第33話 聖騎士長戦 1
早朝。
カイトは家から抜け出し、俺は指定された闘技場へ向かった。場所は調べておいたので問題なく到着する。
かなり大きい建物だ。コロッセオに良く似ている。
すでに中から歓声が響いていた。どうやら夜通し開催されていたようだ。
出場者の入り口に入ろうとした時、門兵に止められた。昨日の聖騎士長とのやり取りを話すと、すぐに通される。
その際、その門兵に哀れんだ目で見られる。
カイトは疑問に思ったが、普通に見れば殺されに来てるのだから仕方ない。
控え室に入ると、武器を持っている男達が大勢いた。
そんな男達に、カイトはジロジロと見られる。
エアリスのいない空間なだけあり、人恐怖症の効果が出始める。深呼吸を繰り返し、平常心を保ち続けた。
「……ん?」
男達がひしめき合っている中、特定のものを避けるように、とある場所が大きく開けている事に気がつく。
「おや、逃げずに来ましたね」
その中心にいたのはあの聖騎士長だった。
カイトは挑発するように、わざとらしく大きなため息をついた。
「負けない、から……逃げる意味、無い」
返答した瞬間、男達がギョッとし距離をとった。
「だ……黙っていれば調子に乗りやがって……ふぅー……良いでしょう」
大きな舌打ちが、カイトの耳へ届く。
「神から御加護を受けた私に、逆らう貴様を救済してあげます。私の慈悲深さに感謝し、神々の国で赦しを請いなさい」
呆れているカイトを置いて、聖騎士長はある男性の元に向かった。
その男性は手に紙を持っている。ここで行われている剣闘の名簿だ。
「少し良いですか?」
「は、はい! なななんでございましょう!」
男性は突然聖騎士長に話しかけられ、震え上がっている。
「私の準備が整いました。今すぐ剣闘を始めます」
そう言われ、役員の男性は明らかに戸惑った。
「……し、しかし、聖騎士長様の剣闘は午後の予定です。今はまだ他の剣闘が……」
要望を断られた聖騎士長は、男性を睨みつけた。
「私に歯向かうつもりですか?」
そう言われた瞬間、係員は慌てふためく。
「め、めめめっそうもありません! し、少々お待ち下さい!」
控え室から飛び出していった。
「いつも……そうやって、脅してる?」
そう質問したカイトの周りに、すでに人は居なかった。全員1番離れた部屋の角隅に逃げている。
「ふん、脅す? 私は脅してなんて下品な行為、今まで一度もした事はありませんよ?」
この発言にカイトは驚きを隠せない。
「……脅しにしか、見えない」
「いえいえ、今のは救済の一部です」
聖騎士長は両手を広げ、説明し始めた。
「神々に仕える私に歯向かう行為は、神々に歯向かう事を意味しています。今、彼の汚れた心は私の言葉により浄化されました」
暴論を聞かされて再び驚くカイト。
「しかし、一度汚れた心は私だけでは完全に浄化する事は出来ません。ですから彼は後で直々に神へ赦しをこうことができる様、救済を行います」
カイトは呆れてため息をついた。
少し経って、カイトと聖騎士長は剣闘に呼ばれた。案内された先は広い剣闘場。
当然、観客はざわついていた。
剣闘が中断されたと思ったら、聖騎士長と子供が出てきたのだから無理もないだろう。
聖騎士長は大剣を抜き、両手を広げて大声で話し始めた。
「皆さん! 私の言葉を聞きなさい!」
その瞬間、ざわめきが消えた。聖騎士がどれだけ恐れられてるのかが、見て取れるだろう。
「今日はある者を救済しに来ました! それがこの子供です!」
大剣がカイトへ向けられる。
「この者は子供の姿をしていますが、この世界に厄災をもたらす者なのです!」
観客は状況を飲み込めておらず、怪訝そうな顔をしている。
「何故ならこの者は、あの厄災をもたらす兵器として国を恐怖に陥れた、“魔力付与人型兵器”だからです!」
観客達がざわめき始めた。
「魔力付与……?」
カイトは、未だに“魔力付与人型兵器”を理解できずにいた。
“魔力付与人型兵器”とは以前にエアリス達が話していた通り、人間を兵器として改造した物だ。
“意識を持つ兵器”として危険視されたそれは、『厄災を招く』とまで言われている。
「存在してはならない“物“! 存在自体が神の意に反する“物”! その邪悪な存在がコレなのです!」
聖騎士はまたも、カイトを物扱いする。
「しかし! その様な“物”でも命が宿っています。であればその哀れな魂を救済するのが私の義務!」
大剣を地面に突き立てられた。
「これよりこの邪悪で哀れな魂を、神より承った神聖なる炎で浄化します!」
聖騎士長の右手が、カイトへかざされた。
「“裁きの神炎”!」
聖騎士が詠唱をすると、右手に紫色の炎が宿った。それは、どんどん火力を増している。
聖騎士長がニヤリと笑う。
「さぁ、邪悪なる“物”よ。その哀れな魂を神より承った神聖な炎で焼き尽くします。私の慈悲深さに感謝し、この世に生まれてしまった事を悔やみ、神に赦しを請いなさい」
右手から紫の炎が放たれた。大きな紫色の炎の球がまっすぐカイトへ向かう。
「……」
しかしカイトは、逃げる事なくそれを見つめている。
「さぁ、悔い改めなさい!」
そして……。
「くくく……ハハハハハハ!」
“裁きの神炎”がカイトへ直撃し、紫色の炎がはじけた。紫色の煙が上がる。
「私に逆らったから……いえ、神々に逆らったからそうなったのですよ!」
闘技場に聖騎士長の高笑いが響き渡る。
「良いですか!? あなた方もこうなりたくなければ、神々の使いである私に従いなさい!」
「相変わらずのクズ」
その声を聞いた瞬間、聖騎士長の動きが止まった。
「……え?」
情けない声が漏れる。
突然発生した風が、紫色の煙を晴らした。
「なっ!? なぜ生きている!?」
「……負けないって、言った」
「っ!!!」
煙が晴れた後、そこには無傷のカイトが立っていた。
「ざっ戯言を! “裁きの神炎”!」
再び聖騎士長の右手が向けられる。
しかし、“裁きの神炎”は直撃した瞬間、弾けて空気中に消えていってしまった。
「なっなぜだ!?」
「……」
カイトが聖騎士長へ向かってゆっくりと歩き出す。
「っ!? クックソがぁ!!」
聖騎士長は何度も、“裁きの神炎”を撃った。
だが、それらは全て弾けて消えてしまう。
「っっ!! 来るな化け物がぁ!!」
カイトが遂に聖騎士長の目の前に到着する。ひきつる表情の聖騎士長と目が合った。
「……もう、終わり?」
「っ! ば、化け物がぁあああ!!」
聖騎士長が大剣を地面から抜いた。
そして、叫び声を上げながら大剣を振りかぶり、カイトへ切りかかって行った。
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