第9話 自分で考えた自分の設定

ーsideカイト


 男女の話し声で目が覚めた。


 声は大人びていて、複数人分聞こえる。

 女性の声はエアリスさんだろう。だが、男性のもので聞き覚えがあるような無いような……。


 ふと、ある事気がつき、辺りを見渡す。

 今いるのは俺の部屋である事を確認し、疑問に思った。


「……あれ? 森の中にいなかったっけ?」


 たしか、罠に獲物が掛かったからそれを確認しに森に入って……思い出した! そこで4人の男の人に鉢合わせしたんだ。罠を解除した後は覚えてないけど。


 起き上がり、窓の外を見る。いつのまにか空はオレンジ色になっている。今は夕方かな?


 ベッドから降り、声のする方の壁に近づき耳を当てる。

 聞こえてくる声の雰囲気からして、エアリスさんと男性達は敵対関係ではなさそうだ。


 流石に内容まではわからないけど……。


 すると、声が止まり1人分の足音がこちらに近づいてくる事に気がついた。


 ギョッとしてベッドに潜り込んだと同時に、誰かが部屋へ入ってきた。

 布団の隙間から覗くと、見慣れた色の髪が見える。


 ……エアリスさんかな?


「カイト君……起きてる?」


 心配そうな声はやはりエアリスさんだった。

 無視するわけにもいかないので、掛け布団から顔をのぞかせた。


「よかった……目が覚めたのね」


 反応を示すと、彼女は安堵した表情を見せた。


「他に……人、いる……?」

「ええ、いるわ……あの人達はね、私の家族なの。私のことを探しにきてくれたのよ」


 やっぱりそうか。ってことは、彼女の想像魔法の鳥は無事に届いたんだね。良かった。


「それでね……あの人達はカイト君に悪いことしちゃったから、謝りたいって言ってるの」


 悪いこと? あの森で何があったかは覚えてないけど……。もしかして、人恐怖症のせいでなにか誤解が生まれたのかな?

 なら、その誤解を解かないと。


「うん……行く」

「ほ、本当に? それなら、無理だけは絶対にしないで。怖かったらすぐにあの人達には家から出てもらうから」


 いやいや、確かにここは俺の家だけど、こっちの都合で怖がってんだから、そこまでしなくてもいいけどな……。


 そう思いながらもとりあえず頷き、エアリスさんと隣の部屋へと移動した。


 そこには森で見た4人の男性の姿があった。

 男性達を視認すると、当たり前のように人恐怖症が発動した。


 どうしたものか……理性は保てるけど、足が進まない。


「大丈夫よ、カイト君。私がついてるからね」


 そんな俺を見かねたエアリスさんがしゃがみ、俺の手を握り優しく語りかけてきた。

 すると、不思議と安心して恐怖心が薄れていく。まるで親に手を握ってもらい安堵する子供みたいだ。


 まじかよ……こんなことで人恐怖症のスキルって克服できるのか?……それとも、俺がちょろいのか?


 ふと目を向けると男性達は全員立っている。


 しまった……椅子が俺とエアリスさん用の2人分しかないじゃないか。たしか、収納部屋に予備の椅子がいくつかあったはず……。


 そう思い、収納部屋から椅子を4つ男性達の足元に出した。

 男性達は、突然現れた椅子にとても驚いている様子だ。


 ……? まぁ何も言わずに出したんだから、無理もないか?


「座、って……」


 男性達は警戒しながらも、椅子に座った。俺とエアリスさんも椅子に座る。

 手が握られたままなのは恥ずかしいが、こうしないと動けないので仕方ない。


 男性にエアリスさんが目で合図を送ると、正面の男性が穏やかな口調で話しかけてきた。


「カイト君。まずは、我が妻の命を救ってくれたことを心より感謝する。本当にありがとう。そして、森では勘違いから怖い思いをさせてしまったね。申し訳ない」


 感謝と謝罪を立て続けに行い、深々と頭を下げる。他の男性達も続いて頭を下げた。


「怖いの……スキルのせい、仕方ない……」


 舌足らずなりになんとか、スキルのせいであることを伝える。

 気にしていないことを知った男性達は、胸をなでおろしている。


 その後、男性達が順に自己紹介をしていった。


 エアリスさんの夫のグレイスさん。

護衛のボトフさん、ルイスさんとクリスさん。

 ルイスさんとクリスさんは双子らしい。顔がそっくりなのでなんとなく分かってはいたけど。


 俺も自己紹介として名乗った時、グレイスさんが真剣な眼差しで質問してきた。


「カイト君、突然で悪いのだが、1つ聞いても良いかな?」

「……うん」

「ありがとう。君はどうしてこんなところに1人で暮らしているんだい?」


 ……うん。絶対聞かれると思った。だから、こんなこともあろうかと俺の“設定”をちゃんと考えておいた。


「ごめんねカイト君。もし嫌だったら答えなくてもいいからね」

「ううん……大丈夫」


 こんな森の奥深くで子供が1人。これはどう見ても怪しい。かと言って、正直に『神(仮)に頼みました』だなんて、言えるわけがない。

 こういう時は、相手が怪しむような気にならないよう、同情させて気をそらせる事が1番良いと、俺は思う。


「お母さん……森で、待て……言った、ずっと待った……でも……まだ迎えこない……」


 この発言に周りは様々な反応をした。


 エアリスさんは口を押さえて、今にも泣きそうだ。グレイスさんは額に手を当て『やっぱり』とい言うような表情をしている。


 俺はさらに続ける。


「歩いて……ここ、見つけた……お母さん……来る、待ってる……頑張って生きる」


 さぁどうだ?


  “自分が捨てられたと知らずに、親の迎えを信じて待ち続ける子供”


 捨て子の定番の設定だが、俺の中では1番泣けるやつだ。


「カイト君……長い間、頑張ってたのね……」


 エアリスさんが涙声でそう言う。ここで追い討ちだ。


「長い? 長くない……ここいる……5年だけ」

「ごっ……!?」


 周りの大人達はみんな泣きそうな表情だ。


 よし、ここでもうひと押し。


「僕……役立たず、お母さんそう言ってた……次は役、立つ……頑張る……お仕置きも泣かない……我慢する……」


 するとエアリスさんが、泣きながら抱きしめてきた。


「辛かったわね...頑張ったわね...」


 うーん、やりすぎた?

 ……まぁ、実際のところ、俺も結構辛い思いしてきたことには変わらないから許してね。

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