第28話 良い時間は続かない



 今日もエアリスさんと手を繋いで、街へ出る。


 今朝ステータスを確認したらなんと、恐怖耐性が“Lv4”に上がっていた。

 こうなれば、もはや街中にいても感じるのは『いつ襲われるか分からない』程度の恐怖心だ。


 勝った。


 昨日と同じように街を散策する。昨日と同じ喫茶店にも入った。



 数時間の散策を経て、今は帰宅している最中だ。

 今日は時間が過ぎるのを、かなり早く感じた。それだけ楽しかった証拠だ。


 帰り道の途中、ふと大きな建物が目に留まった。


「教会が気になるの?」


 そう、教会だ。そしてこの世界の神様といえば……。


「テイル……ぁ、様って……いる?」


 あっぶね。いくら友達でも一般的には神様なんだから、人前では様つけた方がいいよね。


「そうね……教会の中には居ないけれど、テイル様の神像があるわよ」


 彼女はそのまま、教会について教えてくれた。


「教会は神様の特別なお力が宿っているって言われてるわ。だから、そのお力を借りて色々なことが出来るのよ」

「へぇ……」


 流石にこの中に居ないのは分かるけど、言い方が悪かったな。となると、やはりテイルの神像を見てみたい。


「……入ってみる?」

「……いいの?」

「もちろんよ」


 教会へ入ると、お祈りをしている人が結構居た。

 そこに、シスターのような女性が話しかけて来る。いや、れっきとしたシスターか。初めて見た。


「ようこそいらっしゃいました」

「この子、教会は今日が初めてなんです。よければ御加護の確認をしてあげてください」

「分かりました。それではこちらへ」


 そう言われて奥へ案内される。


 さっきなんて言った? 御加護?


 エアリスさんに聞こうとしたが、その前にシスターが説明を始めた。


「御加護とは、数多の神々からお受けする特別な御力のことです。神々に気に入られた者や、善行を積んだ者がそのお声をお聞きする際、神聖な神力に当てられることで御加護をお受けすることができます。なお、その御加護の内容は人によって別々の物となります」


 なるほど……要するに、神の声を聞けば加護が受けられるんだね。


 一番奥の部屋に入ると、そこには大きな水晶と、“聖職者”のイメージに合う格好の男性がいた。


 その背後には大きな神像がいくつもある。


 その中には見覚えのある男性……テイルの像もあった。

 ただ……なんか、キリッとしている。実物のイメージとはほど遠い。


 今度は男性が説明を始めた。


「この水晶に触れていただくと、御加護を受けていた場合に、まずその御加護を授けてくださった神様の神像へと光が照らされます。そして数秒後にその御加護の段階を判断するために、その段階に応じた光量が発せられます」

「段階?」


 何のこと? 段階って。


 すると、今度はエアリスさんが説明をしてくれた。


「段階って言うのはね。言わば“御加護のランクを10分割したものよ。例えば、私だとテイル様から『お告げ』という形で御加護を授かったわ。この場合だと、テイル様の“御声”を聞いただけだから4段階の御加護ね。それで、想像魔法みたいな難しい魔法を習得できるのよ」


 なるほど。つまりランクって事ね。


 だとすると、俺はどうなるの? 確実に加護持ちだけど、何段階になるんだろう。


 そんな事を考えながら、水晶に触れた。すると光線が放たれ、テイルの神像に当てられる。

 ここまでは予想通りだ。


「すごいカイト君! テイル様の御加護を持ってたのね!」


 手を繋いだまま、喜ぶ彼女の姿が視界の端に映った。



 しかし、次の瞬間だった。



 辺りが真っ白になり何も見えなくなった。

 光に包まれたのだ。その光はしばらくほど続き、静かに消えていく。

 その後には、粉々になった水晶が残されていた。


 ……あ、やらかした。


 その予感はシスターの言葉で、的中している事を知った。


「こ、こんな光量は初めて見ました...! これは、10段階……いえ、それ以上です!」


 ゆっくりとエアリスさんを見ると、目が点になって固まってしまっている。


「エ……エアリスさん?」


 呼びかけ、ようやく反応した。


「ぁ……ご、ごめんなさい。カイト君、すぐに帰りましょう」


 そう言って俺の手を引くが……。


「お待ちを」


 この部屋にいた神官の男性に、後ろから両肩を掴まれてしまった。


「ひっ...!?」


 突然の事で、油断していた。


 また人恐怖症の恐怖を感じる。男性は何か言っているが、恐怖のせいで耳に届かない。


「は、離してください!」


 エアリスさんが俺を抱き上げる。そのまま彼女は俺を強く抱きしめた。


「今日はもう帰ります! 失礼します!」

「お待ちを、エアリス様」

「っ!?」


 え!? なんでバレてるの!?


「ど、どうしてそれを?」

「先程、その御子があなたを“エアリスさん”と呼んでおられました。あなたはここの領主のエアリス・グローラット様ですね?」


 俺が名前を出したから、所在がバレたのか。


「その御子はどちら様で? ……いえ、それより、それ程の御加護をお持ちの方は是非教会へ、神官として民の希望となっていただきたく」

「...っ!」


 男性は笑顔でそう言っているが、目が笑っていない。

 要するに俺の身柄をよこせと言うことだ。


「すみません! 今日は帰ります!」


 エアリスさんはそう叫んで教会を飛び出した。そのまま彼女は、領主邸へ一直線に走る。


 帰宅するなり、彼女に泣いて謝られた。


「な、なんで……謝る……?」

「私の勝手な判断で、カイト君の力が知られてしまったの。本当にごめんなさい……」

「……知られると、どうなる?」

「……御加護を持っている人は低い段階でも、普通の人より優れた能力を持っている事が多いから、すぐに国へ連絡が入るの」


 それは、まずいな……。


「それでね……中にはその能力を欲しがる人達もいるの……あなたは10段階以上の御加護を持っていることが知られてしまった。そうなったら……きっと沢山の人達があなたを欲しがるのよ……本当にごめんね……」


 まぁ、そんな気はした。でも、彼女は悪くない。


 彼女は俺の能力を、“兵器研究”による物だと思っていたのだろう。

 だから、俺が教会に向けた好奇心を満たそうと、加護の確認を勧めてくれたのだ。


 となると、この事態は俺のついた嘘が原因か。自業自得ってやつだね……。



 それから数日後、エアリスさんの言う通りになった。


 教会の聖職者への勧誘、軍への徴兵を意味する連絡、そして、挙げ句の果てには、ある伯爵家から俺を引き渡すよう要求が来たと言う。


 教会へはグレイスさんが緘口令を出したが、権力とは無縁の教会はこれを無視したらしい。

 届いた全ての要求は、エアリスさんとグレイスさんが全て断ったとのことだ。


 その間、俺はまた部屋に引きこもっていた。外に出たら面倒臭いことになるかもしれないからだ。



 だが、ついに恐れていたことが起きた。



 朝から、門の前に衛兵が十数人押し寄せてきたのだ。

 そして、1番前にいた衛兵が紙を広げ、大声でその内容を読み始めた。


「グローラット領、領主、グレイス・グローラット! 並びにその妻、エアリス・グローラット! お前達には孤児を誘拐した疑いがかけられている!」


 衛兵が読み上げた物は、グレイスさんとエアリスさんの罪状だった。

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