第11話 聞いてた話と違う
エアリスさん達に俺の(でっち上げた)素性を話し、数十分経った。
今は全員分の食事の用意をしている。
今朝獲れた猪だけでは物足りないと、収納部屋から色々な食材を取り出した。
すると、たとえ知られていても人前では少しは自重したほうがいいと注意されてしまった。
調理はエアリスさんも手伝ってくれた。
食事の時、俺だけ別の部屋で食べようと思ったが、エアリスさんが近くにいると不思議と人恐怖症が発症せず、とても安心するという事を改めて認識した。
……なんで?
確かに、エアリスさんはこの中で1番長く一緒にいるから、慣れて恐怖心が無くなることは納得できる。
だが、なぜ安心するのか。それは“慣れた”というだけでは説明がつかないんじゃないか?
食事を用意している間そんなことを考えていたが、結局結論は出なかった。
全員分の食事が完成した後、物体加工で作った大きなテーブルを囲んで食べる。
この時に、気になる事をいくつか質問してみた。
まず1つ目。
魔力や魔術、スキルの“レベルの基準“を聞いてみた。
この世界の魔術と魔法の平均はLv1で、Lv2に上がればそれだけでかなりの地位を手に入れられるらしい。
……この時点で、テイルから聞いていた話と全く全然違う。
“Lv”はいわゆる熟練度のようなもので、どれほど魔術や魔法をものにできるかで“Lv”が変わるとのことだ。
レベル(熟練度)が上がれば魔術なら威力が、魔法なら効果が上がるとのことだ。
だが、それには本人の魔力値が関係してくる。
何故Lv1からLv2へ上がるだけでが難しいのか聞いたところ、このように説明してくれた。
まずLv1を数字の“10”と仮定する。
そして他のレベルを表にするとこうなるらしい。
Lv1 10
Lv2 10の2乗
Lv3 10の3乗
Lv4 10の4乗
Lv5 10の5乗
熟練度的に言えばLv2の時点で、既にLv1の10倍だ。
パッとしないが、なんとなくレベルを上げるのが難しいことは分かる。
この例えだと俺は、この世界の人達の平均の10万倍の魔術や魔法を使えるということになる。
ちょっと大げさな気もするが、そういうことになってしまう。
2つ目。
今度は“魔力値の平均値“について聞いてみた。
この世界の5割の人が、元々魔術や魔法との相性が悪い。残りの5割の人ですら、習得してもまともに使える人は一握りらしい。
攻撃に魔術を使うことは、かなり難しいことらしい。
テイルの言っていた“習えば誰でも習得できる”というのは半分くらいしか合ってない。
しかし、その魔法や魔術が使える一握りの人達でも、魔力値の平均は約1000〜1500程らしい。
俺、540000あるんだけど……。
3つ目。
“スキル”について聞いてみた。
スキルというのは、先程説明を受けた魔法や魔術のレベル概念には当てはまらず、レベルは上がりやすいのだという。
内容も本人の相性で決まったり、時には趣味で決まったりする。人それぞれ違うものを持っているらしい。
例えばグレイスさんは剣術が得意なので“剣術 Lv4“、護衛のボトフさんは弓が得意だから“弓術 Lv3”を持っているとのことだ。
つまり、その人が得意とする事を数値化したと考えれば良い。
だが、やはり俺が持っているスキルはどれも珍しいものらしい。
“耐性スキル”は、同じ苦しみを長く味わった者がよく獲得するもの。戦争から生き残った者や、訓練兵などに多いと言う。
俺で言えばずっと暴力を受けていたから“暴力耐性 Lv4”……いや悲しいな。
しかし彼らが言うに、“身体系スキル”は見た事も無い、との事。
これもチートに関係するのかな?
今回の件で、俺がどれだけ規格外な存在かを知ることができた。
テイル……ちょっとだけ希望を持って聞いてみたけどその希望は粉々にされたよ……平均って言ったじゃん……。
ここである結論に至った。
俺はテイルの言葉を間に受けすぎたのだ。初めての友達だからと、浮かれすぎたのかもしれない。
テイルのことを嫌いになったりは絶対無いけど、もし次会ったらちゃんと注意しておこう。
ーエアリスside
カイト君が用意してくれた食事を食べ終え、少し経った。外はもう暗くなっている。
夫のグレイスと、カイト君について少し話をしなければならない。
だが、話の内容が彼を傷つけたりしてしまうかも……彼には聞かせない方が良いかもしれない。
「カイト君。今日は色々あって疲れたしょう? お皿の片付けはしておくから、もう休んで」
「ぇ……で、でも……」
「大丈夫よ。それに、ここにいたら怖いでしょう?」
若干無理矢理だが、彼を寝室まで連れていく。寝室へ着き、手を繋いだままベットに座ってもらった。
突然の事に、彼は困惑しているようだ。
「あの……眠くない……」
「そうよね……ごめんね」
そう言いつつ彼の手を両手で握る。
突然寝室まで連れてこられ、不安そうな表情をしている。
しかし、グレイスとの会話が彼を傷つけてしまうかも知れないのだ。それは絶対避けなければならない。
想像魔法以外に習得している、もう1つの魔法を使った。
「ぇ……な、なに?」
突然魔法を使われた事に、彼は不安の声を上げる。
「心配しないで、カイト君。……これはね、安心してぐっすり眠れる魔法なの。とっても良い夢がみられるのよ」
実際は、手を握った人の精神を安定させるというよくある簡単な魔法だ。基本的に、子供を寝付かせる時に使われる。
「あのね。今日は色々あったから、とても疲れてると思うの。だからいっぱい休んでもらいたいって思ったのよ。驚かせてごめんね……」
それを聞いて、少し考える様子が見られた。
「うん……わかった、寝る……」
そう言うと、ゆっくりと布団へ入ってくれた。すでに魔法が効いているのか、うとうととしている。
「ありがとう。それじゃあおやすみなさい」
布団に潜っているカイト君の頭を撫で、部屋を出た。
食事をとった部屋へ移動すると、グレイス達が椅子に座って待っていた。
「彼は寝たのか?」
「えぇ、寝てくれたわ。本当にいい子よ」
軽い受け答えをしながら、カイト君が用意してくれた椅子に座る。
それを合図に会議が始まる。
「さて、カイト君は何者か、意見のある者」
グレイスが司会として話をふるとボトフが話し始めた。
「話の内容から、もしかすると彼は“魔力付与人型兵器”の可能性があります」
「やはりそれの可能性が高いか……」
“魔力付与人型兵器”
それは、対象に長期儀式によって普通ではありえない量の魔力を付与させ、“意思を持つ兵器”として利用する、というものだ
だが、それはあくまで理論上の話。
実際は対象の体が付与される魔力に耐えられず、崩れ落ちてしまうらしい。
それに加え、数十年前に非人道的という理由で禁止され、現在すでにその技術や知識は失われているどころか研究するだけで罪となる。
もし実現すれば、多くの命が犠牲になる。
そのため、その兵器は『厄災』とも呼ばれていた。
「そんな……じゃあ、あの子が言ってた“お母さん”って」
「あぁ、きっと“魔力付与人型兵器”を研究している犯罪者かそこらだろうな……」
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