第31話 こいつ誰
「いやー素晴らしい! 感服しましたよ!」
……いや、誰だよお前。
疑問を抱いている俺に対して、他の人達は先程以上にどよめいている。
この人……有名人なの?
すると裁判長がおどおどとした様子で、その男に話しかけた。
「あ、あの聖騎士長様、なぜこんな所に?」
聖騎士? マジで!?
ごつごつした甲冑を着てるのがイメージだったけど全然違う。
見た目は優男という感じだ。成金趣味感がするけど。
「ふむ、何をしに来た……ですか」
聖騎士長は、顎に手を当てて話した。
「そうですね。とりあえず不正を働いたあなた方は、後で少しお話をしましょう」
その言葉に反応する様に裁判官と3人の顔が、死んでしまいそうなくらい真っ青になった。
なんだろ? 法的な権限でも持ってるのかな。味方しに来てくれた?
しかし、そんな期待は長くは持たなかった。
「ですが、私が用があるのは10段階の御加護を受けた少年です」
え、俺?
そう言うと、聖騎士長は俺の前まで移動して来た。
「あなたがカイトですね? はじめまして、私は聖騎士長のギールと言います」
「……カイト、です」
「単刀直入に言いますね。私はあなたを、救済しに来ました」
「……はぁ」
何言ってるの? 救済? 何から? 裁判の助けはもういらないけど……。
すると、突然エアリスさんが叫んだ。
「待ってください聖騎士長様! な、なぜですか!? その子は罪人ではありません!」
すると聖騎士長が無表情になる。
いきなりなに!? ていうか、救済=罪人ってどういう事?
「いえいえ、彼は立派な罪人ですよ?」
聖騎士長はまたニコニコとした表情に戻した。
いつの間に俺は犯罪者になった?
「私独自の情報網で調べたのですが、彼は5年前からどの領地にも区分されない森で1人、自給自足の生活をしていたらしいじゃないですか」
聖騎士長は不敵な笑みを浮かべた。
「そして、驚く事に魔獣を家畜にしていたそうですね?」
その瞬間に、周りから驚きの声が聞こえた。
「魔獣を家畜に!? あり得ない!」
「一体どんな方法を使ったんだ!?」
魔獣の家畜ってそんなに珍しいの?
「ですから、彼には救済が必要なのですよ」
再びエアリスさんが声を上げる。
「な、何故ですか!?」
「考えれば、すぐにわかる事でしょう。魔獣の家畜化、それは神の意に反する事です」
聖騎士長は淡々としゃべり続けた。
「慈悲深い神々は、人々が飢えぬよう豚や牛、鶏など、人々が家畜として飼う事が出来る獣を十分に与えて下さいました」
俺に聖騎士長の指が向く。
「しかし彼は、魔獣を家畜とし飼育していたのです。神は魔獣を自然に生きるものとしているにも拘わらず、魔獣を家畜にしていたのです。その行為は救済に値します」
聖騎士長の説明が終わった。
うーん……なんか、だいぶめちゃくちゃな事言ってるきがするけど。
そもそも、さっきから言っている“救済“ってなに?
