第15話 決断した
いつのまにか夜になっていた。
満天の星空、綺麗な天の川、そして2つある月のような星が、5年経った今でも異世界にいる事を実感させる。
そよそよと、暖かい風と虫の鳴き声が心地いい。そこから見下ろすと森、我が家、湖と滝が一望できる。
今いるのは滝がある岩山の頂上。ここからの景色はとても好きなので、たまに眺めにくるのだ。
岩山の斜面はかなり急だが、身体強化をかければなんてことはない。
……エアリスさんの話をまとめてみよう。
彼女が受けたテイルの“お告げ”は確か……『お主の子の魂を転生させた。数年後に森の中で出会うだろう』だったっけ。
……テイル! そんな勘違いするような言い方ダメだろ!
あと、キャラ作ってんじゃねぇか!! そんな話し方してなかったじゃん!!
……俺は別の世界から来たんだから、エアリスさんの子の転生した魂とかじゃない。エアリスさんに失礼だ。
ここまで考えてテイルと出会った時、彼が話していた内容が頭によぎった。
『あぁ、君の本来の次の生はある貴族の子として生まれ、愛されて幸せに暮らす、というものだ。だが……』
「……!」
この『貴族の子として生まれ……』の“貴族”とは、もしかしてエアリスさんのいるグローラット家のこと?
エアリスさんが優しいことは分かっている。
なら、もしグローラット家の子として産まれていれば、テイルの言う通り大事にしてもらえたんじゃないかな?
……テイル。随分と手の込んだ事をしたね。
「だけど……あの時は誰とも会わない人生をって言ったよなぁ……」
頭上に浮かぶ月を眺めながらそう呟く。
彼は元々、俺がどこかの子として生まれることを考えていた。
だが、俺は人と関わらない人生を選んだ。
もし“お告げ”が、彼が俺をグローラット家に保護させようとして行ったことであるならば、それは俺の願いを無視したということになる。
生活が困っているとかなら、助け舟と言う意味で分かるが、特にそういうわけでもない。
だけど……。
「テイル……そんな意味なく無視するような人じゃないよね?」
彼が俺に嫌な思いをさせるために、そんな事をするとは到底思えない。
きっと、何か意味があるはずだ。
「……テイル。きっと考えがあるんだね」
まだ全ては分からないが、友達が自分のために考えて行動してくれたのかも知れないのだ。それを無下になんてしたくない。
1度エアリスさんのお世話になろう。と言っても、確定ではない。
何かトラブルとかあれば、またここに帰ってくるつもりだ。
その判断は、その時に決めればいい。
俺はしばらく景色を眺めた後、岩山をゆっくり下って家へ帰った。
扉を開くと、不安げな表情のエアリスさんがの姿が見えた。
「……あ、カイト君!」
彼女は俺を見ると、安堵した表情になり駆け寄って来る。そして、膝立ちをして目線を合わせてきた。
「ごめんね、本当にごめんね。いきなりあんなこと言われても、困っちゃうよね」
ホッとしたのかと思ったのもつかの間、泣きそうな表情で謝罪して来た。
「だ、大丈夫……少し驚いただけ……」
「そう……良かった……」
……話すのなら、今だろう。
「あの、さっきの話……」
「ぁ……そうね……嫌だったら、無理にとは言わないわ。……大丈夫よ」
どうやら、彼女は俺が断ると思っているらしい。
「ううん、行く……連れてって」
彼女は俺の答えを聞き、ぽかんとした表情を見せる。だが、すぐに嬉しそうな表情になり、俺の手を取ってきた。
「ありがとう……ありがとう! 本当にありがとう!」
お礼を言いながらも、涙を流している。嬉し泣きだろうか。
「……」
喜ぶエアリスさんだが、俺は正直不安しかなかった。
力のあるものが利用されるというのは、ラノベで良くある話だった。
その利用する人は大体が権力者。そして、これからお世話になるのは貴族。
いくらエアリスさんが良い人でも、不安を覚えずにはいられない。
そんな俺の不安を感じ取ったのか、エアリスさんが優しく話しかけてきた。
「カイト君。私はね、あなたを本当の息子くらい大切に思っているの。私の家の人達も皆同じよ」
「……うん」
「だから、安心して。誰もあなたに酷い事なんてしないわ」
その言葉を聞き、少しだけ気が楽になった。
今は、この言葉を信じてみよう。
翌日
領地で同居させてもらうことに決まったので、この日はこの世界のことを質問してみた。
この世界で確認されている大陸“スモコ大陸”と言うそうだ。
とてつもなく広い大陸で、具体的な広さは分からないと言う。
そしてこの大陸に、数十もの国があるらしい。
人間の国、異種族と呼ばれる者達の国、そして魔族の国だ。
この中でも、異種族の国が1番多いらしい。
“異種族”と言う言葉で一括りにしているだけで、実際はエルフや獣人など、様々なファンタジーな種族がそれぞれの国を持っているそうだ。
“魔族”。この種族は人間や異種族に比べると数は少ない。しかし、異常なまでに好戦的で自分たちの国の中でしょっちゅう戦争を起こす程らしい。
個々の実力も異常。魔術や魔法は当然のように使いこなし、単純な腕力だけでも人間の十数倍だそうだ。
人間と異種族は魔族に滅ぼされかけた過去がある。生き延びた者達が遠く離れた地に国を作り、発展していったそうだ。
俺が住んでいる森があるのは“ラカラムス王国”。
最近、革命があったそうだ。
そしてなんと、この国は存在する人族、異種族の国の中で、最も魔族の国に距離が近いらしい。
その中でもグローラット領は最前線。
つまり“最も魔族の国に近い国の中で最も魔族の国に近い領地”ということだ。
……ややこしい。
しかし、近いと言っても、馬車で数年というとんでもない距離らしい。
魔族関連で何かあった時、すぐ対応できるよう策が講じられているとの事。
そのため、グローラット領には国内最大のハンター協会、すぐ隣には王都があり王国騎士団もすぐに駆けつけられるのだという。
結構、責任ある人達の家に行くのか……。
さっきも考えたが、俺がここに帰りたくなるようなトラブルが起きないことを願おう。
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