第18話 馬車に乗ると襲われる

「なんだ? あのガキ」


 盗賊の男達は、俺のことをじろじろ見てくる。だが、そんな事どうでもいい。


 奴らが動き出す前に魔術を撃たないと。

 そうだな、まずは“炎魔術 Lv3”を試してみよう。


 右手を前にかざして男達に向けると、各賊達の足元に魔術陣が出現した。


「あ? なんだこ……」



 魔術陣から火柱が勢いよく上がった。



 異様な光景だ。男達の人数分の火柱が上がっている。


 悲鳴が所々から聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。火柱が消えた魔法陣の上には、真っ黒な何かが転がっている。


 ……あれ? もしかして全滅?


 呆気にとられながら、辺りを見渡す。しかし、起き上がる者はいない。

 どうやら、本当に全滅した様だ。


 えー……結構あっけない……。


 グレイスさん達はその様子をありえないものを見たような目で見ている。


 正直、俺もそう思ってる。こんなに圧倒的なのか……。

 あっでも、俺が撃った魔術なのに、俺が驚いてたらおかしいよな……。


 ポ……ポーカーフェイス……。


 無表情を保ちながら黒い塊を眺める。その時ふと思った。


 ……初めて人を殺したけど、特に何も感じなかったな。きっと、長い森生活で命のやり取りに慣れていたからだろう。

 『殺られる前に殺る』……常識だね。



 Lv3でここまで、圧倒的なのか。じゃあLv5はどうなるんだよ……。


「カ、カイト君……た、助かったよ。ありがとう」

「……うん」


 グレイスさんにお礼を言われた、その時だった。


「クソがぁぁ!」


 突然、男の怒声が響く。声のした方向を素早く確認すると、両手に大きな斧を持った大男が立っていた。


 ……見た感じ、あれが盗賊団のリーダーかな?

 あれ? でもさっき、道にいた盗賊の全員に魔術を撃ったはず……

 え、まさか茂みの後ろに隠れてたの?


「まさかとは思っていたが……その双斧……やはり双斧盗賊団だな!?」


 グレイスさんが怒声をあげた。


 え? あれって有名なの?

 『双斧盗賊団』……? 言われてみれば、倒した奴らは斧を使ってる人が多かった気がする……。

 でも、斧をたくさん使ってて、リーダーみたいな奴が双斧使ってるからって、双斧盗賊団? ……安直すぎない?


「グレイス様、奴はAランク犯罪者ゲイル……危険です。私とルイスで足止めをしますので、そのうちに動ける者達で逃げてください」


 クリスさんとルイスさんが前へ出る。


 かっこいい……いや、今はそれどころじゃない。


 足止めするから逃げろって……“Aランク”ってそんなにやばいの?

 なにを基準にしたかは知らないけど。別に、足止めなんてしなくても俺が……。


「お前達……分かった。絶対に死ぬなよ」


 え、俺が戦うのはダメなの? というか、俺が戦う流れじゃないの?


「動ける者は怪我人に手を貸してやれ! ここから離れるぞ! カイト君、馬車に乗るんだ!」


 グレイスさんはそう指示して、怪我人の元へと走って行った。


 しかし、盗賊団長はそうさせたくない様だ。


「逃がすわけねぇだろ! ここで全員ぶっ殺してやるからな! 特にさっきの魔術撃った奴は何がなんでも殺してやる!」


 あ、俺?


「おい。貴様」


 ルイスさんが盗賊団長を睨みつけた。


「何故貴様はこんな所にいた? ここは商人も町行きの馬車すら通らない細道だ。貴様らがここにいても利点はないだろう」


 確かに、その通りだ。 ここは俺のいた森に続いているほとんど機能していない道。

 この先が領地でも森から商人が来るわけがない。だからそれを狙う盗賊も、ここにいる利点は無いはずだ。


 だが、どうもそうでもない様だ。


「頭のわりぃ奴だな! そんなのあの女貴族を狙ってに決まってんだろ!」

「っ!」


 女貴族……もしかして、エアリスさんのことか?


「貴様……まさか」

「ハッ! そうだよ、その女を攫ったのは俺達だ! だが逃げちまったからここらを探してたら、斥候からテメェらの情報が入ったんだよ!」


 なるほど……エアリスさんが言ってた盗賊って、コイツらだったのか。


「その女を取り返しに来たらこのザマだ! あの女が逃げたせいでな!」


 逃げたせいって……そんな訳ないだろ。


「あのクソ女が……女として生まれてきた事を後悔させてやるからなぁ!!」

「クズが……」


 クリスさんと同意見だ。身勝手にも程がある。


「炎魔術 火球!」


 ルイスさんが左手を突き出し、叫んだ。

 すると、左手から火の玉がゲイル向けて放たれ、ゲイルの腹部に直撃する。


「ぐぁっ!」


 よろめいた所に、クリスさんがすかさず追撃を加える。


 剣は首にまっすぐ入った……ように見えた。


「……くくくっ、効かねえなぁ!」

「……なっ!?」


 なんと盗賊団長は、その剣を直接首で受け止めた。


「っ!?」


 彼らはゲイルから距離をとった。


「ハッ! そんなヘナチョコ効くわけねぇだろ!」


 ゲイルは首に剣を受けたのに元気そうだ。


「まさか……魔力障壁か!?」


 魔力障壁? なにそれ?


「その通り、テメェらの攻撃なんざ痛くも痒くもねぇよ!」

「くっ……」


 もしかしてこれ、やばいんじゃないか?

 あの2人も弱くはないだろうけど、攻撃が効かないんじゃ意味がない。


 そこに、怪我人に応急処置をし終えたグレイスさんが来た。


「カイト君! 何をしているんだ、早く馬車に……」

「待って……見て」


 彼はの指差す方向へ目を向けた。

 そこには、押され始めているクリスさんとルイスさんの姿。


 盗賊団長の双斧を紙一重で避けている。しかし、反撃はできていないようだ。


 ゲイルは俺の身長ほどある大きな斧を、両手に1本ずつ持って振り回している。


「くそ、あの2人ですら敵わないのか……」


 激しく金属同士がぶつかる音が響き、クリスさんがこちらへ吹っ飛んできた。

 右手に握られた剣は、根元から無くなっている。


「クリス! 大丈夫か!?」


 すぐさまグレイスさんが彼を起こす。


「す……みません、足止めは限界です……」

「兄さん! 無事か!」


 ルイスさんも離脱して駆けつけた。


「おいおい、なんだよ弱すぎねぇかコイツらよ!」


 ゲイルが見下すように笑い、近づいてくる。


 クリスさんは口から血を流し、腕は曲がってはいけない方へ曲がってしまっている。

 斧を剣で受けた時に、腕の骨も折ってしまったようだ。


 もうこれ以上は戦えないな。


 俺は3人の前へ出て、勝ち誇っている盗賊団長へ立ちはだかった。

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