第10話 設定の追加
ある程度涙を流した大人達は、落ち着きを取り戻してきた。
エアリスさんは俺を抱きしめたままだが。
「カイト君……辛いことを思い出させてしまったな。すまない」
「え? ……辛くない……お母さん、来る……だから、辛くない……よ」
わざとそっけなく答えた。
そりゃそうだ、こっちは親が迎えにきてくれると思ってる(設定)んだから。
とりあえず、これで同情を誘うという目的は達成された。
「そうか……今、聞くのは申し訳無いのだが、もう1つ聞きたいことがあるんだが……」
なんだ? 他におかしい点なんてあるか?
グレイスさんは少しためらうような様子を見せた。
「その……なんだ、君の能力についてなんだが……」
え? 能力? 魔術とか魔法のこと?
だとすれば別に変なところはないと思うけど……。Lv5で揃えられてるのは趣味なのか、とか聞かれるのかな?
「君の魔術、魔法のレベルが全て上限に達していることに関してだ」
……は?
「……は?」
思ったことが声に出た。いやそんなことはどうでもいい。
今レベル上限って言った?そんなはずはないだろ? Lv5だし……。
「何をどうしたら、そんな異常な数値になるのかを聞きた...」
「え、まっ待って……全部……Lv5……上限違う」
言葉を遮られたグレイスさんは、大きくため息をついた。まるで、『やっぱりな』と言いたそうな顔をしている。
……ちょっと待って? 話が見ない。平均値じゃないの? テイルそう言ってたよ?
困惑している俺を見たエアリスさんは体を離し、椅子の横に膝立ちの姿勢をとった。
そして、衝撃の事実を教えてくれた。
「あのね、カイト君。よく聞いてね」
「……?」
「魔法、魔術、スキルのレベルは“5”が最大なのよ」
「……へ?」
……よく聞き取れなかった。なんだって?
そんな顔をすると、エアリスさんはもう1度教えてくれた。
「魔法、魔術、スキルのレベルは全て、“5”が最大なの」
「……ええぇ!?」
この5年間で、1番でかい声が出たと思う。いやだから、そんなことはどうでもいい。
嘘だろ!? テイル!! 平均値って言ったじゃん!!
「Lv5の魔法や魔術を1つだけでも、持ってた人は歴史を見ても片手で数えられるほどしかいないの。でも、あなたみたいにLv5を複数持ってる人はきっと1人もいないわ」
歴史レベルでいないの!?
頭を抱えている俺を見て、エアリスさんは小さくため息をついた。
「カイト君。その様子だと知らないだろうから、教えておくが……」
まだあんの!?
今度はグレイスさんが何かを教えてくれるみたいだ。
「君の魔術、これは存在するものだからいいだろう。君の歳で全て習得しているのはおかしい上に、レベルも異常……だが、問題は魔法だ」
ま、魔法? レベル以外におかしいところがあるの? というか、“存在する”って変な言い方……。
「自然魔法、治癒魔法、空間魔法、空気魔法、音魔法、物体加工、ポーション作成……これらの魔法は見たことも聞いたこともない」
「……ぇ」
「つまりだな。これらは未だ、存在を確認されていない魔法ということだ」
えええええぇぇぇぇぇ!!!!
まじかよ! 俺そんな魔法使ってたの!?
「それに君は、エアリスの想像魔法を見ただけで習得したそうじゃないか」
見ただけで……? 俺は賢者で……あ、そうか。周りから見たらそうなるのか。
実際は賢者で覚えたけど、確かに普通にから見たら他の人が使ってるのを見ただけで習得したように見えるのだろう。
いや、でも待て。エアリスさんの鳥は真っ白でTHE魔法って感じでかっこよかったじゃないか。
「で、でも……エア……リスさんの、鳥」
「私の鳥? ……ちょっと待ってね」
そういうと彼女は、想像魔法の鳥を出して見せてくれた。
「……!」
だが、そこに現れたのは鳥ではなく、白いモヤのような物。それが“鳥の形“にまとまっているだけだった。
遠くからしか見ていなかったから、気づかなかったのだ。
それに比べて、俺の想像魔法の鳥は色はもちろん、細部まで再現されていて鳴き声まであげた。
それは、俺のレベルの高さを実感するのには十分だった。
「それにね、君が私にくれた“ポーション”って薬は……きっと国中……いえ、世界中探してもないと思うの」
ショックを受けている俺に、エアリスさんが追い討ちのように続けた。
思い返してみれば、この人達の前でポーション作成とか収納部屋を使った時も驚いてたな……なんで気づかなかったんだろ。
はぁ……テイル……話と違うよ……。
その事実に頭を抱える。
と、とにかくだ。エアリスさん達は、俺がなんでこんなに能力が高いのかを知りたいみたい。変にはぐらかしたら、変な目で見られるかも……。
そのために、今は納得のいく能力の説明をしないといけない。だけど、どうする?
これも、正直に『神(仮)にチートもらいました』だなんて言えるわけがないよね……。
「……!」
ここで思い出したのは大好きだったラノベ。
バトル物のラノベの登場人物に、『魔力実験の被験者』というのがいた。
確かその“魔力実験”は、被験体に膨大な魔力を押し込み“魔力兵器”として利用するという設定だったはず。
被験者も俺(中身は違うけど)みたいな子供だった。
ちょっと無理があるがこれでいくしかない。
というか、もう頭がこれ以上回らない。
なんとかしてそれっぽく説明しないと……大丈夫か? いや、なんとかするしかない。
「カイト君……もし話したくないなら……」
「……お母さん、何か言ってた……」
頭が真っ白だ。でも、ここで能力のことだけ黙ったりして、何かやましいことがあるとか思われたりしたらたまったもんじゃない。
「ぼ、僕に……力、おし……押し込む……授ける? 言ってた」
「え……!?」
彼女達は困惑しているが仕方ない。俺だって意味分かんないもん。
「へ、へーき……にするって……ずっと、ぎしき? しっしてた」
「……」
みんな黙って聞きいっている。できればボロ出そうだから早く終わらせたい……。
ここでなんとかさっきの話に繋げないと。
「で、でも……僕ダメ、言ってた……お母さん怒った……お仕置きされた……それで……」
「カイト君! もういいわ!」
エアリスさんが突然話を遮った。そして抱きしめてくる。
「ごめんね……辛いこと思い出させて……本当にごめんね……」
泣いているようだ。グレイスさん達も辛そうな顔をしている。
ふぅ……なんとか誤魔化せたみたい。
だけど……これからはただの孤児設定ではなく、魔力実験の被験者にされた孤児設定にしないと……。
そういえば、言ってから気づいたんだけど、この世界には魔力実験って実際にあるのかな?
でも、疑われなかったから似たようなものがあるのかもしれない……。
あ、そうだ。念のため後でさっき言った、お仕置きを受けた時にできた傷を“身体操作”でそれっぽく作っておこう……背中でいいか。
俺は小さくため息をついた。
まぁ……魔力実験がこの世界になかったとしても、今更どうにもならないから疑われたら何とかして押し切ろう……。
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