体強化も使ったし、結構本気でやったんだけどな。思ったよりタフなんだね。
「こ……ごの私に……ぎ……ギザマには……じ、しんばづが、ぐだる……」
「……まだ言ってる、の?」
周りからは『トドメを刺してくれ』という言葉が聞こえてくる。
……ご期待に応えようか。
「ねぇ……思った、んだけど……人を殺したら、“神の意に反する”?」
「あ、あだりまえだ……」
聖騎士長は息を切らせながら返答した。
「なら、いっぱい……人、殺したお前も……“神の意に反する”」
「な、何を……ほざげ……」
「だから、僕が裁いてあげる」
俺の右手の上に炎が出現する。
それは聖騎士長の“裁きの神炎”と同じ、紫色の炎だった。
「な、なぁあ!?」
それを見た聖騎士長は驚愕している。
「僕、見ただけで……魔術、覚えられる」
「ウ、ウゾだ……ごれは、テイル様が私にだけに授けでぐれた力……魔術のはずが無い!」
どうやら、こいつはこれが魔術では無いと“勘違い”しているようだ。それじゃあ、間違いを正してあげよう。
「……これ、“裁きの神炎”じゃない。“不消火”……ただの上位炎魔術」
これは特別なものでは無く、ただの“上位炎魔術”である事が分かった。
昨日、“賢者”でそれらしいものを探したところ、たまたま見つけたのだ。
『上位炎魔術 不消火ふしょうび』
対象に燃え移った場合、一定時間消えることの無い炎。
水の中に入れば燃えることはない。ただし、一定時間内に水から出れば再着火。
これが、“賢者”から得た裁きの神炎もとい、“不消火”の知識だった。
エアリスさんの『燃え尽きるまで消えない』と言うのは、単に消えるまでの一定時間が、人が燃え尽きるまでの時間だったに過ぎない。
「魔術の名前……間違えてるのに、使えてる……逆に才能ある、ね」
聖騎士長はかなりショックを受けている。
「こ、これ……は……テイル様から授かった力……まがい物が使えるはずが……」
どうやら、かなりのショックのようだ。でも、同情なんてする意味など、全く無いだろう。
「……これで最後」
“不消火”を空高く掲げ、両膝をつく聖騎士長を見下ろす。
再び、過去に関わってきた人達が脳裏によぎる。
だが、もうその姿に怯える必要は無い。
「僕は兵器……それは、否定出来ない……かも知れない」
こんなに圧倒的な力を持ってるんだ。兵器だと言われても否定はしきれないと思う。
「でも……兵器なんかより……」
不消火を高々に掲げた。
親、兄弟、姉妹、子供……。それが、こいつがずっと人から“奪ってきた”ものだと、周りの声から分かる。
「もっと……存在したらいけないもの、ある」
俺も過去に多くを“奪われた”。笑顔、自由に生きる権利、家族……そして、命までも。
俺は思う。どんなものより、存在しては行けないもの。
それは……。
「お前みたいな、人の幸せを奪う人間」
聖騎士に向かって“不消火”を放った。
その瞬間、大きな歓声が響き渡る。中には泣いて喜んでる声も聞こえた。
不思議と、身がふっと軽くなったような気がする。
……終わった。
「カイト君!」
すると突然背後から名前を呼ぶ声がした。
「……エアリス、さん?」
振り返ると、なぜか出場者用の出入り口からエアリスさんがこちらに走って来ていた。
そして、そのまま抱きしめられる。
「ああ、カイト君……無事で本当に良かった……」
「どうして、ここに……?」
俺は多くの賞賛を浴びていた。
その賞賛を口にする人達の目には俺が映っている。
もう……ダメだね。
エアリスさんに強く抱きしめられながら、俺はそう感じていた。
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