「ふむ、どうやら彼は“救済”を理解していないようですね」
聖騎士長は俺の顔を見て、察したようだ。呆れたような顔をして説明する。
「神に仕えし私のありがたい行いを知らないとは……良いでしょう、教えてあげます」
……自己評価高いね。
「“救済”とは神の意に反し、道を誤った者を神々の国へ導く事です。そして神の赦しを受けた者は、次の生を受ける事が出来ます」
神々の国へ導く……殺すって事じゃん。
この人、多分あれだな。
力を持ったら自分の行いが全て正しいって、勘違いするタイプの残念な人だ。
読んでたラノベにもたくさんいた。
……ここにいる人達が、妙に怯えている理由がなんとなく分かったぞ。
きっと日頃から、そんな独断と偏見で人を理不尽に殺し回ってたに違いない
「それに加えて、この神の意に反する者が、テイル様の6段階の御加護を受けた私よりも高い御加護を受けたなど、断じて許せません」
思いっきり私情挟んでんじゃん。って言うかこいつもテイルの加護を受けてるのか。
って事は、つまり……。
「……嫉妬……」
「っ!!!」
俺の呟きが聞こえてしまったらしい。
聖騎士長の表情が変わった。一言でいうなら怒り心頭って感じだ。
「黙れっ!! まがい物が!! どうせ貴様は神に付け入ったのだろう!」
神に付け入るって、逆にどうするんだろう。あと、単純に“まがい物”の意味が分からない。
「……なんて、言った?」
「貴様……!」
聖騎士は歯を食いしばって小刻みに震えている。今にも剣を抜いて襲いかかって来そうだ。
「減らず口をたたくな! 貴様が厄災をもたらす存在なのは調べが付いている!」
「……厄災?」
部屋の中に机が叩かれた音が響く。
「貴様が魔力付与人型兵器だという事は分かっているのだぞ!」
再び周りから驚きの声が聞こえてくる。
魔力……ふ……なんだって?
「貴様の様なモノがこの世に存在して良いはずがない! 神々に代わり私が……」
「カイト君を物扱いしないで!!」
突然エアリスさんが立ち上がり、そう叫んだ。聖騎士長は視線を俺から彼女へ移す。
「……なんだ? 女」
「カイト君は兵器なんかじゃないわ。私達と変わらない人間よ」
エアリスさんの手は少し震えている。
「ふん、あんな“物”が私と同じ? それは神々の使いである私を、侮辱していると判断しますよ?」
「侮辱ではありません。私もあなたもあの子も、同じ人間です」
「……あなたにも救済が必要な様ですね」
聖騎士が背の大剣に手をかけた。
このままではまずい……注意をこちらに引かないと。
「ねぇ」
「っ! 気安く呼びかけるな汚らわしい!」
「……僕……が、魔獣飼ってた……なんで知ってる?」
聖騎士の調べたという情報は、特定の人しか知らないはずだ。
どう調べたらそれに行き着いたんだ?
「……ハッ、そんな事決まっているでしょう」
決まっている……?
「知っている人物に聞いたまで。確か名は……ボトフと言いましたかね」
「っ!? あり得ない!」
名を聞いた瞬間グレイスさんが声を荒立てた。
「ボトフが口を割った!? 彼はそんな人間ではない!」
「ええ、彼は初めは話してくれませんでした」
聖騎士長の顔が、おぞましい笑顔へと変わった。
「しかし……彼に病弱な父親がいるのは、調べがついていますからね」
「っ!」
グレイスさんは拳を握りしめている。
……クズだなぁ。
「……クズだなぁ」
思っていた事が口に出た。再び聖騎士長が俺の事を睨む。
「……ふふふ、私をここまで侮辱した下郎は初めてです。いいでしょう。貴様には私に歯向かう者への見せしめになってもらいます」
「……」
「明日、この領地の端にある闘技場で剣闘があります。そこへ来なさい。そこで貴様を救済して差し上げます」
……“救済”なのに“見せしめ”とか……矛盾してる事には、気がついていないのかな。
「貴様に拒否権などはありません。もし来なかったら、我が聖騎士隊を引き連れて貴様を探し出してやります」
「……逃げる、理由無い」
「明日、その発言を悔いる事になるでしょう」
そう言い残して聖騎士は出て行った。
……貴様呼ばわり、丁寧口調は合わないね。
大きくため息をつく。
あいつの実力は知らないけど、とりあえず明日決闘をする事になった。
本当に強かったらどうしよ……まぁ、なんとかなるか。
エアリスさん達へ駆け寄り、話しかけた。
「エアリスさん……グレイスさん。家に、帰りましょう……?」
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