第30話 逆転不正裁判
ーsideカイト
……勢いでここまで来たけど、この感じ……明らかにエアリスさんとグレイスさんが不利だね。
しかし、そんな事はもう予測済み。
そんな状況でも打開できる“証拠”を用意して来た。
さぁ、逆転するぞ。
「おお! 君が例の孤児だね? 君は騙されている、君は保護ではなく誘拐されたんだ。だから私と来なさい。一緒にこの国を守ろうじゃないか!」
「いえいえ、カイト氏には教会で神官を務めていただきます。その御加護の力で民に希望を与えましょう」
「はぁ? 何を言ってらっしゃるのかしら? この孤児はわたくしが引き取ります。素晴らしい教育を受けさせてさしあげるわ」
……好き勝手言ってるなぁ。早く、このふざけた裁判を終わらせよ。
「……聞いてください。僕……は、ついていく事、自分で決めました。証拠、ある。聞いて……ください」
周りがどよめいた。まぁ無理もない。
すると、裁判長が質問して来た。
「あー……聞いてもらうとは? 再現をすると言う意味かね?」
「……“音魔法”、使えます。これで、その時の会話…ここで聴ける」
一言で言えば、“録音”なのだが、そう言ったって伝わらないだろう。
「本当にそんなことが可能なのか?」
「はい……聞いて、ください」
右手を構え、音魔法を使った。
『……いて……らうとは? 再現をすると言う意味かね?』
『……“音魔法”が使えます。これで、その時の会話…ここで聴ける』
『本当にそんなことが可能なのか!?』
『はい……聞いて、くだ……い……』
これはついさっきの、俺と裁判長の会話だ。
どうも、始めと終わりの録音が荒い。道具なしでやれてるから文句は無いが。
それに、音魔法の証明としては十分だろう。法廷の全員が驚愕している。
「証明……出来た。じゃあ、聞いてください」
そう言い、俺はあの時の会話を再生した。
『……こ……の森……を出て私と一緒に暮らさない?』
『ぇ……!?』
『私はあなたを放っておけないの。でもそれは命を救われたからってことではないわ。あなた自身にそう感じているの』
『……ぇ……な……んで?』
『ぁ……そうね……嫌だったら無理にとは言わないから大丈夫よ』
『行く……連れてって』
『ありがとう……ありがとう! 本当にありが……う……!』
一応念のため、テイルのくだりは抜いておいた。
「どう……? ……無理矢理じゃ、無いです」
「あ、ああ……」
裁判長は、それには納得したようだ。
だが、俺が警戒しているのは原告側の3人。
「ちょっと待ちなさい! あなたが合意したのは分かった! だけどその2人はあなたを利用しようとしたのよ!?」
声のする方向を向くと、原告側の席に座っていた3人が椅子を倒して立ち上がっていた。
「そんな奴らにこれからもついて行く必要は無いでしょう!? 私はあなたのためを思って、こんな面倒な事をしてあげてるのよ!?」
「横の2人は知らんが、私は君のためを思っているのだぞ!」
「お2人共どうかお静かに。私は民のため、そしてカイト氏のためにここへ来たのです」
まだ俺に喧嘩を売るつもりみたいだ。ならそれに応えてやらないと。
「……そう」
その3人を睨み、音魔法を使った。
『……そ……の孤児は、見たこともない魔法が使えるかもしれないんでしょ? なら、わたくしが特別に引き取ってあげましょう。新たな権力を持つために大いに役立ってもらい……ましょ……』
聞こえて来たのは伯爵夫人の声だ。
その内容は、俺の事を権力を持つために、利用しようと言うものだった。
「なっ!? ちょ、ちょっと! 止めなさい!」
伯爵夫人は焦った様子で要求してきた。
「……」
無視してそのまま流し続ける。次の音声を流す。
『……そ……の孤児には、我が隊に入隊してもらうとしよう……あの憎き1番隊の若造達を見返せるはずだ。なに? ハッ、所詮子供だろう? おだてればいい気になって言う事を聞く……だ……ろ』
『……の……10段階のガキ……上手く利用すればたっぷりと稼ぐ事が出来るぞ。ククク、神の御使いだの、神の友人だの適当に騒げば、馬鹿な信者はどんどん貢ぐ事だろ……う……よ』
聞こえて来たのは2番隊の男と聖職者の男の声だ。
これらはこの1週間の間、こいつらの家に張り込みをして録音したものなのだ。
全員見事な程のクズっぷりで、わざわざ特定して録音した甲斐があった。
「……聞きました、ね?」
3人はわなわなと震えている。そして、声を荒げた。
「ま、待て! これは何かの間違いだ! こんなふざけた魔法、あるはずがない!」
「そ、そうよ! 何かの細工があるはずよ!」
「私は神官ですよ!? あの様な事言うはずがないですし、音魔法だなんて聞いた事がありません!」
……そろそろいい加減にしてほしい。
俺は怒りを込めて3人を睨みつけ、言った。
「こんな魔法使えるから、お前ら欲しがった」
3人は図星を突かれたような顔をした。だが、まだ終わりでは無い。
「それと……こんな物、見つけました」
俺が手を横に振ると、全員の手元に紙が3枚出現した。
収納部屋から出しただけだが、エアリスさんとグレイスさんを除いた全員はとても驚いている。
「それ……読んでみて、ください」
俺に言われるがまま全員が読み始めた。
すると裁判官全員と原告の3人の顔が青ざめて行く。
その時、グレイスさんが声をあげた。
「ま、まさか裁判官全員を買収していたのか!?」
その通りだ。
その紙はその3人が、それぞれこの裁判担当の裁判官全員に宛てた賄賂の手紙だ。
金額はどれも高額らしい。
「調べてみたら……3人とも同じ事、考えてた。こんな裁判、続ける必要……ない」
俺は笑顔で3人の方を向く。多分周りから見たら悪い笑顔してたと思う。
「だから……衛兵に同じの、渡しました」
「なっ……!?」
「そんな……!」
「……!」
裁判官を含め、全員絶望を感じさせる表情になっている。
……ざまー。
心の中でそう思い、2人の前まで移動した。
「エアリスさん、グレイスさん……ごめんなさい」
2人はあっけにとられている。急に喋り始めたから驚いているのか?
「た、助かったよカイト君。ありがとう」
「カ、カイト君...ありがとう。とても格好良かったわよ」
2人の様子を見て安心した。急に拒絶される事は無さそうだ。
「カイト君、君は……」
「……今は帰りま……」
俺の声に被せる様に、どこからか拍手が聞こえて来た。聞こえて来た方向は扉の向こう側だ。
「……?」
すると、その扉から1人での若い男性が入って来た。
金髪で、随分と豪華な服を着ていて、イヤリングや首飾りなどの装飾品も目立つ。
だが、割と戦闘に向いた服装な気がした。背には大きな大剣を背負っている。
その男性はニコニコしながら話しかけて来た。
「いやー素晴らしい! 感服しましたよ!」
……いや、誰だよお前。
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