第25話 ポーションを渡す理由

ーsideカイト


 ティカさんにポーションを渡して少し経った。

 新しいポーションの配合を研究していると、今度はエアリスさんが部屋に入って来た。


 急いで鉢と薬草を収納部屋に入れる。

 寝室でこんなことをしていると知られれば、不快に思われるかもしれない。


「カイト君、今いいかしら?」


 振り向き、目を見て頷くと、彼女はゆっくりとこちらに近づいてきて椅子に座った。


 何やら、ただならぬ雰囲気を感じる……。


「カイト君、まずはティカの怪我を治してくれて本当にありがとう」

「……うん」


 エアリスさんもお礼を言うなんて、そんなに酷い怪我だったのかな?

 というか、『まずは』ってことはこれから本題?


「それでね、その時に他にもポーションをくれたでしょ?」

「うん」

「どうしてあのポーションをくれたのかなって……聞きにきたの。でも、答えたくなかったら答えなくてもいいからね」

「……へ?」


 やばいな。もしかして関節痛以外は欠陥品だった? それとも怪しまれてる?


 いくらなんでも、暇潰ししてたら完成した物の後処理を押し付けた、なんて言えるわけがないし……?


 ど、どうしよ!? 本当に言い訳が思いつかない!!


「答えたくないかな……?」


 オロオロしていると、エアリスさんが心配そうに覗き込んできた。


 ……何とかしてそれっぽく答えよう。 暇潰しだけは隠すけど。

 『なぜポーションを渡したのか』か。


 考えた結果、この様にまとめられた。


 『せっかく作ったのに捨てるのは嫌だし、他の人の役に立つのならば、そっちの手元に置いといて欲しいから渡した』


 よし、これを伝えよう。


「捨てるの……嫌だ……役に立つ……置いといて」


 しかし、片言では部分的にしか伝えられない。


 ……ずっと思っていたけど、なんでこんなに喋れないの? 

 人前では恐怖やら緊張やらで、上手く喋られなくなる。人恐怖症のスキルの効果……。


「そっか……やっぱり……」


 1人で自問自答していると、彼女の呟きが聞こえた。


 やっぱりって何が? まさか、今ので伝わったの?


 すると、エアリスさんに突然抱きしめられる。彼女の目には涙が浮かんでいた気がした。


「えっなに……」

「カイト君、何も不安になることは無いの。大人の人達は怖いかもしれないけれど、皆んな優しい人達よ。だからお願い。何も心配しないで。何か不安なことがあったら私に教えて」


 ……えっあっ……え?


 ちょっと待って。状況が掴めない。何がどうなってこの状況に?


「不安にさせてごめんね……」


 え、えっと……不安、か……。


 最近の不安といえば、暇潰しがなくなる事ぐらいだしなぁ……人に対する恐怖も一応不安だが、これはどうしようもないし……。


 でも、とりあえず何か言わないと、この状況は終わりそうにない。一応不安に思っていることを言っとこう。


「あの、エアリスさん……」

「なに? カイト君」


 体を離して彼女を見て話す。


「これからも……いっぱい、作る。だから……貰って、欲しい」

「も、もちろんよ……でも、そんなに気を背負わなくてもいいのよ……?」


 気を背負うって、そんなつもりはなかったけど……

 とにかく、これで作ったポーションを引き取ってもらう言質はとった。


 だが、渡したポーションの数が多くなりすぎたら、捨てられてしまうかもしれない。

 それはちょっと嫌なので、それも伝えておこう。


「だから……捨てないで……」


 そう言った瞬間、エアリスさんの表情が一瞬で暗くなった。と思えば、今度は突然抱きしめてくる。


「絶対にそんな事しない! だから、そんな事言わないで!?」


お、おう……え? ポーションにそこまで?


「わ、分かった……」

「……っ……」


 なんか、様子がおかしいな。


「……どうしたの?」

「……ごめんね……それじゃあ……ちょっと早いけどご飯にしましょうか……待っててね……」


 そう言って部屋から出て行った彼女は、どこか寂しげだった。



ーsideエアリス


 カイト君のいる寝室から仕事部屋に移動すると、そこにはティカが待っていた。


「エアリス様、どうでしたか?」


 声をかけられたと同時に、必死に堪えていた涙が溢れでてしまった。


「っ!? ど、どうなされました!?」

「ああ、ティカ……あなたの言う通りだったわ」


 彼女に彼との会話の内容を話した。


「『これからもいっぱい作るからもらって欲しい、だから捨てないで』……カイト様はそうおっしゃられたのですね?」


 黙ってうなずく。


 あの発言は、彼が『捨てられてしまう』と言う不安を抱いている証拠だ。

 彼にそんな心配はない事を伝えようとしたが、伝わらなかったから彼はあんな事を言ったのだ。


「やはり……」


 ティカはそう呟くと考え込んでしまった。


 彼女は自分の子供はいないが、私が幼い頃から世話をしてくれていた。子供の世話をした事のない私よりかは、子供に対する知識があるはず。

 カイト君の場合は例外中の例外だが、もはや彼女に頼るしか無い。


 しばらく考え込んでいた彼女は、ゆっくりと顔を上げた。


「すべき事は1つです。不安を取り除き心を開いてもらうしかありません」


 やっぱり…それしか無いのね……。


「でも……どうすればいいの……?」

「今まで……と言っても数日ですが、私達はカイト様に心を開いていただけるよう色々なものをお渡ししました」


 例として、同じ年齢層に人気のある玩具を渡した。しかし、彼は興味を示す事は無かった。


「ですから、こちらから何かをするのではなく、カイト様がお求めになられることをしましょう。そうすれば、きっとカイト様も心を開いてくださるはずです」

「……確かにその通りね」


 こちらの勝手な判断で物を与えてもそれに興味がなかったらなんの意味もない。


「分かったわ。夕食の時あの子に聞いてみるわね」

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