第14話 予想外の展開


 

 エアリスさんのおかげで見れた明晰夢。

 そのおかげで、読み損ねたラノベの続きを読るむことができて最高の気分だ。


 とりあえずもう満足はした。そろそろ起きてもいいかな……。

 でも、どうするんだ? 声に出せばいいのか?


「お、起きたい」


 すると次の瞬間、見慣れた天井がうっすらと見えてきた。


「ぅ……ん? ……あ、起きれた……ん?」


 右手が妙に暖かい。何かと思い、目を向ける。


「うわっ!?」


 そこにいたのはエアリスさん。

 俺の右手に両手を添えた状態で、ベットに伏せて眠っていた。


 ……え?どういう状況? ……とりあえず、昨日俺が寝た後に何かあったな。


「ん……ぁ……カイト君、起きたの?」


俺の声を聞いて目を覚ましたようだ。


「あ、ごめんなさいね。これじゃ起きられないわね」


 エアリスさんは俺の手から手を離したが、なにやら気まずそうな雰囲気だ。


 きっと、手を握って寝てしまっていたことがバレてしまったことを、気にしているのだろう。


 何があったのかはしらないけど、そこまで気にしなくていいと思う……。

 そうだな……とりあえず夢のお礼を言おう。


「あの、夢……」

「ゆ……夢……?」


 するとなぜか、エアリスさんがびくりと震えた。


 な、なんだ? ……まぁいいか。


「いい夢……だった。ありがとう」


 微笑んで感謝する。

 しかし、それに対してエアリスさんの目からは涙が溢れ出した。片手で口を押さえボロボロと泣いている。


「ど、どうし……!?」

「……ご、ごめんなさい……なんでもないわ」

「……?」


 エアリスさんのおかしな反応に首を傾げながらも、俺は朝食の準備に取り掛かるためにベッドから降りた。




「カイト君。君に話がある」


 朝食を食べている時、グレイスさんに持ちかけられた。

 突然の事に、びくりと震える。


「な……なに……?」

「ああいや、心配しなくていいよ。少し頼み事があるだけなんだ」


 な、なんだ……びっくりした。


「実はだな。エアリスを領地まで連れて行く際、また賊に襲われないとも言い切れない。だから周辺を調査している間、エアリスをもう2日ほどここに匿ってくれないだろうか? ……頼む」


 なるほど、まぁ要するに今まで通りの生活をあと2日続ければいいんだろ?それくらいなら別に構わない。


「うん……分かった」

「ありがとう。恩にきるよ」



 朝食をとった後、グレイスさんと護衛の3人は、馬車を駐めているという場所へ向かった。

 森に入る時少し警戒していたので、もしまた罠に掛かっても、魔力付与は解いておいたから大丈夫と伝える。

 それを聞き、3人はホッとして森に入って行った。



 また2人きりになったものの、特に何事もなく時間は過ぎていった。


しかし、夕食を食べている時、何故かエアリスさんは難しい表情をしていた。

 それに、チラチラと俺を見ては小さくため息を繰り返している。


 何か言いたいことがあるのかな?


「エアリスさん……何?」

「ぁ……ごめんね。なんでもないわ」


 彼女は何か悩むような表情を見せたと思ったら、首を振ってこちらに体を向けた。


「いいえ、……カイト君に話したいことがあるの」


 話したいこと?これまでのお礼だろうか?


 それを聞き出そうと、彼女へ体を近づける。


「なに……?」

「……っ」


 聞き返すとエアリスさんは気まずそうにして目をそらしてしまう。


 なに? 俺なにかした?


 すると彼女は、覚悟を決めたような様子で話しを切り出した。


「カイト君。こんなこと言ってもすぐには受け入れられないと思うけど……」

「え……な、なに……」


 な、なんかヤバそう……。


「この森を出て、私と一緒に暮らさない?」

「ぇ……!?」


 予想外の言葉だった。


 てっきり魔術とか魔法を教えてくれとか言われるのかと思った……。


「ぇ……で、でも……迷惑……」

「そんな事はないわ。私もグレイスも家の皆だって、絶対にあなたを受け入れてくれるわ」

「……」


 俺は黙り込んでしまう。

 なんせ、こんな事を言われたのは人生で当然初めてだからだ。

 どう反応すればいいのか分からない。


「でも……あの……」

「私はあなたを放っておけないの。でもそれは命を救われた事への恩返しがしたいって理由だけじゃないわ。あなた自身にそう思っているの」

「……ぇ……な……んで?」

「……私はあなたの事を、何よりも大切に思っているからよ」


 驚きと同時に不思議でならなかった。

 何故まだ出会って数日の俺を、そこまで想っていると言い切れるのか。

 いや、もしかすると俺の力を利用したいがための嘘かもしれない。

 ……だが、エアリスさんがそんなことをするとは思えない。


 理由を……聞いてみよう……。


「な、んで…………僕の事を?」


なんせおかしいだろう。

『領主の妻が孤児を保護した』なんて噂が広まったら、きっとそこら中から保護を求めて押し寄せてくる人が出るだろうから。


そんなことになれば必ず問題が生まれるはず。


そう疑問に思っていると、エアリスさんは少し悲しそうな笑みを浮かべた。


「……少し長くなるけどいいかな?」

「……う、うん」


 許諾すると、彼女は悲しそうな表情のまま話し始めた。


「……9年前にね、私は1人の子供を授かったの」

「……?」


 予想していなかった話の内容に、困惑する。

 そんな俺に、彼女は話し続けた。


「ずっと……ずっと待ち続けてた私は、とても喜んだわ。グレイスもそうよ」

「……う、うん」

「でもね……それは長くは続かなかったわ」


 話している彼女の目に涙が浮かぶ。


「その子を……私は、お腹の中で死なせてしまったの」

「……え!?」

「理由は分からなかった……それに、それから私のお腹もダメになってしまって……」


 エアリスさんにそんな過去が……


「……」


 9年前……ということは、俺(体)の年齢と同じくらいか。

 この話からすると、俺をその子に重ねて見ているのだろうかな?


 だが、彼女の話は終わらなかった。


「そしたらね? その子が亡くなった夜に、神様からお告げがあったの」

「……神様?」

「えぇ、生命神テイル様よ」


 ……え? テイル?


 突然、友人の名を聞き驚いた。


「な、んて……言われた?」


 恐る恐る聞いてみた。テイルが何か余計な事を言ったのかもしれない。


「えぇ、テイル様はこうおっしゃったわ。『お主の子の魂を転生させた。数年後に森の中で出会うだろう』って」

「……」


 驚きすぎて言葉が出なかった。


「だからね、あなたを森で初めて見たとき思ったの。“お告げの通りだ”って」


 混乱する。


「だからね……あなたは、テイル様が転生させた私の子だと思うの。だから……」

「ぁ……ぅ……」


 なんで、テイルはそんな事を?


 なにを考えても頭は回らなかった。訳が分からなくなり、ここから逃げ出したい衝動に駆られる。


「...ちょっと...考え...」


 そう言い残し家から飛び出した。

 その時エアリスさんが何か言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。

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